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建設DX関連記事 道路陥没事故の調査や対策
~地中レーダーからドローン・AIまで最新の空洞調査技術を紹介~

2025年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故の映像は衝撃的でした。突如として発生した事故を未然に防ぐことは可能だったのでしょうか。そのための、空洞調査や対策技術にはどのようなものがあるのでしょうか。道路陥没事故は増加しており、その原因や対策が今注目されています。今回は、地形や地質の調査研究を専門とされている、だいち災害リスク研究所 横山芳春博士に解説していただきました。

八潮市中央一丁目交差点・陥没事故現場(1月29日朝・横山氏 撮影)

 八潮市の道路陥没問題とその背景

横山芳春博士

編集部:まずは横山博士の略歴と業務内容を教えてください。

横山氏:国の研究機関で地形や地質の調査研究を行ったのち、災害時の現地調査や不動産の自然災害リスク評価を行っています。地盤調査会社を経て、現在の業務に従事しており、大規模な災害が発生した際には迅速に現地に赴き、被害の原因や状況を調査しています。

編集部:災害が起きた際には速やかに現地入りして、被害を調査されているそうですね。

横山氏:はい、実際に現地に行くことで、被害の状況や原因をより詳細に把握することができます。例えば、地震の後に空洞や陥没が発生することがありますが、これらは大きな被害に比べると目立たないため、迅速に現地調査を行うことで、まだ修復されていない状態を確認し、原因を特定することも可能です。現地での調査は、被害の全体像を把握し、適切な対策を講じるために非常に重要です。

編集部:八潮市の現場も見られたとうかがいました。今回の陥没は、80年代に建設された老朽化した下水道管と、もともと軟弱な地盤が原因とされていますね。

横山氏:はい、そうですね。加えて、現場の下水道管は広域な範囲の下水を処理する流域下水道の下流部に位置していました。下水道管は、上流から下流へと自然に流れるように勾配をつける必要があります。このため、下流に行くほど下水道管は深く設置されることになります。深さ10 mの位置にある下水道管の空洞を検知するのは難しく、空洞が大きく成長してしまったことも一因と考えられます。

編集部:映像を見ると瞬時に道路が崩壊していました。

横山氏:空洞が地表近くまで成長し、最後はアスファルトの薄い層だけが残っていたためとみられます。トラックが通過する直前に、アスファルトが耐えきれずに崩壊し、道路が陥没したようにみられました。このような急激な崩壊は、軟弱な地盤であったことも原因として考えられます。

 地中レーダー・表面波探査による空洞調査

編集部:住民側としては、このような事故が起きないよう、空洞の調査や対策をしっかりしていただきたいのですが、その技術動向はいかがでしょうか。

横山氏:日本応用地質学会が出している資料があるのですが、非破壊検査の方法としては大きく2つ、地中レーダーと表面波探査があります。

地中レーダーは、手押し型や車載型があります。送信アンテナから地中に電波を発して、埋設管や空洞で起きた反射を受信アンテナで検知するものです。その反射波形を専門家が見ると、埋設管や空洞が検知できます。ただし、一般的には2~3 m程度の深さまでが検知対象になりますので、八潮のように深さ10 mというのは検知が難しいのです。

表面波探査は、地面に振動を与え、その振動(表面波)が地中でどのように伝わるかを測定する方法です。通常、表面波探査法では地盤状況などによりますが、概ね地表から約5~15 m程度の深さまでの地盤構造がわかり、空洞を調査検知することが可能な場合があります。

最近は微動探査という、より深いターゲット検知ができる手法も出てきました。3~4台の微動計を三角形状に配置し常時微動(車の通行や川の流れ等で生ずる微細な振動)を観測することで、地下15~30 m程度までの深さにおいて、地盤の硬さと、地層の変わり目の深さの情報が分かるものです。関東や九州で深さ6~9 mほどにある1~2 mほどの空洞を検知できた事例もあり、軟弱地盤での空洞調査での活用も期待されています。

地盤の微動探査モデル図(株式会社Be-Do提供)

これらは非破壊検査になります。ボーリング調査になると、道路に規制をかけて、機材を設置して掘削をしないといけませんから、検査のハードルが一気にあがってしまいます。

 衛星データやドローンの活用

編集部:最新の調査技術の動向はいかがでしょうか。

横山氏:まずは衛星データの活用があげられます。衛星SAR(合成開口レーダー)解析データを用いて、地表面の経年変化を観測します。例えば、道路や建物の沈下や隆起を数センチ単位で検出することができます。これにより、地盤中の空洞が発生することによって地表に生じる異常を早期に発見し、適切な対策を講じることが可能です。

編集部:宇宙から地中の変異を見るのですね。八潮では、ドローンを下水管内に飛ばして、現場状況の把握も行っていましたね。

横山氏:はい、検査においても水中ドローンを走らせるなどして、管内の状況を見るようなことが可能となるのではと思います。
これらの検査や解析には全てAIが今後絡んでくることが考えられます。例えば、地中レーダーの波形も今は専門家でなければ見ても分かりませんが、それがAIによって誰でも分かるようになってくるような活用も進むものと思います。

 安心安全な街づくりに向けて

編集部:老朽化した下水道管の定期点検やメンテナンスは今後進んでいくのでしょうか?

横山氏:はい、老朽化した下水道管や配管の交換は今後加速する必要があります。高度成長期に設置された地下インフラが老朽化しており、これを無視することはできません。更新が必要なものは更新や新設をして、補修が必要なものは補修するという方針が求められます。

また、予算の制約がある中で、優先度の高いインフラから順次対応していくことが重要です。自治体ごとに調査方法や頻度が異なるため、統一的な基準を設けることも検討すべきです。さらに、住民の意識向上も不可欠であり、軟弱地盤に関しては各種ハザードマップの活用や防災意識の啓発が求められます。

編集部:住民側もハザードマップを見て、防災意識をもっておくことが重要ですね。

横山氏:陥没は個人の敷地で起きることもあります。不動産取引の際の重要事項説明において、地盤に関する揺れやすさや、液状化のハザードマップの説明は必須ではありません。あることが分かっていない場合には、地下の空洞なども説明の対象外です。ですので、認識を持たれていないケースは多いのです。
地盤に関するハザードマップは、国や市区町村のウェブサイトや役所で入手できるほか、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」でも確認できるので、適切な情報を得ておくことは重要です。
住民の皆さんが防災に関心を持ち、積極的に情報を収集し、地域の防災活動にも参画することで、より安全な街づくりが進むでしょう。

編集部:住民側の防災意識も非常に重要ですね。ご解説いただきありがとうございました。

地盤の液状化によるとみられる陥没の例(石川県珠洲市・横山氏 撮影)

記事のライター

石野祥太郎

石野 祥太郎   建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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