コラム
GPS/GNSS時刻同期に悪影響を与える代表的な障害

  • タイミング市場

GNSS受信機を用いることで、正確な時刻を手軽に得ることができます。今ではモバイル通信基地局やテレビ中継局、地震計、電力グリッド、金融取引など、世界中の社会インフラにGNSS受信機から得られる正確な時刻が使われています。24時間365日、停止してはならないサービスの一端をGNSSは支えています。その一方で、GNSSは特有の脆弱性を抱えています。GNSS受信機をご検討の際は、ご利用シーンで安心してお使いいただけるよう、GNSSの脆弱性についても理解を深めていただくことが重要です。フルノでは、これらの時刻劣化への対策を講じており、それぞれ技術白書で解説しています。ここでは概要をお伝えします。

GNSSが抱える脆弱性と対策

GNSSの脆弱性と利便性は表裏一体です。GNSS受信機は衛星からの無線電波を捉えて位置の測位と正確な時刻を算出します。このため、世界中どこでもGNSSアンテナを設置するだけで利用できるといった利便性を提供します。一方で、対流圏や電離層による伝送遅延によって、位置と時刻の算出結果の劣化が生じます。対流圏や電離層による伝送遅延は遅延のモデル式によってある程度補正できますが、高層ビルなどによって電波が反射するマルチパスの影響はこれらより大きい誤差要因として、時刻算出の観点においても認識されています。マルチパスの影響を低減する対策はGNSSを利用した時刻同期の必須事項となっています。
また、アンテナの故障や隣接周波数帯域の他の無線システムからの不要電波によっても無線電波の受信障害が発生します。近年は、意図的にGNSS電波の受信を妨害するためのジャミング信号の存在も大きな問題となっています。ジャミング信号を低減する対策とともに、万が一受信中断したときの対策も必要です。
GNSSは衛星―受信機間の通信プロトコルが公開されていることも大きな特徴です。これによって、すべての人々が等しくこのサービスを享受することができます。一方で、衛星になりすました疑似電波(スプーフィング)も簡単に作成することができ、これによる誤った位置測位・時刻算出も大きな問題となっています。受信した信号がスプーフィングであることを認識してこれを使用しない対策が必要です。


GNSSの脆弱性による時刻性能の劣化例

マルチパス

これまで、GNSSを利用した高精度時刻同期を実現する場合、GNSSアンテナの設置条件は見晴らしの良い場所、すなわちオープンスカイである事が大前提でした。ビル街や見通しの悪い山間部では、アンテナはGNSSからの信号を直線的に受信できず、周囲の構造物によって反射・回析した、いわゆるマルチパスと呼ばれる信号を多く受信してしまうためです。GNSS受信機がマルチパス信号を使用してしまうと、時刻精度が劣化します。
次世代モバイル通信規格5GやV2X(車車間/路車間通信)では、都市部に多数の無線局を設置します。マルチパス環境下においても正確な時刻を使いたいというニーズが高まっています。

受信中断

GNSSによる時刻同期システムの運用開始後の代表的なトラブルが、GNSS衛星からの信号の受信中断です。GNSS受信機は、衛星から届く信号を使って正確な時刻を作り出しているため、受信中断はシステムに重大な問題を引き起こします。
受信中断の具体例としては、GNSSアンテナの故障、アンテナと受信機間のケーブルの断線、アンテナ周辺の遮蔽物による信号遮断、大規模な太陽フレア発生による信号受信レベルの低下、などが挙げられます。
システムの安定した運用に向けて、受信中断にどう備えるか、事前に十分検討しておくことが大切です。

妨害波(ジャミング)

衛星から放送されているGNSS信号はもともと非常に微弱なものですので、アンテナの周辺にノイズ源や信号源が存在していると、それがジャミング信号として作用し、GNSS信号の正常な受信を妨げる場合があります。
最近では、意図的にGNSS信号を妨害するデバイス(GNSSジャマー)がネットショップで簡単に買えるようになりました。個人が、自分の位置を知らせないために使うケースもあります(違法行為です)。GNSSの普及にしたがって、GNSSジャミング信号による問題も、近年増加傾向にあります。

なりすまし(スプーフィング)

悪意のある者がGNSSを装った偽物の信号を放送して、位置や時刻の情報を誤認させる『なりすまし信号』が問題になっています。2017年6月以降、実際に黒海で船舶がなりすまし信号の攻撃を受けるようになってから、特にその注目度を高めています。時刻情報を利用するGNSS受信機においても、なりすまし信号を受信すると、時刻計算を誤りシステムに悪影響を及ぼします。モバイル通信基地局などでは、通信できないといった大きなトラブルを引き起こしかねません。
近年、ソフトウェア無線機が安価に入手できるようになってきたことから、なりすまし信号への懸念が高まってきています。

参考資料

GNSSに起因する代表的な障害について、それぞれ技術白書をご提供します。
個々の障害に対して、受信機側ではどのような対策をしているのか、効果の程度、製品の選び方などを時刻同期専門のエンジニアが図表を交えながら解説します。
初めてGNSS受信機をご検討されるお客様はぜひ目をお通しください。
技術白書「シングルバンドで時刻精度4.5ns(1σ)」とあわせて5種類まとめてダウンロードできます。

  1. マルチパス
    技術白書:市街地で世界最高水準の時刻精度
  2. ジャミング(妨害波)
    技術白書:GNSSジャミング(妨害波)への対策について
  3. なりすまし(スプーフィング)
    技術白書:GNSSなりすまし信号への対策について
  4. GNSS信号の受信中断
    技術白書:GNSS受信が中断した時の対策『ホールドオーバ』について

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科学技術ライター 喜多充成氏