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建設DX関連記事 【連載】AIの活用でDX推進を成功に導く③・完
~Web3時代にAIがもたらすビジネス変革~

さまざまな業界でDXが進む一方、次世代のウェブを象徴する「Web3」という概念が広がってきました。Web3は、ブロックチェーン技術を活用することでデータが分散化され、セキュリティが向上すると考えられています。企業がAIを導入して課題解決を図っていく流れはまだまだ発展途上ですが、Web3によって何が変わっていくのでしょうか。直野廉氏(株式会社エクサウィザーズ Robot企画グループAIコンサルタント ビジネスディベロップメントリード)と、川西亮輔氏(株式会社エクサウィザーズ Robot AIグループロボットエンジニア)に引き続き伺いました。 

 「マルチモーダル」とは何か

編集部:御社は、「マルチモーダルなロボットAIソリューション」を展開していますが、マルチモーダルとは何ですか?

直野氏:マルチモーダルとは、複数のさまざまな種類のデータを元に、次の判断をするということです。人間は五感を得て次に何するかを考えますよね。それと似ています。
たとえばクッキーを焼く過程において、専門の人がその日の朝の温度や湿度、材料の小麦粉などの状態を見て「焼き上げる時間を少し長くしよう」と考え、製造条件を変えるようなことをマルチモーダルと言います。この例で言えば、温度や湿度、その日の原材料の状態など、複数の情報が出てきます。制御を変えるものが多面的であり、「n対n」みたいな関係になることが多くあるので、当社では「マルチモーダルAI解析」と言っています。

これとは逆に、画像という一つの情報に対して特定の写真を仕分けるとか、画像から猫の写真だけを仕分けるような判断をシングルモーダルと言います。

編集部:御社が提供する、熟練技能を可視化することで属人化していた技術の伝承を図るサービスは、まさにマルチモーダルになりますね。建設現場の熟練職人の場合では、どのような要素が入ってくるのでしょうか?

直野氏:たとえば、重機を動かすときに人が見ている周りの映像や音声、それから動かしているときのレバーの操作と実際に動いた重機の軌跡などですね。

図1.熟練作業の傾向性把握の流れをイメージ
(図はエクサウィザーズ社のウェブサイトより)

よくあるのが、作業者が何か違和感を覚える作業があったとして、図1のセンサーBだけをシングルモーダルとして見ると挙動が違っているので、図1の赤丸で囲んだ部分が見つけられます。ただマルチモーダルは、データだけを見ていても何が起こったのかがよくわからないのが、むしろ良いところです。どういうことかと言うと、この時にどういう作業を行ったかなど、情報の「意味づけ」ができるようになってきます。また、作業を行っている人との情報も組み合わせることで、作業効率などをきちんと相関づけられます。これはシングルモーダルでは難しいです。

我々は作業単位に切り出す技術を持っているので、属人的な作業データが最終的な作業品質に対してどれだけ影響がありそうかまで、一連の解析を行うことができます。

川西氏:データを既にたくさん収集していただいているお客さまであれば、そのデータを使って何がわかるのかというところを、我々の方から提案することもできるのではないかと思います。

 パンケーキも製鉄所も 「マルチモーダル」× AIでロボットが熟練の技能を再現

編集部:そこで、「マルチモーダルなロボットAIソリューション」とは、複数の学習データでAIモデルを生成し、ロボットに熟練の技術などを再現させるとことなのですね。

川西氏:少し前の展示会で、パンケーキの盛り付けのデモンストレーションをしました。ミシュランシェフがパンケーキを盛り付け、チョコレートソースをきれいに見えるようにヒュッとかける動作を再現させました。シェフの動作に関するデータを取り、きれいな盛り付け状態を写真で学習させました。

図2.チョコレートソースをロボットがかけているところ

直野氏:このほかに、柔らかいタオルをふんわりとたたむ動作を覚えさせたロボットもあります。ロボットが単に作業するだけでなく、食材のように形質がさまざまに違っているものを扱ったり、力加減が必要な物を取り付けたりといった、状況や状態、物性などに合わせた微妙な制御を可能にするのが「マルチモーダルなロボットAIソリューション」です。従来のプログラミングではできなかったレベルの制御です。

(図はエクサウィザーズ社のウェブサイトより)

このタオルをたたむデモを見て、これまで継承が難しかった作業も自動化できるのでは?といったインスピレーションが想起され、お客さまから数多くの問い合わせを頂きました。その内の一社で製鉄会社から、「製鉄所で高温の釜で製鉄する際に生じるスラグを取り分ける作業において、重機を操作する作業を自動化したい」といった相談をうけ、その熟練性を見える化するための基盤作りからご支援させて頂いております。

編集部:建設業界の場合は今後、どのような応用展開ができそうでしょうか?

直野氏:いくつかのユースケースはありますが、重機では、港湾物流の要であるガントリークレーンが対象となると思います。これこそ熟練作業なので、新人の方でも熟練の方と同様に作業できるようシステムで平準化して補佐してあげられるか、またそのための傾向分析などができるのではと思います。もしその作業が順調に進めば、自動化のレベルまで我々の方でもご支援させていただくことができると思います。特にガントリークレーンにおいてはまだ自動化の前段階として遠隔化の検討段階かと思います。国土交通省を中心に音頭を取られていますので、ここ数年で現実感が増してくるのではと推測します。

あとは保全ですね。重機は劣化してくると、レバーの動作に対する動きが悪くなります。劣化の進み具合に応じて、メンテナンスのタイミングなどを適切な時期で示せると思います。重機に関しては、人の感覚だけで判断してしまうと、非常に危険だと痛感しています。AとBの2種類を同じ条件で制御しても、見る人によっては「スピードが違う」と感じます。重機系は安全性のためにも、データはきちんと押さえる必要がありますね。再度申し上げますが、「あくまでデータ起点で正しさを追求する」が、我々の価値として捉えています。

 Web1〜3が地続きとは限らない 一足飛びがあるかもしれない

編集部:「Web3」の時代が到来すると言われています。新しい時代におけるAI戦略について、どのようにお考えでしょうか?

直野氏:Web3とかメタバースとかいろいろあって、全部ひっくるめてよくわからない感じがありますよね。まずは「Web1.0」でインターネットが始まってInternet ExplorerとかYahoo!とかが登場して、さまざまなコンテンツが出てくるようになりました。この時点では単方向のコミュニケーションでしたね。

2000年代になってくると、GAFAに象徴されるビッグテックが我々ユーザーのデータから行動の傾向を把握できるようになりました。アマゾンで何か本を一冊買うと、それに近い本を次々とレコメンドしてくるように、提供者側が我々の行動や個人情報まで握っているというのが、世界的に課題として挙げられていますね。これらが「Web2.0」に位置づけられます。
GAFA:インターネットの世界において大きな影響力を持つGoogle、Apple、Facebook(現Meta)、Amazonの4社の頭文字を指す。

個人レベルでは正直なところ、たとえば私がネットでトイレットペーパーを買ったとして、その購入周期がわかるだけなので大した影響はありません。(もちろん捉え方について個人差はあると思います)一方で企業という目線に移したときに、製造現場である工場のデータベース、つまり一般的にはPLC経由のデータをクラウドサービスに置いて良いのかという問題がありますね。どこまでその信頼性が担保されてるかが見えていない状態だからです。

その結果としてよくあるのが、自社で独自サーバーを立てて管理する所謂オンプレミス型を内製の情シス部隊が構築するか、もしくはそこまでリソース・コストの都合上投資できない企業の場合は、黒板や紙から離れられないという話もあります。GAFAが提供されているサービスの利便性を理解しつつも、まだまだ不安だなという面もあり、なかなか次のフェーズ、「Web2.0」の時代に移りきれていないというお客さまが多いのかなと思っています。

そこで、Web3の話になります。 Web3.0でなくWeb3となっているのは、テクノロジーに対する価値観の変化を示しているとも言われています。

Web3では、データの所有権は個人や会社に帰属する形で進めていけます。こうした意味での安全性は担保できるのではと思います。まだまだ始まったばかりですので、具体的にどのようにデータが管理できるのかはまだ練られていない状態です。しかし、データの透明性と秘匿性と共に担保されているので、企業がデータをきちんとデジタル化した状態で、どう有効に利活用していくかといった議論しやすい土壌、要はDX化しやすい構造が整ってくるのではと考えています。

例えば、製薬会社が虎の子である物質のデータベースを外部には提供しなくても、そのデータを利用した探索用のAIアルゴリズムを共同で開発するといった取り組みも進んでいます。Web3の重要技術であるブロックチェーンを利用して、AIアルゴリズムのパラメーターのみをやり取りすることで実現しています。

Web1.0と2.0とそして3となっていますが、実はそこは地続きではなくて、「1.0から3」という一足飛びも結構ありなのかなと思っています。そうした意味では「1.0から3」、あるいは黒板を現場で使っている場合は「Web0(ゼロ)」なので、「0から3」みたいな形で飛ぶために、まずは現在地点を知ること。そして、いま使われているデータについて秘匿性や匿名性を担保した状態で、きちんとデジタル化しましょう、という議論が始められるのではと思っています。

そうすると、AIを扱う我々の立場としては、ある程度データが潤沢に整ってくる状態となります。そのデータを使って、より機密性が高いデータを扱えるようになるので、企業さまごとの価値向上につなげていけるのではと考えているところです。

編集部:社会変容については、いかがでしょうか?

直野氏:たとえば、製造業で少量多品種をうたっている会社がありますよね。AIはさまざまな汎用的なものを使うのが苦手なのですが、Web3で機密性の高い土壌ができることで、データを吸収していきながら、継続的に精度向上を図るといったことまで練られていくのではと考えています。付加価値の向上とかコスト削減といったところが、ほぼ永続的にできる土壌が整うという点においては、日本全体が製造業を通してデジタル化ができていない部分の後押しになるかなと思っております。

川西氏:Web3でデータの秘匿性を担保した状態で、皆がネットワーク上でデータやりとりを安全にできるということが実現してからが、変容するときなのかなと思っています。Web3になったから変容するというよりは、変容するためのトリガー(引き金)の一つになるのかな?と。

私も最初のキャリアは日本の製造会社だったので、外にデータを出せないという話はもう常々、色々なところでありました。欧米に関しては、割と柔軟な企業も多いのですが、データを迂闊に外に出さないという日本企業の傾向は、国民性みたいな面もありますね。このことが少々、遅れをとりがちな原因になっているのかなと考えると、Web3によって解消されることで、日本の製造業ももっとこれから盛り上がっていける可能性があるのではと。そこの部分に、ご支援をさせていただければいいなと思います。

関連リンク

AIの活用でDX推進を成功に導く①
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記事のライター

石野祥太郎

石野 祥太郎   建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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