コラム・物流百景
物流関連法改正が生じさせた、荷主と運送会社の間に広がる意識のギャップを考える

これまで当たり前のように行ってきた習慣が、ある日突然、非常識に変わることがあります。

それは1997年のこと。当時、筆者は300坪ほどのオフィスで働いていました。アウトバウンドのテレマーケティング部隊が在籍するこのフロアでは、100人を超えるテレフォンアポインターと、数十名の管理者が在籍していました。

ある日のこと、アルバイトの女性テレフォンアポインターの1人が突然仕事中に立ち上がり、怒り始めたのです。

「もう我慢できない!!」、女性は喫煙者のデスクにあった灰皿を、次々と回収していきます。そう、当時はまだ、事務所内で喫煙しながら仕事をする人たちがいたのです。

筆者を含めた管理者たちは、誰も女性を咎めることができず…、むしろ、「ヤバい」と罪悪感を覚えながら、集めた灰皿を給湯室で洗っている女性を見ていました。

当時、既に受動喫煙の害、そしてその対策として分煙は知られていました。しかし、オフィス内での分煙を実施していた企業は、(少なくとも筆者の感覚では)まだ限られており、筆者の勤めていたオフィスではまだ分煙は行われていませんでした。

テレフォンアポインターたちが退社した後、管理者は自然と集まりました。

「そうだよね、事務所でタバコを吸うのは、もうNGだよね」
「まずかったなぁ…」

筆者はタバコを吸いませんが、それでも分煙という新たな常識についていけていないことを恥じました。皆が反省した結果、以降このフロア内は禁煙となりました。

このように、「かつての当たり前は今や非常識」という変化を、私たちはしばしば経験してきました。

そして今、物流業界は歴史的な転換期を迎えています。
2024年に公布された貨物自動車運送事業法と物流効率化法のうち、特に後者は影響が大きい特定荷主制度が2026年4月から施行されます。加えて、2026年1月に施行された取適法(改正下請法)もあり、物流業界の商慣習を大きく変えつつあるのです。

変わりゆく「物流業界の慣行」

「運送会社からの面談依頼があると、『また値上げ交渉?』と胃が痛くなるんですよ」──このように嘆くのは、ある荷主企業の物流担当者です。

気持ちはよく分かります。

以前であれば、「運賃交渉なんてとてもとても…」と躊躇(ちゅうちょ)していた運送会社も、「物流の2024年問題」以降、「今がチャンス!」と積極的に交渉を行うようになりました。運送会社も必死ですから。荷主としても訴えを無下にはできないでしょう。

しかしネガティブな交渉を毎日のように続けていれば、気持ちが沈んでくるのも当然です。

「実は、知り合いの(荷主側)物流部門担当者に悩みを打ち明けたら、『居留守を使えばいいんだよ』と言われましたが…。許されるんでしょうか?」、この相談に筆者は、「許されませんね。それはヤバいです」と即答しました。

運送会社からの交渉依頼を無下に断れば、公正取引委員会から行政処分を受けるリスクがあるからです。

2026年1月1日施行の改正下請法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律、略称は取適法)を参照しましょう。

  1. 第5条(委託事業者の遵守事項)
    委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあっては、第一号及び第四号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。

    第2項 第四号
    中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。

また公取のガイドライン「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」では、「受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること」とあります。
つまり居留守などは論外なのです。

そもそも、「居留守を使えばいいんだよ」という感覚が、もはや時代錯誤です。
問題の担当者は、未だに運送会社を「挿げ替えの効く存在」と捉え、対等で大切なパートナーとは考えていないのでしょう。

CLOを押し付け合う荷主

先のエピソードは、古い慣習と、法令に対する知識・理解の不足が生んだものです。
荷主と運送会社の間には、他にも立場の違いが生む期待値のギャップも存在します。

その代表的な例が、「CLO」(Chief Logistics Officer、物流統括管理者)に対する期待だと筆者は考えています。

CLOについて復習しておきましょう。
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)では、CLOの役割を以下のように説明しています。

「(CLOは)サプライチェーン全体を統合的に管理することが求められます。CLOは自社の経営・事業戦略に基づいて物流改革を推進し、企業の価値創造に貢献します」

一方、物流効率化法におけるCLOの役割は、もう少し限定されています。

  1. CLOの選任義務が課されるのは、一定量以上の貨物輸送を行っているメーカー、小売、卸などの荷主と、フランチャイズなどを経営する連鎖化事業者(以下、まとめて「荷主」と呼称)。
  2. すべての荷主は「運転者の荷待ち時間等の短縮及び運転者一人当たりの一回の運送ごとの貨物の重量の増加を図る」(物流効率化法 第42条 荷主の努力義務)が努力義務として課される。特定荷主においては、この取り組みを計画に落とした「中長期的な計画」の策定が義務付けられる。
    CLOは、「中長期的な計画」の策定・監督の責任があり、国への報告窓口を務めなければならない。

ただし、実際に輸送効率の向上を図ろうとすれば、CLOの立場はとても難しいです。

例えば時間指定配送が多すぎて、トラックの積載効率が低い企業があったとしましょう。
CLOとしては、「本当に時間指定配送が必要な着荷主」と「そうではない着荷主」を選別、時間指定配送を減らし、積載効率を向上させたいと考えます。

ところが営業部から「そんなことをしたら顧客(着荷主)の不興を買い、他社に切り替えられてしまう!」と押し切られ、結局、積載効率の向上が実現できず、「中長期的な計画」も未達になる可能性もあります。

この場合でも、計画未達の責任を取らされるのはCLOです。

そもそも、部署を横断して交渉、利害調整を図るというのはとても難しいです。ところがCLOはこの難題に挑み、必要に応じてビジネスの見直しを実施し、輸送効率の向上を図らなければなりません。
結果、一部の荷主では「CLOなんて何か問題が起きたときには詰め腹を切らされるスケープゴートでしかないよね…」と認識され、CLOの席を押し付け合うような事態が発生しているという噂も耳にします。

CLOに過剰な期待を抱く運送会社

ある準大手運送会社では「2026年度以降、CLOに直接交渉をしても状況が改善されない荷主とは取引を解消する」という社内方針を定めたそうです。
このように、「CLOが選任されれば、私たちの困りごとを解決してくれるのでは?」と期待する運送会社が増えつつあります。

これは過剰な期待でしょう…。
実は筆者はこういった期待をする業界関係者に対し、「それは期待しすぎ」「逆に落胆することになる」と警鐘を鳴らし続けてきました。そもそも、(法律上の役目ではなく)本来のCLOに求められるような現場知識、サプライチェーンに対する深い造詣と実践経験、そして社内外との交渉力を備えたような人材がそうそういるわけもなく、ほとんどの特定荷主では能力が欠けた「なんちゃってCLO」を選任してお茶を濁すことになるのは明白です。

このように、荷主と運送会社、それぞれの立場から生じるCLOへの期待とギャップは、CLO選定を盛り込んだ物流効率化法が施行される2026年4月以降、顕在化していくと考えられます。

運送会社と荷主の間でいさかいになりそうな事例として、ここまで2つのエピソードをご紹介しました。

  1. 「法律に対する理解と知識不足が原因となる例」として、居留守のエピソード
  2. 「立場の違いが生む期待値のギャップが原因となる例」として、「CLOが対応してくれなければ取引解消」という方針を掲げた運送会社のエピソード

さらに、この両方が作用し合って運送会社・荷主の関係を複雑にしかねないケースがあります。それが、荷待ち・荷役時間の削減です。

政府は、荷待ち・荷役時間の削減を目指し、荷主などが目指すべき指針として、「トラック輸送における1回あたりの運行において、荷役と荷待ちなど、運転以外に従事する時間を基本1時間以内、仮に1時間以内が無理な場合には2時間以内に収めましょう」という1運行2時間ルールを打ち出しました。

しかし、このルールは矛盾と課題を抱えています。
詳しくは、過日公開された以下の記事をご覧ください。

【2026年4月施行】「1運行2時間ルール」は事実上の義務化! その課題と本当に取り組むべき荷待ち・荷役時間削減のポイントとは

政府のガイドラインでは、基本方針を「1運行あたりの荷待ち・荷役時間を削減する」と定めながら、荷主に求めるのは「1箇所の積み卸しにおいて、荷待ち・荷役時間を2時間以内に収めること」というダブルスタンダードが生じています。

これは問題にならないわけがありません。

「この積み込み現場だけで1時間半も待たせるなんて、この荷主は1運行2時間ルールを守るつもりがないんだな!?」と憤る運送会社。
一方で、「いや、法令で定められたルールでは『1箇所2時間以内』でOKだから」と開き直る荷主の現場担当者。

この衝突は、すでに発生しています。

法令に矛盾がある以上、荷主の言うことは間違っていません。ただし、法令が目指す物流革新政策における本来の目的を理解していないのも事実です。

だからこそ、こんな主張をして運送会社を言い負かそうとしたら、「試合に勝って勝負に負ける」──すなわち主張の法的裏付けは立証できても、運送会社の信頼を失い、最悪、取引解消を申し入れられる可能性──ことになりかねません。

一方で、運送会社は法令を詳しく理解していないにも関わらず、「荷待ち・荷役時間が削減されるべきもの」という期待値と中途半端な知識をベースに理解したつもりになっています。
この状態では、荷主側が主張する意見の正しさを理解できるわけがありません。

運送会社の本音に、荷主は気づくことができるか?

申し上げたとおり、2026年、物流業界は大きな変化を迎えます。
物流関連法の改正に加えて、今年は5年に1度、国の物流政策のあり方を定める物流大綱も発表されます。

一方で、改正される法令のすべてをきちんと把握するのはとても難しいです。
結果、法令改正に関する不正確な知識に、「このようになれば良いな」という期待値がプラスオンされ、運送会社と荷主の立場が生む認識のギャップはさらに大きくなります。

こういった事情を踏まえたうえで、最後にもう1つ、荷主側が気をつけなければならないことを付け加えましょう。

それは、「運送会社は嘘をつくことがある」ということです。

ある荷主が協力運送会社を招いて催した懇親会でのこと。
筆者の目には、荷主側は運送会社の負担を軽減するさまざまな改善活動を発表し、協力する運送会社はそれを称え、感謝する、とてもよい雰囲気の会合に映りました。

「この仕事をこれからも続けようと考えていますか?」、筆者の少々意地悪な質問に、ある協力運送会社社長は、「もちろん!」と笑顔で答えました。このやり取りを見ていた荷主の担当者も嬉しそうでした。

会合の帰路、帰る方向が一緒だった社長と筆者は、電車内でもさまざまな話をしました。すると、社長は本音を語り始めたのです。

「実は半年前までは、『もうこの仕事は断ろう』と思っていたんですよ」

聞けば、半年前に荷主の物流部長が変わったとのこと。前任の物流部長も改善活動は行ってくれていたものの、満足のいく内容ではなかったそうです。

「仕事がキツイので、ドライバーが辞めてしまうんですよ。多少改善されたくらいでは意味がなくて…」

しかし筆者の目からは、この社長と荷主との関係性は、見せかけのものには見えませんでした。

「長年にわたり仕事を頂いているわけですから、荷主への感謝は本当です。でも時代が変わったんですよ。今のドライバーは、ちょっとキツイ仕事だとすぐ辞めてしまいますから」

「では、もしまた物流部長が変わり、取引環境が悪化したら…」、筆者の質問に、社長は真顔で「もちろん、今度こそ取引を解消します」と即答しました。

長年にわたり、倉庫会社や運送会社は、荷主に対して圧倒的に弱い立場にありました。
パワーバランスが大きく偏った関係性において、本音など言えるわけがありません。
そして、この人間関係は法令が変わったくらいでは修正されません。何十年にもわたり、本音を隠して荷主の顔色をうかがい続けてきた運送会社からすれば、染み付いた関係性を簡単に変えることなどできないからです。

安心していたら、突然運送会社から取引解消を申し出られる──そんなことにならないよう、荷主は気を引き締めたほうが良さそうです。

記事のライター

坂田 良平氏

坂田 良平   物流ジャーナリスト

Pavism代表。「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、執筆活動や、ITを活用した営業支援などを行っている。ビジネス+IT、Merkmal、LOGISTICS TODAY、東洋経済オンライン、プレジデントオンラインなどのWebメディアや、企業のオウンドメディアなどで執筆活動を行う。TV・ラジオへの出演も行っている。

※本文中で使用した登録商標は各権利者に帰属します。

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