※ 本ページは、テレコミュニケーション誌 2025年10月号に掲載された当社記事になります。
社会を支える重要インフラの正常な稼働は、GPSに代表されるGNSSを利用した高精度な時刻同期技術に支えられている。しかし今、地政学的リスクの高まりにより、GNSS信号の信頼性を揺るがすジャミング/スプーフィングが増加している。古野電気はこの事態に対処することが「ベンダーの使命」と捉え、技術開発により一層力を入れる。
携帯電話基地局や放送設備、電力網といった重要インフラは、GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)を利用した高精度な時刻同期に大きく依存している。しかしそもそも信号仕様がオープンなGNSSはジャミング(妨害電波)やスプーフィング(欺瞞信号)に対し脆弱性を抱え、さらにはLTE基地局の干渉にも弱い。
そのため、GNSSの受信機やアンテナのベンダー各社は対策に力を入れている。対策強化の背景の1つが地政学的要因だ。ウクライナとロシアの国境周辺やガザ地区などの世界の紛争地域では、GNSSジャミングが常態化している。スプーフィングの報告も相次ぐ。
こうした状況下、ノルウェー政府は2022年から「ジャマーテスト」を開催している。軍や政府系機関、研究機関、ベンダー各社がスカンジナビア半島北端近くのアン島(アンドーヤ)に集まり、実地でジャミング耐性を検証する公開試験だ。通常、この種の試験はその性質上、公開で行われることはほとんどない。オープンに参加が可能なほぼ唯一の機会がジャマーテストなのだという。古野電気は2024年9月の第3回に、単独の日本企業として初めて参加した。
同社の橋本邦彦氏は、参加のモチベーションをこう説明する。
「1つは、当社のGNSS受信機の評価がその場で得られることです。大手通信機器ベンダーをはじめとする当社製品のユーザーが集まり、しかも実地で運用する様子を間近に見られる機会は他にありません。脆弱性に対して1つひとつ対策し、未知の事象にも対応できるようにすることがGNSS受信機ベンダーとしての使命と考え、参加を決めました」
北極圏に位置するアン島は軍事基地やロケット射場も擁する重要なエリア。海に面したテストサイトは急峻な山に囲まれ、山頂から妨害電波を発しても外部への影響がほとんどないという地の利がある。
5日間のテスト期間中、橋本氏らは日本との時差を生かし取得したデータを古野電気本社で解析し、結果を翌日のテストに反映するなど、検証と改良のサイクルを急ピッチで回したという。
「本気のジャミングを受けないと、本当の意味での脆弱性対策になりません。ロシアと国境を接するノルウェーでは、攻守両面において軍の本気度も違います。当社は検証項目の“100%クリア”を目指しテストに臨んでいます」と橋本氏は語る。

ジャマーテストの実験の模様。屋外にアンテナを設置し(左)、参加者は競合する同業他社とも机を並べて作業した
ジャマーテストでの検証結果は、すでに製品の脆弱性対策に生かされている。
一例がデュアルバンドGNSS受信モジュール「GT-100」だ。GT-100はL1帯(1575.42MHz)の信号に加え、L5帯(1176.45MHz)の2周波受信に対応する。L1が受信できない状態でも、L5受信だけで必要な性能を維持できるというユニークな受信機だ。他の2周波対応のGNSS受信機にはなかなか見られないこの機能は「重要インフラ市場で要求される確度・精度と高い堅牢性を両立した」(橋本氏)ことで市場で評価されているという。

デュアルバンドGNSS受信モジュール「GT-100」
国際標準であるG.8272 PRTC-A(誤差100ナノ秒以内)/PRTC-B(誤差40ナノ秒以内)に対応し、世界の標準時刻の基準であるUTC(協定世界時)に同期した高確度な時刻の出力が可能であり、さらに、日本の準天頂衛星「みちびき(QZSS)」が2024年、欧州の「Galileo」が2025年から提供を開始した、なりすまし信号識別用の新しい信号に対応するファームウェアアップデートも近く予定。堅牢性をより高める。
ジャマーテストで得られた知見は、2026年夏ごろ発売予定の新製品「GF-100」にも反映される。GFシリーズは高性能発振器を搭載する時刻同期用GNSSモジュール。現行の「GF-88」はシングルバンド対応だが、GF-100はデュアルバンド対応に加え、GNSS信号の途絶時に内蔵発振器を用いて性能を維持するホールドオーバー機能も強化。現行製品では落雷などによる故障時の代替手段としての利用だったが、新製品ではジャミング/スプーフィングによりGNSS信号の健全性が損なわれた場合でも切り替えて運用できるようになる。
両製品は9月15日から19日にかけて開催された、2025年のジャマーテストでも検証された。市場投入に向け機能に一層の磨きをかけている。
GNSSモジュールによる脆弱性対策に加え、LTE基地局からの干渉を抑える決め手となるのがアンテナだ。
携帯電話基地局の運用には高精度な時刻同期が不可欠であり、GNSSがそれを提供する。しかしLTE基地局の発する強い電波が微弱なGNSS信号に干渉する場合があり、GNSS利用の信頼性を損ねている。時刻同期用マルチGNSSアンテナ「AU-500」は、その干渉対策も実装。デュアルバンド対応で高い耐候性も特徴だ。
この耐干渉性能をアピールするうえで最も説得力を持つのは実環境でのデータだが、その取得には至っていなかった。そうした折に、立命館大学の協力を得てフィールドでの干渉実験が実現した。

時刻同期用マルチGNSSアンテナ「AU-500」(左)と、同機のLTE基地局干渉低減効果の実験環境
実験では、2台のAU-500で干渉対策の有無による信号の受信レベルを比較した。その結果、対策なしのアンテナは平日日中に非測位となるケースが頻発したのに対し、対策ありではAU-500は常に安定した信号レベルを維持した。
「アンテナがこのような干渉対策を備えているかは、一般的なスペック表からは読み取ることができないため、検証済みのAU-500を利用するのが最適解です。FURUNOを信じてください」と橋本氏。
精度・確度と堅牢性を象徴する「FURUNO」の青いロゴは、GNSSの安定運用に欠かせない存在と言えるだろう。

GPS 信号の受信レベル比較試験の結果
L1/L5の2周波受信により世界最高水準の堅牢性と時刻精度を実現
L1シングルバンド受信機でありながら、オープンスカイでの時刻精度4.5ns(1σ)未満という世界最高水準の性能を実現。