建設DXジャーナル 現場3.0の最前線 建設DXジャーナル 現場3.0の最前線

建設DX関連記事 AR技術で「現場」が変わる(後編)
~その空間に必要な情報が「置かれて」いたなら、・・・ DX推進においてARが果たす役割 ~

新型コロナウイルス流行の影響で、デスクワークの人たちを中心にリモートワークが広がりました。建設業界においても、国交省が「遠隔臨場」という概念を打ち出しています。遠隔臨場とは、ビデオ通話システムなどを駆使して立ち会いなどの作業を行うことです。この考え方は、建設業界で常識となっていた「現場」での作業ありきの考えに対して、発想の転換を迫るものです。
前回につづき、遠隔臨場を実践するツールとしてのAR(拡張現実)に着目し、エピソテック株式会社(東京都杉並区)の内藤優太社長と当社の宮崎翔太(建設DXジャーナル副編集長)が、建設業界におけるARの展望について語ります。

 技術の伝承や高齢化という課題に対するソリューションとしてのAR

編集部:最近は、AR(Augmented Reality、拡張現実)技術についての問い合わせも増えているとか。

内藤氏:そうですね。メタバースが知られるようになった影響だと思います。昨年と比べて問い合わせが増えておりまして、期待が寄せられているのを感じています。
ただ、「とりあえず聞いてみよう」「ARやVRが何だか気になるけれど、どのようにすれば役立てられるのかがわからない」といった方も多いので、どこに、どのように使えるのかをアドバイスするようにしています。

お客様に共通してみられる課題は、技術の伝承や少子高齢化ですね。早く若い人を育てなければならないので、テクノロジーを活用する方法を模索している状態です。人が足りない、熟練者は引退してしまう一方で若い人が入ってこない、入ってきたとしてもすぐ辞めてしまう、という点においては、おそらく世界中の、現場を軸とする業界では多かれ少なかれみられるのではないでしょうか。

編集部:建設業界もまさに、同じ課題を抱えています。建設以外では、どのような業界がありますか?

内藤氏:ビルメンテナンス業界や、製造業のサービス部門ですね。トラブル対応や、いかに効率よく事業を維持させるかといった点に主眼を置いている分野です。

編集部:先ほど挙げられた課題に対して、ARが役に立つのは具体的にどういった点なのでしょうか?

内藤氏:暗黙知をいかに形式知化するかという点において、ARがサポートできると考えております。ここでいう暗黙知とは、熟練技術者の頭の中や手先にある情報で、これまで直に見たり聞いたりして覚えるしかなかった技術です。
暗黙知を動画や音声などにして記録し、AR空間上で「オブジェクト」化するのです。ここで、暗黙知は形式知に変換されます。熟練技術者に直に教わることができなかったとしても、皆が共有できる知識(形式知)になったからです。動画や音声にするので、教える側の表現力に依存する必要もありません。
「オブジェクト」とは前編でも触れてたとおり、当社製品においては例えば、矢印や何らかの書き込み、写真や声、それからWebブラウザなどの情報のことです。当社のARでは、スマホを当該箇所にかざすことで空間に保存されているオブジェクトの内容に簡単にアクセスできます。

 「手軽に使える」ARを作りたい その先にみているのは多様性

編集部:貴社設立の背景には、「多様な人材が活躍する基盤を作りたい」という想いがあったそうですね。

内藤氏:はい。以前はメーカー勤務の会社員でしたが、多様性を認め合える風土とまでは言えませんでした。
私の専門は、AR・VRを含む空間コンピューティングという技術領域です。これは、情報をわかりやすく出すことに特化された技術なのです。自分が持っている技術を普及させることで、同様の問題を抱えている方たちの助けとなる「多様性尊重の基盤」が作れるのではないかと考えて、会社を設立しました。そのため、大きなコンセプトとして、ARコミュニケーションのサービスを手軽に扱っていただけるようにしたいという思いを持っております。

編集部:「手軽に扱えるようにしたい」とのことですが、こうした特殊な技術は、業者側に発注して構築してもらうのが常なのでは?

内藤氏:基本的には、そういうケースがほとんどですが、知識がない人はARに触れることができなくなってしまいます。しかし、当社はARを手軽に使えるようにしたいのです。ARを活用して、様々な人たちが個性を発揮できるようにしたいのです。言語での表現力に長けていなくても、は直観的な表現を可能にします。当社は扱いやすさを実現するために、ARの中でも先端技術を積極的に取り入れ、固有技術も使っています。

 自分たちでもできる! DXの推進力が生まれるとき

編集部:自分たちでARを使うというのは、具体的にはどのような形になるのでしょうか?

内藤氏:当社のお客様の事例を紹介します。ビルメンテナンス会社様で、コンテンツを自社で作成したケースです。ビルメンテナンス業界の課題は、人の入れ替わりが激しいこともあり、教育してもなかなか覚えてくれなかったり、すぐ辞めてしまったりするために、結果としてトレーニングにコストがかかってしまうことでした。
そこで、この会社様に「わかりやすい教育コンテンツを作りましょう」と提案したのです。業務上の大事なポイントを、表現しづらいところなどはARで文字、矢印、声などを現場へ直接「置いて」いくようにしたところ、それまでマニュアルではうまく伝えられなかった部分が、見る人に伝わるようになったのです。ここで暗黙知が、易しい形式知に置き換えられたといえます。
なぜこの作業がうまく行ったのかといいますと、現場の社員の方の声が反映されるなど、関係者をうまく巻き込めたからです。外部から言われてもなかなかやる気になれないのが、人間の常ではないでしょうか。中の人たちが日々の仕事で感じる、ちょっとしたことがたくさんあります。一つ一つは些細なことでも、全体で見ると大事なことはありますよね。その小さな声をいかに拾い上げて、社内を巻き込んでいくかというのがDXの成功の秘訣なのだと、前の会社の経験から感じていました。

編集部:「ちょっとしたこと」について、もう少し詳しくお聞かせください。

内藤氏:たとえば、あるスタッフの方が「この部分をこんな風に変えたらいいのにな」と感じている場合に、上司や周りの方を巻き込んで、「こういうときは、この部分をこういう風に表現するのはどうだろう」といったふうに、皆で相談しながらコンテンツを作り、質を高め合っていけるのです。
DXを外注する場合にありがちなのは、お客様の会社でDXを担当する部署が選んだベンダーに発注し、出来上がったものを現場に落としこもうとするのですが、いざ現場に入れようとすると拒否されてしまうケースです。私も過去に経験があったので、それを避けるべく工夫しました。現場の人向けに提供をして、現場の方たちが「これ面白そうだから使ってみよう」と感じるように仕向けることはできるのです。
したがって、このビルメンテナンス会社様のような成功体験を、製品を通じて提供するのは、非常に大事なアプローチだと思っています。ここでの価値は、「自分たちで作った」という成功体験であって、DXツールの技術力ではないのです。

編集部:貴社は、「人々の直観理解を促進する」とミッションに掲げています。今のお話は、ミッションとつながるとのでしょうか?

内藤氏:はい。言語化しづらくても、ARを通じて実現できることが増えるというイメージです。ARで新しいことに触れ、知ろうとする時の抵抗感を減らせます。「新しいこと」とはモノやコトだけでなく、人に対してでもです。それによって、多様性を尊重し合える文化を創りたいと願っているのです。

編集部:エピソテック社は、AR技術が注目されているとはいえ、立ち上がったばかりのベンチャーです。同社と一緒に取り組んでいる経緯や理由をお聞かせください。

宮崎:当社はオープンイノベーションの取り組みを積極的に進めておりまして、エピソテック社との協業もその一環です。当社は元来、舶用電子機器を得意としており、海をフィールドとする企業で、建設は当社にとっては新しいフィールドです。エピソテックさんの新しい技術に魅力を感じますし、我々の技術と、全く別の技術が出合うことで、視野がとても広がっています。私自身も、一人のエンジニアとしても非常におもしろいと感じています。

編集部:ポテンシャルの高いARを導入することで、「現場コミュニケーション3.0」をどのように実現させたいと考えていますか。

宮崎:これまではずっと電話だけの世界だったのが、ビデオ通話が使えるようになってきました。通信環境の良くないところで作業をするお客様に対し、当社は通信回線を補助する機器を提供してきました。そこまでが、「現場コミュニケーション2.0」。
しかし、その場に人がいるのと同等のコミュニケーションを実現するには、まだハードルがありました。われわれ製造側は機器のことはよく分かっているのに対し、お客様はよく分からないので、そこに理解のギャップが生じます。そのため、「ここの部分をこうやって確認してください」程度のことでも、伝わらないことがよくあるのですね。先述の「こそあど言葉」もそうです。
こうした部分を、もう少しARで可視化できれば、我々のようなメーカーや製品を卸している代理店が現地へ行かずともサポートできるようになり、今までになかった遠隔作業が実現できる。それが、「現場コミュニケーション3.0」の世界です。
AR技術を活用して現場に行かなくてもいい社会を実現することで、人数が少ない組織や、あるいは女性や体の悪い方でも、現場対応できるような社会を実現したいと思っているところです。

(左)古野電気株式会社・宮崎 (右)エピソテック株式会社社長・内藤氏

記事のライター

石野祥太郎

石野 祥太郎   建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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