生成AIパスポートを受けてみた
~AIリスキリングに、無関係な人はいない~


2026年07月28日

「この資格は、現場の人にも本当に必要なのだろうか」。生成AIの話題が会議で出るたび、そんな疑問が頭をよぎっていた。建設現場のDXは、通信環境やセンサーの整備だけで終わる話ではない。現場で集めた写真や点検データを使いこなそうとすれば、遅かれ早かれ、誰もが生成AIに行き着く。では、現場で働く人は「生成AIを正しく扱う力」をどこまで持っていればいいのか。それを自分の身で確かめたくて、編集部は一般社団法人 生成AI活用普及協会(GUGA)が実施する「生成AIパスポート」を実際に受けてみた。

生成AIの基礎リテラシーを認定する「生成AIパスポート」(イメージ/編集部作成)

生成AIの基礎リテラシーを認定する「生成AIパスポート」(イメージ/編集部作成)

なぜ「生成AIパスポート」を受けたのか

建設現場の通信環境は、ここ数年で大きく変わった。Wi-Fiや衛星通信が現場に届き、カメラや図面、点検記録といったデータが当たり前のように集まるようになった。次に来るのは、その活用だ。報告書のたたき台づくり、議事録の要約、図面や仕様書の確認補助。生成AIは、現場の事務作業を確実に変えていく。

だからこそ気になっていた。現場で働く人は、生成AIを「どこまで知っていれば安全に使えるのか」。便利だからと使い始めて、個人情報や著作権、あるいはもっともらしい誤り(ハルシネーション)でつまずく例は少なくない。資格を取ること自体が目的ではない。現場の人が押さえるべき“土台”の輪郭を知りたかった。それが受験の動機だ。

生成AIパスポートは、AI初心者に向けて生成AIのリスクを予防することを掲げた資格だ。コンテンツ生成の方法や事例に加え、個人情報保護や著作権侵害、商用利用の可否といった、企業のコンプライアンスに直結する論点を学べる。まさに「正しく知って、正しく使う」ための入口にあたる。

AIリテラシーは情報システム部門だけのもの、と思われがちだ。だが実際はむしろ逆で、職種を問わず誰もが身につけるべき必要スキルになりつつある。現場の通信が整い、報告も図面も写真もデジタルになった今、生成AIに最初に触れるのは、むしろ現場の側だろう。だから、机上で論じるのではなく、自分の手で受けて確かめてみることにした。

試験の中身:60分60問で問われた“バランス”

申し込みも受験も、すべてオンラインで完結するIBT方式だ。試験時間は60分、問題数は60問の四肢択一式で、受験資格に制限はない。受験料は一般11,000円(税込)、学生は5,500円(税込)。合格すると合格証書とデジタルのオープンバッジが発行され、資格は無期限で使える。

  • 試験概要・受験料は2026年6月時点(出典:生成AI活用普及協会〈GUGA〉公式サイト)。試験制度・シラバスは改訂される。

ここで先に断っておきたい。試験は規約で、内容のメモや複製、第三者への開示が固く禁じられている。だから本稿では具体的な設問には一切触れず、受けて感じた全体像だけを記す。

画面に問題が表示されはじめると、出題の意図はすぐに見えてきた。大きく三本柱だ。NLPやTransformerに代表されるAIの技術用語。事前学習・転移学習・ハルシネーションといった生成AIの仕組み。そして個人情報保護法や知的財産、AI事業者ガイドラインなどの法務・倫理である。技術の細部に深入りしすぎず、ビジネスで生成AIを扱う人が押さえるべき範囲を、きれいに切り取っていた。

生成AIパスポートの出題範囲は技術・仕組み・法務倫理の三本柱(GUGA公開シラバスをもとに編集部作成)

生成AIパスポートの出題範囲は技術・仕組み・法務倫理の三本柱(GUGA公開シラバスをもとに編集部作成)

受けて分かった“勘どころ”:暗記では通用しない

解いていて感心したのは、出題の設計思想だ。用語を丸暗記しているだけでは引っかかるように作られている。「正しいものを選ぶ」問いと「不適切なものを選ぶ」問いが交互に混ざり、概念を反対側からも理解しているかを確かめてくる。画面の前で何度か、「分かっているつもりだったな」と苦笑した。“なんとなく聞いたことがある”では足りない、という設計である。

誤解のないように言えば、法務・倫理さえ押さえれば受かるわけではない。NLPやTransformer、学習の仕組みといった技術用語の理解も必要で、三本柱をひととおり押さえておくのが前提になる。そのうえで、いちばん実務に直結すると感じたのが法務・倫理だった。ガイドラインと法的枠組みの違い、事業者の協力義務といった論点は、字面の暗記ではなく制度の趣旨を理解しているかを問う。現場で生成AIを使うとき最後にものを言うのは、「これはやっていいのか、危ないのか」という判断だからだ。

この観点は、現場に持ち帰るとさらに具体的になる。いまや生成AIは能力を増し、建設業でも安全書類や施工計画書のたたき台づくり、日報や議事録の要約、CAD図面のトレースまで支援できるようになってきた。便利になる反面、考えるべきことも増える。安全書類に載る作業員名簿や顔写真、社外秘の資料を、そのままAIに読み込ませてよいのか。試験で問われる「個人情報」「著作権」「商用利用」は、こうした場面でそのまま現実の判断になる。資格の本当の価値は、その判断の物差しを一度きちんと持てることにある。

知識の賞味期限と、古びない土台

一方で、解きながら気になった点もひとつある。試験で「最新」とされる内容が、受けている時点ではすでに少し前のものに感じられたことだ。生成AIのモデルは、製品名やバージョンのレベルでは驚くほど速く移り変わる。「いまの主流はこの世代だ」と思っていても、半年後にはもう一段進んでいる。

もっとも、これは試験の欠点というより、生成AIという分野の宿命だ。GUGAもシラバスを毎年改訂し、有資格者向けの資格更新テストで最新内容をキャッチアップできる仕組みを設けている。それでも、最新の製品名やバージョンを完全に追い続けるのは難しい。

だが本質はそこではない。言語や画像をどう数値として扱うのか、なぜもっともらしい誤りが生じるのか、学習と転移はどう違うのか。こうした用語と基礎概念の理解、そして法務・倫理の考え方は、モデルの世代が変わっても古びない。試験でしっかり問われるのも、まさにこの部分だ。後から追えば済むのは「どのモデルが最新か」という呼び名のレベルであって、用語そのものの理解は欠かせない。土台がなければ、新しい道具が来るたびに振り回される。

面白いのは、この構図が現場DXそのものとよく似ていることだ。どの通信機器を選ぶか、どのツールを入れるかという製品名は、数年で移り変わる。けれど「現場の通信をどう設計するか」「集めたデータをどう扱うか」という土台は変わらない。生成AIリテラシーの学び方と、現場DXの進め方は、驚くほど相似形なのだ。だとすれば、AIに身構える必要はない。現場が通信やICTで積み上げてきた『正しく使う』作法を、もう一段広げるだけでいい。

では、誰が受けるべきか

受け終えて、最初の問いに戻る。現場の人に、この資格は本当に必要なのか。受けてみての答えは、はっきり「全員」だ。AIリテラシーは、もう情報システム部門だけの話ではない。

理由は単純だ。生成AIは特定の部署の道具ではなく、検索やメール、報告書づくり、議事録、写真の整理まで、あらゆる業務に静かに染み出している。意識して使っていなくても、気づけば誰もが当事者になっている。だから「自分はAIとは無関係だ」と言い切れる人は、もうほとんどいない。

建設業も例外ではない。通信が現場まで届いた今、図面や現場写真をAIに渡す場面は、これから確実に増える。これは車の運転免許に似ている。乗る人全員が最低限の交通ルールを共有しているから、道路は成り立つ。生成AIも同じで、「正しく知って、正しく使う」土台を、使う側の全員が持っておく必要がある。

建設現場にも広がる生成AI。使う側の全員に、土台となるリテラシーが求められる(編集部作成)

建設現場にも広がる生成AI。使う側の全員に、土台となるリテラシーが求められる(編集部作成)

リスキリングというと、いつか時間ができたら取り組むもの、と思いがちだ。けれど生成AIに関しては、もう全員の必修科目に近い。用語や仕組みの理解は欠かせないが、どのモデルが最新かは後から追えばいい。まずは土台を持つこと。立場も年齢も職種も関係ない。生成AIに、無関係な人はもういない。みんなが、当事者だ。

この記事のライター
石野 祥太郎
建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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