日刊水産経済新聞 2009.2.26掲載 -桧山のかんどり連載レポート4-

ソナーが支える省エネ型イカ釣漁業

漁業体質強化する技術次代に向け一層普及へ

漁場で広がる選択肢

「第三十五泰安丸」に塔載されたソナー(右端)。工藤智浩さんは漁船はハイテク化の時代と語る

「第三十五泰安丸」に塔載されたソナー(右端)。工藤智浩さんは漁船はハイテク化の時代と語る

「漁師は獲ってなんぼの商売だから、そこに魚がいれば、どんな方法を使ってでも絶対獲る。それが俺の漁師としての信念だ」と語るのは、「第三十五泰安丸」の工藤智浩さん。現在46歳。前回登場の工藤泰幸さんの兄である。

3年前に国の補助制度を活用し、高速、高感度で魚群を探索するセクタースキャニングソナーを導入した。

ソナーは、集魚灯を点灯しない「かんどり」において、「絶大なる威力を発揮する。(かんどりは)ソナーがなければできる商売ではない」と力を込める。

「ソナーで魚群を見つけて、そこに船を持っていって針を垂らすことができる。集魚灯を使う必要がなくなり、燃油代を削減できる」。

ソナーでうまく漁獲ができない場合は、集魚灯に切り替えることもできる。「その判断は船頭の勘一つにゆだねられるが、漁場でそうした選択肢が広がったということが、ソナー導入の一番の利点ではないか」とする。

漁業者のジレンマ

「魚がいればどんな方法でも獲る」と言い切った智浩さんだが、最近ではそうもいかない「ジレンマ」も抱える。燃油価格の上昇のほか、資源保護の面からも、思うままには操業ができなくなっている。

桧山を含む日本海北部のスケソウは、資源の減少が懸念されている魚種の一つで、TAC制度で管理されている。「獲りたいという気持ちはあるが、資源のことを考えれば、今はぐっと我慢するしかない」と、歯がゆさを滲ませる。

「漁師をやってきたのは金になる商売だったから」と、智浩さんは明言する。「かつて漁師はもうかった。10代のころ、他の仕事をしている同年代の奴らは手取りで7‐8万円くらい。俺は40‐50万もらっていた。しかし、最近では水揚げも減り、もうからなくなった。資源的にも経済的にも、次の世代につないでいく方法が見当たらない」と、厳しい現状を吐露する。

未来見据えた備えを

乙部港。浜がにぎわい続けるために、次代への対策が求められている

乙部港。浜がにぎわい続けるために、次代への対策が求められている

桧山地区を含む道日本海側は、資源減少、磯焼け、海獣被害などの問題を抱え、道内の他地域と比べても、特に厳しい漁業経営を強いられている地域といえる。

こうした中、JFひやま漁協の新川正己常務は、今後の課題として「いかに地場資源を育成していくかが重要」と指摘する。これは、現在同漁協の取扱金額の4割を占めるイカ、スケソウが、「イカは年によって来遊の仕方が違う」ほか、「スケソウは資源減少に加え、数年前からオットセイによる食害もみられるようになってきた」など、年による漁獲変動が大きいためだ。

そこで同漁協では、繁殖保護事業として、ウニの種苗放流やアワビの養殖などに着手、昨年は道の事業として奥尻でナマコの種苗約10万個を放流した。

資源問題に加え、魚価低迷や労働人口の減少などもあり、取り巻く環境は厳しいが、新川常務は「この地区にはまだ若い漁業者がいる」と話し、前を見据えていく必要性を強調する。

今一番心配していることは、「もう一度去年のような燃油高騰が起きること」だという。「あらかじめ何かの対策を打っていない地域は、採算がとれなくなり、特に日本海側の漁協、漁業者は立ち行かなくなる。そうなれば地域経済も崩壊する」と、危機感を強める。省エネ型操業を実現するソナー導入を推進してきたのも、そうした将来への「備え」の一環である。

ソナー拡大の可能性

イカを「集める」から、魚群を「見つける」という方法へ―。この転換により、燃費のかさんでいたイカ釣漁業は、省エネ型漁業へと変貌した。支えたのは、いうまでもなく、高い魚群探索能力を持つソナーだ。

ソナーは国内では、大中型巻網やサンマ棒受網漁船などに導入されているが、本州などのイカ釣漁船への普及はまだ低いとされる。しかし、燃油価格の堅調相場が長期的な傾向になりつつある中、省エネ化は次代の漁業における重大なテーマであり、国の政策も漁船漁業の省エネ体質への転換を促進している。

桧山のかんどりのような成功例に学びながら、今後、ソナーを含めた省エネを支える舶用機器の普及が、一層拡大していくことを期待したい。

(おわり)