日刊水産経済新聞 2009.2.25掲載 -桧山のかんどり連載レポート3-

ソナーが支える省エネ型イカ釣漁業

維持管理コストを削減 効率的に漁獲し満船に

高性能ソナーに驚き

工藤泰幸さん

工藤泰幸さん

兄弟3人ともが漁師という「工藤兄弟」の末弟、工藤泰幸さん。漁家に生まれ、高校卒業と同時に漁師の道へ入り24年、現在41歳。「第八十五泰安丸」を所有する。ひやま漁協のすぐ近くに両親が営む海産物直売所があり、昔からそこで漬けられたタラコの味に親しんできた。「今でも自分の家で漬けるタラコが一番うまい」と話す。

泰幸さんも、ソナーの効果をよく知る漁師の一人だ。国の補助を活用してソナーを導入したのは3年前。導入したのは、自船の周囲を45度ごとに高速で探索し、探索感度も高いセクタースキャニングソナーだった。

「(セクタースキャニングソナーは)探索するスピードが速く、岸壁の形もはっきり見える。以前から導入するならこのタイプだと思っていた」。

国の補助事業の実施を「チャンス」と捉え、導入した。すぐには使いこなせなかったが、「日々勉強を重ねて、今、ようやく使い方を覚えてきている状態」だという。

さまざまな副次効果

しかし、すでにその有用性を実感している。「ソナーを使ってかんどりした場合と、集魚灯を使う場合だと、1日の燃油使用量は2、3倍は違ってくる。人によっては1日おきにかんどりと集魚灯を使い分けたり、漁場で何時間かかんどりしてから、集魚灯を点灯したりしているが、こういう方法でも一定の燃油削減効果が得られる」。

第八十五泰安丸

「第八十五泰安丸」

しかも、このようにかんどりと集魚灯操業を併用すると、集魚灯の玉がより長持ちするという効果も出てくる。「玉にも耐用年数があるが、集魚灯での操業しかしない人は、だいたい1年に1回取り替えなくちゃならない。かんどりと併用する人は3‐5年は持つ」。

また、集魚灯を消すと、エンジンの回転数が落ち、船体への振動負担が軽くなる。これによる船体補修費の低減、エンジンメンテナンス費の低減といった効果も見込めるという。

「ソナーは確かに高価だが、こういう維持管理のためのコストカットも考えると、メリットは十分にある」。

ゆとりある船上作業

さらに、ソナーの探索能力が、水揚げの効率化に寄与することも強調する。「ソナーがない時は、漁場に行って、誰かの魚探(魚群探知機)に反応が出たら、その船の前へ、前へと位置取りをして、山勘で針を垂らしていた。

搭載したソナー。高度な魚群探索能力で好漁場を教える

塔載したソナー。高度な魚群探索能力で好漁場を教える

しかし、このソナーを使えば、効率的に魚群を探すことができる。昼間操業をする釧路などにいくと、上手な人たちは、潮の流れやイカの食いつきがいいときなら、針入れから2時間くらいで満船にして帰ってくる」。

効率よくイカを釣り上げることで、船上での選別作業や箱詰め作業に、より時間をかけられるようになった。「なるべく(木箱より)好値が期待できる発泡箱を作るようにしているので、このことは大きい」。

資源の“省エネ化”にも

道内の生鮮スルメイカの平均単価はここ数年、キロ170‐240円前後と、横ばいもしくはマイナスで推移している。今後も急激に単価が上昇することは考えにくい中、漁家経営においては、いかに経費を圧縮するかが課題となる。

泰幸さんも、この数年で燃費への意識が高まった。漁場では、漁獲したイカの数量と操業時間から、頭の中で採算を計算する。「かんどりの場合だと、燃油がかからないから、大体発泡100ケースくらい漁獲すれば経費がとれ、それ以上で利益が出てくる。少ない漁獲量でも利益が出せる」。経営コストの削減は、資源的な「省エネ」にもつながっているといえそうだ。

「好きで入った商売だから、死ぬまで漁業を続けたい」と、泰幸さんは語る。その上で、ソナーを活用した現在のやり方が「一番いい方法だ」と太鼓判を押す。ただし、「もっといいイカの獲り方があれば別」だ。今は潮の流れを測定する「潮流計を付けたい」と考えている。漁業を支えるテクノロジーへの期待度は高い。

(つづく)