建設DXジャーナル 現場3.0の最前線 建設DXジャーナル 現場3.0の最前線

建設DX関連記事 AR(拡張現実)導入を検討するために知っておくべきことは?

フルノは、2023年12月13〜15日に東京ビックサイトで開催された「第8回 JAPAN BUILD TOKYO -建築の先端技術展-」に出展し、当社ブース内で3日間にわたり「建設DXセミナー」を開催しました。建設DX Journalでは、そのセミナーのダイジェストを紹介します。

今回は、建設現場におけるAR(拡張現実)がテーマです。セミナーでは、AR/MR事業を展開するエピソテック社の内藤優太代表取締役が、企業や業界を超えた活動内容や事例について紹介しました。

 ARを理解するポイントは三つ ただしARの定義が人によって異なる面に注意が必要

今回は、一般的な知識としてAR(拡張現実)とは何なのかについて、現在と未来について話しながら、ユースケースも紹介していきます。当社はAR専業としておりまして、AR現場支援システムを提供しております。
機械や設備の現場関連でスタッフ教育に課題を持つお客様を中心に導入されており、最近では、JALグランドサービス社様に教育という観点で導入頂きました。今、ARが本当に浸透してきているなと強く感じております。建設業界に関しては、今まさにこれからどんどん導入されようとしていまして、当社のAR製品は国土交通省管理下の新技術活用情報システム「NETIS」に登録されています。

今回は、三つのポイントに絞って紹介したいと思います。1点目は、ARと聞いてどの種類のARかということが判断できるようになること。2点目はなぜ今、ARなのかがわかる。3番目として、もしARの導入を検討されている場合は、将来を見据えた上での検討ができることです。

まず1点目についてARは実際のところ、人によって定義が異なりますが、ここでは私なりの噛み砕き方で一般的な説明をします。ARとは単的に言うと、現実世界にデジタル情報を重ねて表示する技術のことです。たとえば、スマホのカメラを起動すると、現実世界がカメラ越しに画面に映し出されますね。その上に、デジタル情報が3次元状に重ね合わせて出てきます。

表示のイメージ

ARは、デジタル情報の重ね方によって違ってきます。今お見せしたのは、次の表で示したうちの真ん中の例です。重ねる対象は、カメラから得られる現実世界の画像です。そこに画像や動画を重ねます。当社はこのタイプのARに注目して開発しています。

デジタル情報の重ね方

ARには、これ以外にも色々あります。ARの概念について捉え方が違うとミスコミュニケーションが起きやすいので、注意が必要な部分でもあります。ARにはポピュラーなものとして三つほどあると言えます。それぞれ、デジタル情報の重ね方で変わってきます。建設業では、表の左側の事例が多いです。重ねる対象は現実世界で、重ねるものは物理ディスプレイです。ディスプレイには、普段スマホで見るような画面を表示させます。よくあるデバイスとしては、RealWearやVuzixのようなヘッドマウントのディスプレイですね。これもARと言われるものですが、先ほどのスマホの例とはちょっと考え方が異なります。特に現実世界に対して3次元的に情報を重ねるわけではありません。ハンズフリーにより、どのような状況でも情報にアクセスできるので現実世界が拡張されているのだという主張です。そのため、人によっては「これはARではない」という人もたまにいます。

2番目の真ん中の例が、さきほど述べた例です。重ねる対象はスマホのカメラ画像です。カメラ画像上に、3次元的にテキスト等を配置して画像合成する事で重ねます。1番目の例と比べると、現実の場所を意識した上で情報が出ているので、溶け込んでいる感が結構高いという特徴があります。代表的なデバイスとしては一般的なスマホですね。最近の例ではMeta Quest 3がこれに当たります。あくまでもカメラ画像を元にして、情報を重ねるという技術です。最近、結構注目されていると思います。

ARにかなり興味がある方は、3番目の例を連想するかもしれません。これも1番目の例と同じように、現実世界に対して情報を重ねます。しかし、情報はホログラムとして表示され、3次元的に重なります。そのため、ARの溶け込んでいる感としては、本当にそこにあるような感覚で情報を得られます。この三つの中では、ユーザー体験もしくはAR体験としては最も素晴らしいですね。代表的なデバイスとしてはHoloLens2などがあります。

これら三つの例が、代表的なデバイスです。もしARについて話すときには、相手が指すARとは具体的にどれのことなのか、まずこの三種類を思い浮かべて話すようにすると、ミスコミュニケーションは起こりづらいと思います。私も実際に、営業する際にかなり気をつけているポイントです。表の右の例は、人によってはMR(複合現実)だと言う人もいます。

 DXの進展→情報が増える→利用者の情報確認の負担を下げたい

ARがなぜ今、注目されているかというと、建設業や物流業界の課題である「2024年問題」が影響しています。今までの作業工数で稼働することが難しい状態になっており、いかに一人あたりの作業時間を短縮するかが急務となっています。デジタル技術の進化とともに、デジタルトランスフォーメーション(DX)にチャレンジしようという流れが背景にあります。DXが進むことで、情報がどんどん集まってくるようになります。

代表的なDX例

そこで、集めた情報を理解することが次に問われる課題です。その時にARが活躍します。実際に情報をみる管理者や現場の方が、情報がたくさん出てきてしまって見づらくなり、把握したり理解したりすることが面倒に感じられるような時に、ARが使われます。ARの代表的なユースケースとしては二つあります。このうちの一つが、直感的に情報を確認したいとき。3Dで情報と現物を重ねて見られる点で役立てられます。二つ目は、作業しながら情報を見たい、つまりハンズフリーで情報を確認したいような時に、ARが使われます。

ARが注目されているのは、こうした課題に対応することに加えて、シーズ的な観点もあります。ARの技術自体は10年以上前から注目されていましたが、当時は使えるアプリがなかったことと、デバイスの制約や、技術がそもそも成熟していないなどの理由で、なかなか実用化されませんでした。皆さんがお持ちのスマホなどでもわかるように、かなり性能が良くなってきており、ARを走らせることができるようになってきました。

先に示した表の左端のタイプのようなヘッドマウント型のディスプレイも色々と出てきて、以前は高価なものしかなかったのですが、今は10万円程度で買えるデバイスが出てきています。現在は先ほど触れた市場のニーズと、ARという技術のシーズの観点がちょうどマッチングし始めていると言えます。ARのピークとなっているポイントの一つが2016年で、ポケモン GOの登場もあってARが知られるようになったのと、実用的なヘッドマンウントディスプレイであるHoloLensの登場などもあり、ここから一気にARが発展していきます。今はさらに発展して、実装の段階になってくる時だと思います。

ARの歴史

 現時点ではリッチなAR体験とハンズフリーはトレードオフ しかし3年ごとに技術革新が起きている

次は、ARの現在地についてお話ししたいと思います。先ほど紹介したスマホの中に現実世界の中に情報を映し出すARは、現実世界に溶け込んでいる感も高いです。ヘッドマウントデバイスは1台が40万円くらいするので、ARで手軽にいいものを探すとなると、スマホベースのものがいいと思います。

このスマホベースのものは、現実世界を覚えさせることによって、空間を認識させ、そこにAR技術によって画像やテキストなどの情報を示します。たとえば、作業に関係する場所を矢印で指し示すこともできます。この技術は、現場空間そのものを覚えさせようというアプローチで、「ビジュアルポジショニングシステム」と呼ばれる、ARの中でも特に新しい技術です。システムが場所を覚えたがゆえに、3次元上の全く同じ場所に情報を置くことができます。このソリューションは、場所に関連する作業を教育するときなどによく使われています。ARがこの現実世界を覚えているので、別の人がこの場所に来てもARの情報を見られるのです。これがARの最先端の技術であり、かつ現在地だと言えます。

ビジュアルポジショニングシステムのイメージ

ARデバイスの観点では、普通のメガネのレンズと同程度の透過度をもつメガネ型デバイスの登場が近年著しいです。本日着けているデバイスで言うと、メガネのツル部分にあるタッチパネルを使って、スマホで行うような画面操作ができます。これまでのデバイスと異なり、現実世界をメガネ越しに無理なく見る事ができ、デジタル情報表示の視野角も広いため、現場業務に適切だと感じています。しかし、依然としてスマホベースのような現実空間を覚えさせるというアプローチは技術的に難易度が高いです。

メガネ型デバイス

では、今後を考えたときにどうすればいいかについてお話ししたいと思います。現時点では正直なところ、リッチなAR体験とハンズフリーはトレードオフです。つまり、どちらか一方を取ると、もう一方を捨てないといけないという関係性です。そのため、自社が抱えている課題やニーズに合わせてどちらを優先しようかを考えることが、まずは大事です。トレンドとしては、3年おきで技術革新が起きているので、何か事業計画を立てるときは3年経ったら見直すということを前提として、上司の説得や根回しなども含めたプロジェクトの推進が必要です。

スマホで味わえるようなAR体験が、おそらく2026年あたりからメガネ型のデバイスでも体験できる世界が来るのではないかと、私は思っています。したがって私からの提案としては、ハード投資が必要なハンズフリーはとりあえず待っておいて、それまではARを使った技術を社内に浸透させるといったことを考えるのが良いと思います。まずはスマホをベースにしたリッチなAR体験をしてもらい、次のタイミングでハンズフリーを使ったAR体験を取り入れるといった戦略を持つのがいいでしょう。

ARは今後どんどん、広がっていく傾向にあります。日本ではVRの方が前面に出ている印象があるのですが、世界ではARの存在感が大きいのがわかります。日本ではARの浸透度が高くないのでピンとこないかもしれませんが、世界的には未来の状態はこんな感じになっているので、これを踏まえてARを使ったDXを検討されるといいのではないでしょうか。

記事のライター

石野祥太郎

石野 祥太郎   建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

※本文中で使用した登録商標は各権利者に帰属します。

建設DX Journal メール会員募集中!建設DXに関する情報やフルノ製品情報などをお届けします(登録無料) 建設DX Journal メール会員募集中!建設DXに関する情報やフルノ製品情報などをお届けします(登録無料)

建設DXに関するご相談・お問い合わせ

WEBお問い合わせフォーム

建設DX Journal