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世界の重要インフラを強くする!時刻同期は2周波GNSS受信の時代へ

  • タイミング市場

※ 本ページは、テレコミュニケーション誌 2023年12月号に掲載された当社記事になります。

モバイル通信をはじめとする社会インフラを陰で支えている時刻同期。だが、ジャミングなどを受けて正確な時間が受信できなくなると、さまざまな障害が起こりかねない。そんな不測の事態を避けるため、「最高水準の時刻精度」と「高い堅牢性」を共存させるのが、2周波対応GNSS受信機「GT-100」だ。

重要インフラを支えるGNSS時刻同期

通信や金融、放送、そして電力といった経済・社会インフラは24時間365日、いつでも利用できるのが当たり前。携帯電話が使えない、あるいは金融取引ができない事態が生じれば、その影響は大きく、メディアでも大きく報じられる。

これら重要インフラの正常な稼働は、何重もの仕組みに支えられている。衛星測位システム(GNSS)によって得られる標準時(UTC)に基づく「時刻同期」もその1つだ。日常生活で求める水準とは文字通り桁違いの、例えば、5Gのモバイル通信ではナノ秒単位の確度で時刻を合わせることによって基地局同士の電波干渉を防ぎ、通話やデータ通信を行えるようにしている。

この時刻同期システムに求められるのは、まず「確度」と「精度」だ。一般的なITシステムや電子機器で要求される確度はミリ秒からマイクロ秒レベルだが、5Gネットワークでは、これがナノ秒(ns)レベルになる。ITU-Tが定めた国際標準であるG.8272 PRTC-Aでは100ns以内、PRTC-Bは40ns以内に誤差を収めるよう求めている。

さらに、5Gをはじめとする重要インフラの時刻同期には、もう1つ必須の要件がある。何があろうと同期サービスを止めない堅牢性だ。時刻同期の大本となるUTCの取得には、GNSS受信機が用いられるケースも多いが、その場合、ビルの建て込んだ都市部では場所あるいは時間帯によって衛星が見通せなくなり、信号の受信が困難になる可能性がある。また、ジャミングの影響を受けることもあるだろう。そんな不測の事態が起こっても、常に正確な時刻を刻み続ける堅牢性が求められるのだ。

ジャミング受けてもサービス継続。高い堅牢性を実現する2周波対応

そうした観点から市場で注目を浴びているのが、「2周波対応(デュアルバンド)」のGNSS受信機だ。
従来は、L1帯(1575.42MHz)の信号のみを受信する1周波対応の受信機が主流だったが、2周波対応の受信機はL1帯に加え、L5帯(1176.45MHz)の信号も受信できる。この2周波受信に対応した新モジュール「GT-100」をリリースしたのが、長年にわたり時刻同期用GNSSモジュールを市場に届けてきた古野電気だ。システム機器事業部 開発部 要素技術課 主任技師の橋本邦彦氏は「L1受信にトラブルがあった場合でも、L5信号によってインフラとしてのサービスを継続できる」と話す。まさに堅牢性が求められる重要インフラにこそ必要なソリューションであり、L1/L5の両方に対応することで、堅牢性を高めるメリットがあるという。「2周波を広めることで、世界の重要インフラを強くしたい」と同氏は力を込める。

全世界のGNSSに対応し、L1/L5帯の2周波受信をサポートする新世代の時刻同期用GNSS受信モジュール「GT-100」
全世界のGNSSに対応し、L1/L5帯の2周波受信をサポートする新世代の時刻同期用GNSS受信モジュール「GT-100」

ジャミングやスプーフィング攻撃を受けたり、他の無線システムの発する電波が想定外のノイズとなったりすることで、GNSS信号の受信が阻害されてしまうケースは実は珍しくない。解消するにはエンジニアが現地に行って調査・原因究明に当たる必要があるが、2周波対応受信機であれば、L1帯が止まっても、L5帯でサービスを継続できるし、逆もまたしかりだ。「障害発生時に現地に人を派遣して調査・対応する人件費を考えると、2周波は十分に見合った投資と言える」(橋本氏)

ジャミング/スプーフィング対策には、妨害電波を検知・遮断するGPSファイアウォールを導入する手もあるが、これには100万円以上のコストがかかる。携帯基地局はもちろん、防災無線や警察無線、金融取引や電力制御のように多数の受信機が必要で幅広く使われるインフラであればあるほど、そのコストはかさむ。GNSS受信機自体の堅牢性を高める「2周波対応」は、コストと安定性のバランスを取るためにも有効なソリューションと言えそうだ。
加えて、2周波対応には、GNSSには付きものの電離層による信号遅延を補正でき、時刻や測位の精度を高めることができるメリットもある。

L1帯に強いジャミングを入力した場合の信号強度の推移。2周波対応により、仮にどちらかの信号が妨害を受けても、もう一方の信号で時刻同期を継続できる
L1帯に強いジャミングを入力した場合の信号強度の推移。
2周波対応により、仮にどちらかの信号が妨害を受けても、もう一方の信号で時刻同期を継続できる

従来機種の売りはそのままに、ユーザーの声に応えてレベルアップ

2周波対応のGNSSモジュールとして満を持してリリースされた「GT-100」は、古野電気が得意としてきた高い時刻精度・確度と、堅牢性の高さを両立させるモジュールとなっている。

古野電気のGTシリーズは元々、チップからソフトウェアに至るまですべてを自社開発することで、現行の1周波対応機種でも、4.5ns未満という世界最高クラスの時刻精度を実現してきた。 新製品のGT-100は、その蓄積を踏まえた製品だ。たとえL1が受信できない状態でも、L5受信だけでスペックを満たす。2周波対応のGNSS受信機は他にも存在するが、サービス停止が許されない重要インフラ市場で要求される確度・精度と高い堅牢性を両立したことが、“フルノならでは”の強みだと橋本氏は強調する。GT-100は、G.8272 PRTC-A/PRTC-Bに対応し、UTCに同期した高確度な時刻を出力する。パルス出力に加え、10MHzおよび2.048MHz/19.2MHz/30.72MHzといった無線通信向けのクロックをダイレクトに出力することも可能だ。

古野電気ではGNSS受信モジュールに加え、L1帯とL5帯の2周波に対応したアンテナ「AU-500」も同時にリリース。2周波対応ならではの性能を100%発揮できる環境を整えている。 そして、GT-100が備える特徴はこれだけではない。時刻同期の堅牢性を高め“世界の重要インフラを強くする”ためのさらなる機能を詰め込んでいる。

1つが「ホールドオーバ」だ。ホールドオーバとは、アンテナ故障等により信号を取れなくなった場合に、修理・メンテナンスを行う間の時刻精度を維持する機能のこと。GNSS衛星信号が短時間中断した場合に一定の性能を維持する機能で、都市部などにおいて発生する通信途絶に対処したいというユーザーの声を反映して実現させたのだという。GT-100ではこのホールドオーバに対応している。

L1/L5に対応したデュアルバンドアンテナ「AU-500」
L1/L5に対応したデュアルバンドアンテナ「AU-500」

ビル街での精度劣化は最小限。インドのNavIC受信にも対応

ビルが建て込んで衛星の見通しが悪かったり、多数の反射波が生じる場所でも良質な衛星信号を選ぶことができる「ダイナミック・サテライト・セレクション™」も、従来機種から引き続き搭載している。これはNTTが考案したアルゴリズムに基づく耐マルチパス技術で、都市部の過酷な環境において精度劣化を抑えるキー技術の1つだ。

古野電気では大阪・中之島にテストベッドを設け、GNSS受信機にとって過酷なビル街での検証も行っている。「L1帯単体の場合に比べ、L1帯とL5帯の2周波対応では誤差が少なくなるが、さらにダイナミック・サテライト・セレクション™を組み合わせることによって、誤差が限りなく0に近づくという検証結果が得られている」(橋本氏)

全世界のGNSSに対応

もう1つ、「フルコンステレーション」も見逃せない特徴だ。米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDou、日本のQZSS、そしてインドのNavICと各国のSBAS(衛星航法補強システム)に対応している。これにより、各国・地域に合わせた製品展開が可能となる。

以前から、世界最高水準の時刻精度4.5nsを実現し、都市部での性能劣化を抑制する機能を備えてきたGTシリーズだが、GT-100はさらに、2周波対応による堅牢性も実現。モバイル基地局に求められるキャリアグレードの品質を実現し、不測の事態が起きても、また過酷な環境でもサービス継続を支援する受信機と言えるだろう。携帯電話ネットワークをはじめ、経済・社会インフラ全般で活用されることが期待される。

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