受信機1台で隠しカメラは見つかるか
~あるドラマの一場面から考える、屋内で位置を測る技術~


2026年09月15日

カメラのイメージ

カメラのイメージ

人気ドラマ「VIVANT」の第2シーズン第15話に、電波を手がかりに隠しカメラを探し出す場面があります。部屋の中央に受信機を1台置き、自作の解析プログラムで、2.015 GHzの電波を出している複数のカメラの位置を精度よく言い当てる、という描き方でした。なお、作中ではこの装置は探知機と呼ばれていました。
無線を専門にしていると、気になります。あれは本当にできるのでしょうか。

先に答えを書くと、あの条件のままでは難しく、ドラマだからこそ成立する場面です。ただ、何が足りないのかをたどっていくと、屋内で位置を測る技術の要点がそのまま出てきます。今回は、電波から位置を測る三つの方法、作中の条件に足りないもの、そして現場で実際に位置を測る仕組みを、順にみていきましょう。

電波から分かることは三つだけ

電波から位置を推定する手がかりは、突き詰めると三つしかありません。強さ、向き、時間です。

一つ目は強さ、受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)です。電波は遠くなるほど弱くなるので、弱さを距離に読み替えます。自由空間なら距離が2倍で約6デシベル(dB)下がります。位置の違う3点以上で距離を出し、それぞれを半径とする円の交点を求める方法が、いわゆる三点測位です。

二つ目は向き、到来方向(AoA:Angle of Arrival)です。アンテナを2本以上並べ、同じ電波が届くタイミングのわずかな差を読み取ります。斜めから寄せる波が堤防の端から順に当たっていくのと同じで、電波が斜めから来れば、手前のアンテナに先に届き、奥のアンテナには少し遅れて届きます。この差から、どちらから飛んできたかを推定します。波長は約15センチメートル(cm)なので、アンテナは数cm離して並べることになります。アンテナが1本では比べる相手がないので、この方法は使えません。作中の受信機はアンテナが1本でした。

  • 到達タイミングの差は1ナノ秒(ns)に満たない大きさで、時計で計るには短すぎます。実際には、波が1周期のうちどれだけ進んでいるかというずれ(位相差)として読み取ります。アンテナの間隔は波長の半分程度が標準で、角度の細かさはアンテナを並べた全長で決まります。
  • 2.015 GHzは、日本国内では携帯電話事業者に割り当てられた帯域で、免許なしに電波を出せる周波数ではありません。本文の計算は作中の設定どおり2.015 GHzで行いました。ドラマの筋にはまったく関わらない話ですが、専門にしていると、つい気になってしまうところです。

三つ目は時間、到達時間や到達時間差(ToA:Time of Arrival、TDoA:Time Difference of Arrival)です。電波は1 nsで約30 cm進むので、1メートル(m)の精度を狙うなら数nsの時刻同期が必要になります。そして時間差を測るには「比べる相手」、つまり別の場所に置いた同期済みの受信機か、送信タイミングが分かっている信号が要ります。この時間を測る考え方は、フルノが長く手がけてきた船舶用レーダーそのものです。レーダーは自分でパルスを送り、反射して戻ってくるまでの時間から距離を求めます。送った時刻が分かっているので、時間がそのまま距離になります。

三つを並べると、得手不得手がはっきり分かれます。

方式

測るもの

手軽さ

精度

屋内での安定性

未知の発信源の探索

代表的な使いどころ

RSSI(強さ)

受信強度

BLEタグ測位、Wi-Fi測位

AoA(向き)

到来方向

電波監視、方向探知

ToA・TDoA(時間)

伝搬時間・時間差

×

×

UWB測位、GNSS(衛星測位)

三つの測位方式の得手不得手、手軽さは必要な機材の少なさを示す
◎優れる、○使える、△条件次第、×不向き(編集部作成)

  • 表中のUWBはUltra Wide Band(超広帯域無線)、GNSSはGlobal Navigation Satellite System(衛星測位システム)の略です。GNSSはGPSを含む総称です。

星取表にすると、探す側のジレンマが見えてきます。もっとも手軽なRSSIは精度がいちばん弱く、未知の発信源を追うのに向くAoAはアンテナを並べた装置が必要で、しかも距離は分かりません。高精度なToA・TDoAは、同期した受信点を事前に置いておく前提なので、飛び込みの探索には使えません。手軽で、高精度で、未知の相手にも効く、という欄は、この表のどこにもありません。

作中の条件では、何が足りないのか

状況を整理します。部屋の図面はあり、寸法も形も分かっています。受信機は部屋の中央に1台。使われている周波数も分かっています。分からないのはカメラの位置だけです。

未知数は、カメラ1台につき位置の3成分(x, y, z)と送信電力で4つあります。作中では15台ほどが部屋の四隅や壁際に仕掛けられていましたが、ここでは話を簡単にするため3台として数えます。それでも未知数は十数個です。これに対して立てられる式は、受信機に届いた強度は各カメラからの寄与の合計に等しい、という1本だけです。しかも同じ周波数で複数台が送っていれば、受信機に入ってくるのはそれらが重なった1つの波(合成波)で、寄与を台ごとに切り分ける手立てもありません。

高校数学でいえば、方程式より未知数の方が多い状態です。条件を満たす答えは無数にあり、そのどれか1つには決められません。しかも受信機を動かさずに測り続けても、同じ式を繰り返すだけで本数は増えません。1点で待っているかぎり、情報は増えないのです。

  • 未知数より式が少ない状態を、専門的には劣決定といいます。今回の式は未知数が非線形に入る形ですが、ここでの本質は式の数が足りない点です。

図面は効かないのか。効きますが、効き方が違います。図面が与えるのは、カメラは部屋の内側にあるという不等式の制約で、等式ではありません。制約は答えの候補を狭めますが、1点に決める働きはしません。図面は、どこにないかは教えてくれますが、どこにあるかは教えてくれません。

受信機を部屋の中央に置いたことも効いています。強さから距離が一つ求まっても、方向が分からなければ、候補は受信機を中心とする球面上すべてに広がります。部屋の中央は幾何学的にもっとも対称な点で、対称に散らばった候補は互いに区別できません。壁際に寄せる、あるいは何点か移動して測る。観測点の対称性を崩して初めて、候補は絞られはじめます。

では、大規模な計算で補えないのでしょうか。あらゆる組み合わせを試す探索をどれだけ速く回しても、見つかるのは条件を満たす候補の全体で、その中から1つを選ぶ根拠は出てきません。計算は式を増やしてはくれないからです。

効くのは、計算に足す前提のほうです。カメラが置かれやすい高さや場所、市販品の送信電力の範囲、部屋の図面。こうした前提を確率として組み込めば、候補は現実的な範囲に狭まります。受信機を1台だけ置いて位置を推定しようという研究もありますが、そこでは反射波の遅れまで細かく測り、部屋の形や材質の情報もあらかじめ用意します。大規模な計算が効くのは、こうした前提を扱う部分です。

屋外では数センチで測れるのに、屋内はなぜ難しいのか

測量に携わってきた方には、ここが引っかかると思います。屋外なら、GNSSとRTK(Real Time Kinematic)を使って数cmの精度で測れるようになりました。同じ電波なのに、屋内に入ると急に難しくなるのはなぜでしょうか。

屋外測位が、恵まれた条件の上に成り立っているからです。衛星は、位置と送信タイミングが分かっている発信源です。しかも上空から見通しで届くので、受信点が1つでも、複数の衛星から独立した式が同時に手に入ります。基準局との差をとって誤差を打ち消せるのも、同じ電波を同じように見ているからです。

屋内では、この前提がまとめて崩れます。衛星の電波は屋根や躯体で弱められ、届いても壁や床で反射した分だけ遅れて着きます。見通しの衛星が減れば式が減り、反射波が混じれば式が歪みます。屋外測位の精度を支えていたのは、遠くの既知の発信源が見通しで見えるという条件でした。屋内で位置を測るなら、その条件は自分でつくるしかありません。

距離の手がかりにしていた電波の強さも、反射と遮蔽で揺らぎます。強さとは、受信機に届いた電波の大きさのことです。屋内では、同じ距離でも場所を数十cmずらすだけで10倍ほど変わることがあり、人が前を横切るだけでも目に見えて落ちます。この程度のぶれは、距離に読み替えると2倍から3倍の開きになります。10 m先と見えていたものが、5 mにも20 mにもなるということです。

電波の強さから求めた距離の不確かさ 10 dB(約10倍)のぶれで、計算上10 mが約5〜20 mに広がる例(編集部作成)

電波の強さから求めた距離の不確かさ
10 dB(約10倍)のぶれで、計算上10 mが約5〜20 mに広がる例(編集部作成)

アンテナで向きを測る場合も、強く返ってくるのが壁からの反射であれば、装置は壁の方向を指します。この見かけ上のピークに引っ張られて反対側の部屋を探す、という遠回りは実際に起こります。

現実の解決策は「条件を整える」こと

ここまでの難しさは、技術が未熟だからではありません。相手の仕様が分からず、相手はこちらの都合に合わせて電波を出してくれず、しかも測り直しの機会もない。条件がそろって悪いからです。裏を返せば、条件を反転させればよい、ということでもあります。整えるのは四つです。

  • 発信源を自分で用意する。周波数・送信電力・送信周期が分かっていれば、強さから距離への換算は素直になります。
  • 受信点を複数、位置を分かった状態で置く。交点が作れるのは受信点が複数あるときだけで、ここが1点観測との決定的な差です。
  • 環境をあらかじめ測っておく。その場所の電波の癖を掴んでおけば、反射の影響を補正できます。
  • 求める答えの粒度を用途に合わせる。センチメートル単位の座標が必要なのか、どのフロアのどのエリアにいるかで足りるのか。

この考え方をそのまま実装した例が、フルノのリモートモニタリングシステムです。作業員や機材にBLE(Bluetooth Low Energy)センサーを持たせ、その電波を受ける受信機(ゲートウェイ)を、位置を決めて現場に複数置きます。複数の受信機で受けた電波の強さから三点測位を行います。仕様の分かった電波を自分で出し、受信側を計画的に置く。作中の状況とは、ちょうど正反対の設計です。

受信機1台と3台の比較 1台では方向が分からず候補が円上に残り、 位置の分かった3台では三つの距離の円が1点で交わる例(編集部作成)

受信機1台と3台の比較 1台では方向が分からず候補が円上に残り、
位置の分かった3台では三つの距離の円が1点で交わる例(編集部作成)

受信機を1台置けばその周囲、複数置けばフロアの人流、格子状に配置すればフロア全体の所在把握まで見えてきます。
条件を整えれば、人や機材の位置を把握して安全管理に役立てることは十分にできます。足りないのは計算力ではなく、測り方の設計です。

なお、この原稿は放送の翌日に書いています。ドラマを楽しんでいるつもりでも、電波のことが頭から離れません。おかげで、屋内で位置を測る難しさについて一本書くことになりました。職業病です。

この記事のライター
石野 祥太郎
建設DXジャーナル初代編集長/古野電気株式会社

無線の技術者として新技術や製品開発に従事、建設DXの社内プロジェクトを推進

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