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ITS業界記事 相次ぐ自動運転中の事故。「責任はない」と主張する各社と、安全性の標準化動向

 謎多きウーバーの事故

自動運転の実用化に向けて、自動車メーカーや自動車部品メーカー、そして自動車産業に新規参入するIT企業による開発競争が過熱している。
そうした中、自動運転の在り方について根本的に考え直さなければならない重大な事故が今年3月、アメリカで立て続けに起こった。

1件目は、ライドシェアリング大手のウーバーがアリゾナ州テンピ(Tempe)で実証試験中に発生した。走行していたのは夜間で、自転車を押しながら道路を横断していた女性がはねられて死亡した。この事故が発生する直前の様子が車内と車外に装着されたカメラで撮影されており、その映像がテレビやネットで流れたことで、事故の原因について様々な憶測を呼んでいる。

例えば、次のような声がある。
「なぜ車両は歩行者と自転車を認識できなかったのか?」
「自動運転を安全に運行するためのオペレーターが5秒以上も車内モニターを見ているが、これは実験としての安全性が保たれているのか?」
「こんなことが起こっても、早期に完全自動運転の実用化が必要なのか?」
また、事故に対する技術的な責任について、ウーバーと自動運転システムの共同研究をしているボルボ、自動車部品大手のオートリブ(Autoliv)、そして半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)はそれぞれ、「弊社に今回の事故の責任はない」と主張している。ウーバーを含めたこれら4社は2021年までに、運転者がいない状態で走行できる完全自動運転車を実用化するとの発表を行っている。だが、今回事故を起こした車両の自動運転システムは、ウーバーが独自に開発したものだとしている。

さらに、今回の事故の背景は複雑だ。死亡した女性はホームレスで麻薬を常習していた過去があった。また、車内オペレーターは強盗容疑で有罪判決を受けた過去があった他、無免許運転で行政処分を受けたことが明らかになった。
そして、最も大きな謎は、なぜ地元警察が事故直前の映像を、事故発生の翌日にソーシャルネットワークを通じて公開したのか。そこにはなんらかの政治的な圧力があったのか。
本稿執筆時点で、今回の事故について連邦政府による調査が続いている。

  量産車での事故でも、自動車業界での危機感は希薄?

ウーバーに次いで、今度はテスラでも自動運転に関わる死亡事故が発生した。
これはテスラによる実験中ではなく、テスラの量産車「モデルX」を購入した個人が自動運転機能「オートパイロット」を作動中に起こった。
運転者はアップルの社員で、カリフォルニア州のシリコンバレー周辺のフリーウエイでの走行中に事故は発生。運転者の遺族はアメリカのメディアに対して、事故を起こした車両がオートパイロット作動中に事故が起きた場所で道をそれる状態になったため、テスラのディーラーに相談したが、テスラは同じ症状を見つけることができなかったとコメントしている。これに対して、テスラは車両のシステムは運転者に対して運転再開を求める警告を出したが、記録されたデータでは運転者が反応した形跡はなく、テスラに事故の責任はないと主張した。これに対して、連邦政府は、事故調査の結果が発表される前にテスラが独自解釈を発表したことを不適切だとコメントするなど、運転者の遺族、テスラ、そして連邦政府との間で意見の隔たりが目立つ。

このようなウーバーとテスラの事故を受けて、自動車メーカー各社は自動運転の安全性に対する社内でのチェック機能を強化する動きが出ている。
だが、自動運転の安全性については、各国や各地域の行政機関や警察が、実証試験を行う際のガイドラインを示すに止まっている段階で、自動運転の安全性について明確な規格が定まっていない。そのため、標準化に対する考え方は、企業間の競争を最優先する、いわゆるデファクトスタンダードを目指す動きが強い。

こうした状況について、アメリカ自動車技術会の世界カンファレンス(2018年4月10~12日、於:ミシガン州デトロイト)で基調講演したゼネラルモーターズ(GM)の幹部は「自動運転の技術の標準化は、これまでの自動車の考え方が通用しない」と指摘した。
半導体による演算能力の高性能化や画像認識のアルゴリズムの進化などが、比較的短期間で一気に進む可能性がある。そのため、エンジンや車体、またはEV向けの充電機器などとはまったく違う方法で、自動運転の規格化の議論が必要だということだ。

  誰が車両データを統括的に管理するのか?

ウーバーやテスラによる、自動運転に関係する重大事故が起こった直後であり、自動車産業界は自動運転に関して「企業競争の論理」を最優先している印象がある。
一方で、各国や行政機関の一部には、自動運転を社会インフラの一部として捉え、公共交通機関を中心として、商用車や個人所有車を含めた走行データのオープン化を求めるとする考え方がある。

筆者は実際に、欧州のある国の行政機関に出向き、そうした交通インフラの新しい形を目指す国策についての説明を受けた。
結局、自動運転の安全性を高め、さらに運用の効率化を図るためには、行政機関が個人情報保護を明確にした上で、データ管理と車両の運行管理をすることが求められるのではないだろうか。
次世代自動車の旗頭として注目が集まる自動運転。その普及のためには、企業間の技術競争だけでは乗り越えられない「社会と人」との関係に踏み込んだ議論が必要だと思う。

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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