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建設DX関連記事 建設現場の「人」「モノ」の情報を活用してできること
~屋内測位システムで遠隔施工を支援する取り組みとは~

時に広大な建設現場において、作業員や作業に必要な機材の位置情報を把握することは作業の効率化を図るうえで不可欠です。建設現場のいわゆる「2024年問題」が目前に迫るなか、フルノでは長年にわたる舶用事業で培ってきたセンシング技術を活用した「屋内測位システム」の開発を進めています。(※1)

屋内測位システムは具体的にはどのような仕組みで、またこのシステムを活用してできることは何でしょうか。さらに、一般的な建物と違ってビルやトンネルなどの建設工事現場において通信環境は限られていますが、そのような環境で能力を発揮するためにどのような工夫がなされているのでしょうか。開発担当者に聞きました。
※1参考:フルノの屋内測位システム「照明一体型ゲートウェイ」

(インタビュイー)
宮崎翔太氏 古野電気株式会社 技術研究所 第2研究部 電波応用研究室

 屋内測位システムとは?フルノの技術を海から「陸」へ

編集部:まず、宮崎さんの担当業務についておしえてください。

宮崎(以下、敬称略):私は研究職として、フルノの技術研究所第二研究部に所属しております。第二研究部は電波を使った技術開発を行っており、中でも私が所属するプロジェクトは建設現場向けのDXに資する製品やサービスの技術開発を行っております。フルノには長年の船舶事業を通じて、無線やセンシング技術のノウハウが蓄積されております。こうした技術を使って、建設現場における施工の自動化や遠隔化を進めることに貢献することが、我々の目標です。

私の主な業務は、こうしたリソースを活かしながら屋内測位システムを向上させていくことです。また、私は開発職の経験もありますので、その強みを活かしてハードウェアとソフトウェアの両方の開発も行っているところです。

編集部:現在は、屋内測位システムを開発中なのですね。屋内測位とはどのような技術なのですか。

宮崎:まず、人やモノの位置情報を測る測位技術には、「屋外」と「屋内」の2種類がありますので、それぞれ分けて説明します。屋外測位の技術としてとは、GNSSなどの技術が挙げられます。衛星から発信された信号と、受信機が信号を受信した時間をもとに距離を測定し、受信機の位置を特定する技術のことで、広く知られているGPS(全世界的な衛星測位システム。カーナビなどに使われる)よりも微弱な電波を受信できる高感度受信機を使います。ビルなどの遮へい物があるとGPS信号は受信できなくなりますが、GNSS受信機ならば受信可能です。当社の得意とする舶用事業での蓄積をもとに現在も技術開発を進めており、舶用と合わせて、GNSSの技術を活かした車載用チップを製造しています。(※2)

これに対し、「屋内測位」とは文字通り、建物内における人やモノの位置情報を把握することで、現場のソリューションに活用することです。製造業の生産現場や倉庫、病院など、多数の人やモノが動き回る場において活用されています。
※2参考:フルノ製品情報「GPS/GNSSチップ&モジュール」

編集部:フルノが進める「建設DX」プロジェクトにおいては、どのような屋内測位の活用のしかたが考えられますか。

宮崎:建設現場や工事現場は、建物の外という意味では厳密には「屋外」と言えるのかもしれませんが、地下の工事現場にはGNSSの電波は届きません。また、建設および工事現場は、作業エリアが広範囲にわたることも珍しくありません。屋内測位システムを活用して人やモノの位置情報を把握できることで、作業効率化に寄与できるのです。

 効率化や安全の確保にも 建設現場で不可欠な「人」や「モノ」の位置情報

編集部:なるほど。屋内測位システムを通じて、とくに建設現場で得られる人やモノの位置情報とは、具体的には何でしょうか。

宮崎:たとえば、高所作業車のありかです。高所作業車は、建設現場で出番が多い機材の一つで、広い現場ですと高所作業車が何十台も配置されています。エアコンの取り付けや配管、電気工事や断熱の施工、壁紙張りなど、この一つの機械をさまざまな業者さんが使うのです。現場では、必要なときに予約して使うという運用が多いようなのですが、現実には予約していても、直前まで別の業者さんが使っていた高所作業車がそこにあるかがわからず、探さなければならないことも多いという話を聞きます。

一目で見渡せるようなワンフロアなら機材を見つけるのは簡単そうですが、ビルの建設現場の場合はフロアが何十か所もあります。そこで、いざ使おうというときに探すことを想像してみてください。大変ですよね。高所作業車だけでなく、脚立なども時間をかけて探し回ることも珍しくないのです。

編集部:道具を探すために一日あたり、どの位の時間を使っているのかを考えると、無視できないレベルかもしれませんね。

宮崎:そうですね。実際には、現場では結構よくあることかと思います。たとえば高所作業車など使いたい道具のありかがフロアを跨いでいるような場合、エレベーターを使うことになります。建設現場ですから、仮設のエレベーターが限られた数しかありません。一般的なオフィスビルのようにエレベーターが頻繁に行き来しているわけではありませんから、結果として道具の探索に時間がかかるのですね。

そのような場合に、たとえば高所作業車や脚立にキーホルダー型のタグを一つぶら下げておくことで、自分から最も近いところにある道具をアプリ上ですぐ見つけられます。一人分の探索する時間が削減されると考えると些細なことかもしれませんが、同じようなことが現場で何十人もいるとしたら、そしてフロアがいくつもあったとしたら、トータルでは相当な時間の削減に寄与できます。

また、高所作業車のバッテリーの使用状況も把握できるようにしてほしいとのご相談を受けています。いざ使おうとしたらバッテリーが切れていた、ということも現場ではよくあるのですね。

編集部:「人」の情報についてはいかがですか。

宮崎:現場にいる人の健康や安全にかかわる情報が、屋内測位システムを活用することで得られます。建設現場では作業員の方の高齢化に伴い、健康管理は以前にも増して重要になっています。スマートウォッチなどを装着することでその人の脈拍を把握でき、現場管理を行う人が作業員の健康チェックを行えます。

また、スマートウォッチに加速度センサーが搭載されていれば、装着している人に起きた異変を検知できます。たとえば強い衝撃を観測し、その後に全くセンサーが反応しなくなった場合は、その人が何らかの原因で転倒して動かなくなっているのかもしれないので、即座に対応できます。

また、GNSS信号が届かないトンネル工事内での活用も想定しています。たとえば、トンネルの工事現場では、爆発物を使って掘削現場の先端を破砕する作業があります。そのようなときには、点呼を行ってアナログな手法で人員を確認していますが、屋内測位技術を使えば誰がどこにいるのかが一目でわかるようになります。

 照明一体型ゲートウェイでセンシング情報を集約、現場管理に活用 通信はより簡便で低コストのBLEで

編集部:こうした現場のために現在、屋内測位システムを活用した機器を開発中とのこと。具体的にはどのようなものになるのでしょうか。

宮崎:はい、「照明一体型ゲートウェイ」を開発中です。センサーを内蔵した照明器具で現場の情報を収集し、解析して人や物の位置やスマートウォッチの装着者のバイタル(脈拍)などをアプリで可視化し、現場管理を一元化したり、遠隔化したりするためのシステムです。

ビル・建設現場での活用イメージ

編集部:なぜ照明一体型にしたのでしょうか。

宮崎:照明は現場で必ず使われるので、施工の邪魔にならないからです。建設現場は、それ自体が施工されながらどんどん変化していく動的な環境ですので、たとえばゲートウェイが一体型でない、単体の機器だった場合は、「見慣れない箱がある」などと認識されて勝手に動かされてしまうかもしれないし、電源を抜かれてしまうかもしれません。現場によく分からないものがあると、警戒されてしまいますから。

これに対して照明は、建設現場の用語で言うところの「盛り替え」、つまり工事の進行に伴って移動させることが少ないものの一つです。したがって、高精度ですが現場にとって負担が少ないのです。そのうえで施工の効率化ができるようなアプリケーションを目指しています。また、照明はその性質上、見通しが良い場所に設置されます。これは電波を拾う上でも都合が良いのです。

編集部:屋内測位を行うにはさまざまな方法があるようですが、照明一体型ゲートウェイはどの方法を採用していますか。

三点測位

宮崎:Bluetooth規格の一種であるBLE(Bluetooth Low Energy: Bluetoothの一部。低消費電力通信モード)(※3)を用いた三点測位です。三点測位とは、BLE対応センサーから発信される電波を3つ以上のゲートウェイで受信し、その受信電波強度から距離を計算し、平面上での1点を測位する手法です。原理としては、GPSに共通しています。GPSは複数の衛星から発信される信号を受信した時刻をもとに、正確な位置を割り出しています。

ほかの屋内測位方法としてはWi-Fi測位がありますが、Wi-Fi測位では得られる情報は測位精度が悪化しやすい傾向があります。複数あるアクセスポイントへの距離だけで測位しますので、人が近くにいるかどうか程度しかわからず、具体的な「点」を割り出すことができません。一方、高精度なものとしてはUWB(超広帯域無線、Ultra-Wideband)が挙げられますが、コストが上がってしまうのと、扱いが難しいのです。このように測位方法は一長一短なのですが、Bluetoothは一般的な技術であるため低コストであるのと、現場に導入するに当たっても事前調査が不要である点を重視して採用しました。

精度に関しては、建物内では壁が障壁となって位置情報がずれることもあります。その点は、独自のアルゴリズムを用いて改善しつつあり、現場で目視確認が可能な5メートルレベルで測位できる状況になっています。
※3参考:フルノの建設DXジャーナル「現場無線LANの最前線!メッシュWi-Fiの有用性とは?」

 課題山積の「2024年問題」に、デジタルを駆使して遠隔施工を支援する

編集部:屋内測位技術はすでに、さまざまな場で広く活用されています。しかしフルノがあえて、照明一体型ゲートウェイを開発する理由とは何でしょうか。

宮崎:建設業界が抱える人手不足という課題に、技術で貢献することを目標にしているからです。目の前に迫っていることとして、「2024年問題」への対処が急がれます。

建設業においては2024年4月から時間外労働の規制が強化されるため、人手不足はさらに深刻になるとみられています。そのような状況下で、デジタル技術を活かした省人化や効率化など、できることはまだまだあるのです。フルノの強みは、通信技術やセンシング技術です。これを建設現場向けに駆使することで遠隔施工の支援を行い、課題解決に向けて貢献したいと考えています。照明一体型ゲートウェイも、施工の遠隔化につながります。

編集部:照明一体型ゲートウェイで屋内測位を行うには、Wi-Fi環境がきちんと整備されていることが大前提です。建設現場での通信環境は大丈夫なのですか。

宮崎:はい、建設現場のような厳しい使用環境でスムーズな通信を実現するために、堅牢設計のICT機器を開発し、すでに高層マンションの建設現場や山岳トンネルの掘削工事で威力を発揮しています。建設や工事現場はその他の産業と比べ、精密機器の使用環境としては非常に過酷な場所が多いので、風雨はもちろんのこと、ダンプカーが頻繁に出入りするため土埃が舞い上がるなどの環境でも耐えうる設計にしています。

さらに、照明一体型ゲートウェイは、主に天井など高い場所に設置される照明の特性を利用していますから、電波を拾いやすい設計です。こちらも、使用環境が厳しいという点では先述した通りです。実際に、社内の実験ラボではきちんと動いたのに、現場でテストしようとするとなぜかうまく動かないというケースも見られ、使用環境も影響しているのだと考えられます。

しかし、製品を開発するにあたっては、激しい温度変化を与えるなど厳しい品質試験を経ることも当社の特徴です。そのような過程を経ることで、現場での使用に耐えうる製品を提供していけると考えています。そのうえで、高精度で強靭な、しかし利用する側にとってはストレスフリーなものを提供していきたいと考えています。照明一体型ゲートウェイももちろん、そのコンセプトに沿ってさらに開発を進めていきます。

記事のライター

石野祥太郎

石野 祥太郎   建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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