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ITS業界記事 羽田空港に見る、次世代空港への歩み

 羽田空港の実態

羽田空港にほど近い、HANEDA INNOVATION CITYで「HANEDA EXPO 2024」(2024年10月31日〜11月2日)が開催された。主催したのは、日本空港ビルデングのグループ会社である羽田未来総合研究所。
配布された資料には、次のような記載がある。

日本全国・世界各国との航空ネットワークをもつ羽田空港。
人・モノだけではなく最先端の「情報」が集まる場所。
日本と世界の架け橋「HANEDA」からイノベーションがうまれる。

そして、「HANEDA EXPO 2024」では、「ミライの空港展示」を行うとしている。HAHEDA EXPO 2024の詳細を紹介する前に、「羽田空港」の実態について触れておきたい。

羽田空港の正式名称は、東京国際空港。設置管理者は国土交通大臣で、種別としては国管理空港となっている。管理するのは、国土交通省 東京航空局である。

羽田空港の歴史を辿ると、昭和6年に東京飛行場が立川から移転したのが始まり。昭和20年に米軍による拡張工事が行われた。昭和27年には米軍から返還され「東京国際空港」へ改称した。東京オリンピック開催の昭和39年には、首都高速1号羽田線が開通し、あわせて浜松町〜羽田空港間のモノレールが開業した。昭和の後半から平成にかけては、沖合の滑走路の拡充を図った。

現在の概要は、標高6.4m、面積1,515ha。
滑走路は、A(3,000mx60m)、B(2,500mx60m)、C(3,360mx60m)、D(2,500mx60m)の4本で、運用時間は24時間である。
発着数はコロナ禍で大きく落ち込んだものの、2022年度実績では41.3万回となり2018年度の45.5万回に迫る勢いだ。

発着数は2010年代に入ってから急増している。これは、2030年訪日外国人旅行者数6,000万人の政府目標の達成や、国際競争力強化の観点から、国が首都圏空港の機能強化を進めているからだ。首都圏空港とは、羽田空港と成田空港を指す。

そうした中、羽田で飛行機を利用する人たち、または首都圏の居住・就業する人にとって驚きだったのは繁華街の渋谷や新宿上空を旅客機が飛び始めたことではないだろうか。
2020年3月29日から新飛行経路の運用が開始されたのだ。これは、東京オリンピックに対応したもの。

結果的に東京オリンピックは2021年に延期されたが、国際線の年間発着容量が約4万回拡大したことが、コロナ禍からの回復期にあたり羽田空港の利用者増加に直結している。
飛行経路として具体的には、風向きが南風の場合と、北風の場合の2通りがある。
南風は年間約4割吹くとされており、この場合は従来経路(千葉県や埼玉県上空)と、15時〜19時のうち約3時間程度で新飛行経路(東京都、埼玉県上空)を使用する。
残り6割は北風で、この場合は7時〜11時半、また15時〜19時のうち約3時間程度で新飛行経路を使用し、出発経路は従来の東京湾を通るのではなく、直接都内上空を飛ぶ。

こうした新飛行経路の設置に対して、国は騒音や落下物への対策を十分に講じた上で、騒音計測データなどをホームページ上で「航空機の軌跡動画」として一般向けに公開している。

以上のように、「飛行機が離発着する場所」という、インフラとしての羽田空港の機能が強化されることに合わせて、「利用者(旅客・貨物)の視点で空港がどうあるべきか?」という議論が高まっているところだ。

 「HANEDA EXPO 2024」を取材

そうした中、「HANEDA EXPO 2024」が開催されたわけだ。
10月31日〜11月1日は「ビジネスデー」、また11月2日の午後はミライを担う世代に向けた「こども未来ピッチ」を実施した。
今回、ビジネスデーの二日目を現地取材。カンファレンスでは、「航空・空港」「顧客体験」「商業・都市」の大きく3つの要素から、産官学や国内外スタートアップの関係者、さらにデジタル大臣・サイバー安全保障担当大臣の平将明氏が登壇した。
また、展示ブースで各社・各団体の事業の取組や商品について説明を受けた。

例えば、オカムラは物流システム事業として自律移動ロボットのORVを展示した。カゴ車の工程間搬送や整列配置を自動化することが可能だ。技術的には、環境地図を生成した地図によって自律移動し、ディープラーニングの応用技術でカゴ車を自動認識する。
また、共創型デジタルツインプロジェクトも興味深かった。東京工科大学、福岡大学、芝浦工業大学、早稲田大学、ガイアックス、ハフト等が参画するもの。
注目ポイントは、まちの住民参加型のデータ収集や提供を通じてデジタルツインを生成し、その参加貢献度に基づいて報酬(インセンティブ)を支払う仕組みだ。
同プロジェクトでは、これをCity as a Serviceと呼び、こうした考え方を空港にも活用しようというのだ。

そのほか、日本航空ビルデングが採用済みの、「放射冷却素材 Radi-Cool」の空港分野における脱炭素実現の実績を知った。
Radi-Coolの基本原理は、太陽光を反射するだけではなく、放射冷却を利用することで電気などのエネルギーをまったく使わずに物体の温度を下げるもの。
現在、羽田空港のボーディングブリッジや、P4駐車場の連絡橋などで使用している。
例えば、2020年8月21日のボーディングブリッジでのデータでは、表面温度が通常36.3度から26.6度と9.7度下がった。室内温度も39.6度から34.6度と5.0度低下している。
Radi-Coolは空港以外にも、企業の事務所、鉄道会社の電気系統制御の機器、さらに日産自動車ではSUV等のオプションパーツとして、簡易的なテントであるカーサイドテラス等を実用化している。筆者も「エクストレイル」用を夏場に体験しており、その効果の大きさに驚いた。

DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を具現化する場として今後、空港の存在にさらなる注目が集まりそうだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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