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ITS業界記事 自動運転の法整備に新たな動き。そして、テスラ事故を受けたモービルアイとの契約解消とは

 米国開催の自動運転シンポジウムに世界が注目

今年も、米国(アメリカ)で自動運転シンポジウムを取材した。
AUVSI(The Association for Unmanned Vehicle Systems International)は、米国を本拠とする世界最大規模の自動・無人移動体に関する協議団体だ。米国防総省との関係が深く、無人偵察機、無人爆撃機、地雷を除去する陸上ロボット、さらにドローンに関して企業や教育機関が実用化や法整備について意見を交わす。

そうしたなか、最近では民間向けの自動運転車に関する協議を進めている。これは、米運輸省が所管する技術研究機関のTRB(Transportation Research Board)と連携するもの。
5年前からはAUVSIとTRBが共催するかたちで「Automated Vehicle Symposium」を年1回のペースで実施しており、筆者は過去4回取材している。
参加者は自動車メーカー・自動車部品、IT、通信インフラ、保険、そして大学などの教育機関や行政組織など、自動運転に係る幅広い分野の専門家だ。参加者数は年を追う毎に増加し、今年は約1200人に達した。その約2割が海外からの参加で、国別では日本が最も多い。自動運転については、日系ビック3であるトヨタ、日産、ホンダや、独系ビック3であるダイムラー、BMW、VWが日本やドイツでの実証試験を行っている。

一方、米国では、グーグルが完全自動運転の実用化を目指して独自の開発と実証試験を行っており、最近ではアップルも自動運転を含めたEV(電気自動車)の開発を行っていることが報道されている。
そのため、日本と欧州、さらに米国の自動車産業界としては、米国のITジャイアンツが自動運転を契機に自動車ビジネスの「パラダイムシフト(大規模な市場転換)」を起こすのではないかと、米国の動きを注視している状況だ。
また、今年4月後半には、グーグル、ボルボ、フォードとライドシェア大手のウーバーとリフトを加えた5社が、米連邦政府に対して完全自動運転の法整備に対するロビー活動団体を発足。その広報責任者に、NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration:国家道路交通安全局)の前長官を据えるという驚きの人選を行った。NHTSAは7月中を目途に、自動運転に関する総合的なガイドラインを発表するとしており、それを見据えて新たなる動きが起こったといえる。

こうして、世界が注目する米国政府の自動運転に対する動きの実態が肌感覚で分かる場として、AUVSIの自動運転シンポジウムに注目が集まったといえる。
ところが、驚いたことに、今年の雰囲気は昨年までと大きく変わっていた。

 安全第一の主張はテスラ事故の影響、さらに、テスラとモービルアイが契約解消

登壇した米運輸省のFoxx(フォックス)長官と、NHTSAのRosekind(ローズカインド)長官はそれぞれ、「Safety First(安全第一)」を主張した。米政府はこれまでも、自動運転車の普及において利用者の安全を重視していたが、議論の中心はあくまでも「ビジネスモデルの構築」に置いてきた。サイバーセキュリティなどの様々なリスクについては、ビジネスモデルを実行するなかで、随時対処していくべきだとの見解を示してきた。
そうした自動運転実用化に向けた上昇志向が、今回のシンポジウムでは「ひと息ついた」という雰囲気なのだ。これは筆者の個人的な感想だけではない。シンポジウム会場内で意見交換した自動車メーカー各社の関係者も、筆者と同様の印象を持ったと語った。

このような「変化」が起こった理由のひとつが、テスラ「モデルS」の事故だ。今年5月、米フロリダ州の一般道路で、テスラ「モデルS」が大型トレーラーに激突し、運転席にいた40代男性が死亡した。テスラによると、事故の際、自動運転機能「オートパイロット」が稼働していたが、トレーラーの貨物部分の壁面と、空の色との「差」を「モデルS」が搭載する画像認識システムが正しく認識できなかったという。同システムは、イスラエルのモービルアイ(Mobileye)とテスラが共同開発したが、この事故に対する2社の見解に相違があり、両社は契約を解消した。
この事案を受けて、世界各地から「様々な疑問や意見」が巻き起こった。

例えば、以下のようなものだ。

  • テスラのオートパイロットは、前車を追従するクルーズコントロールのACC(Adaptive Cruise Control)の応用編であり、これを自動運転と呼ぶのは正しくない
  • 技術的な法整備だけでなく、早期に倫理的な解釈に対する基準の整備が必要
  • モービルアイは、GM、BMW、ボルボ、日産など、単眼カメラによる画像認識で、デファクトスタンダード化しているが、テスラとの契約解消によって、自動車産業界全体に及ぼす影響が今後、どこまで拡大するのか予測できない

このように、テスラの事故によって、自動運転の本格的な量産化に向けた様々な課題が浮き彫りになったといえる。
米政府としては、その対応策を考慮中だ。米運輸省のフォックス長官は今回の講演のなかで「NHTSAによる自動運転ガイダンスは、今夏の後半に発表する予定だ」とし、当初の予定から数カ月延期することを明らかにしている。

 自動運転の法整備、国連協議の一方で米国が独自の基準作りを急ぐ

また、NHTSAのローズカインド長官は、自動運転ガイダンスは柔軟に対応するべきとの見解を示した。この柔軟性とは、NHTSAが独自に自動運転に係るデータ収集とその解析を行い、その分析結果に基づいた要項をガイドラインに随時盛り込み、最終的には全米統一の法整備を行うという意味だ。
実際、NHTSAの研究部門の責任者が講演で、2016年~2017年にかけて行う解析事項を詳しく紹介した。

自動運転の法整備については、日本と欧州主要国が中心となり、国連での協議を進めている。道路交通規則についての「WP1」と、安全・環境基準の分野についての「WP29」がそれに該当する。日本と欧州としては、こうした協議のなかに、米国を巻き込む戦略だった。
ところが、ここへきて、米政府が独自に法整備を行う姿勢を明確にしてきた。自動運転車の開発を進めている自動車メーカーや自動車部品メーカーとしては、「当面は、国連と米国との関係の様子を見る」ことになりそうだ。

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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