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ITS業界記事 企画段階の製品も展示。モビリティサービスを見える化した「トヨタ・モビリティ・ショールーム」を新設

 ショールーム誕生の背景は、モビリティサービスの「見える化」から

トヨタがモビリティに関する新しいチャレンジに打って出た。
2018年8月1日、法人向けの情報発信基地として東京に「トヨタ・モビリティ・ショールーム」をオープンしたのだ。場所は東京の下町で、最寄りの駅は地下鉄日比谷線の人形町駅、または都営新宿線の浜町駅である。

どうして、こんなところにショールームができたのか?
実は、ショールームを1階に構えるビルには、トヨタモビリティサービスの本社がある。
同社は、トヨタフリートリースとトヨタレンタリース東京が合併して2018年にできた新会社だ。設立の理由は、モビリティサービスがいま、大きな変革期に入ったことに関係している。
フリートと呼ばれるレンタカー業務やリース業務など、既存の自動車サービス業の枠組みでは、欧米で急成長しているライドシェアリングなど新しいモビリティサービスに対応することが難しくなってきたのだ。
こうして誕生したトヨタモビリティサービスでは、同社の顧客であるトヨタディーラーやトヨタ関連の部品メーカーとの商談の中で、「実物を見ながら交渉したい」という声が挙がっていた。ハードウエアが中心である従来型の自動車関連ビジネスとは違い、ビックデータやソフトウエアを中心とした新しいモビリティサービスは、自動車産業界のプロであっても「なかなか目に見えない」ために、実態を把握することが難しい。
そこで、モビリティサービスについて、トヨタの企業哲学のひとつである「見える化」をしようというのが、今回新設したモビリティ・ショールームである。

 一番の人気はVR体験

ショールームに入ると、中央には超小型モビリティの「i-ROAD」や、立ち乗り型ロボットの「ウイングレット」の姿が目立つ。これら2つの商品は、これまで数年間に渡る実証試験を行ってきているが、国による各種の規制によって現時点では量産化の見通しが立っていない。残念ながら、ショールーム内、またはショールーム近隣での試乗は行っていない。トヨタとしては、近未来のモビリティ社会の中で、こうしたハードウエアとしての新しい乗り物について、これからも国や自動車ユーザーに対してアピールを続けていく。

一方、体験型の展示としては、VR (バーチャル・リアリティ)技術を活用したシステムがある。モーターショーなどで出展されることが多いが、こうしたショールームで最新VRを使った自動車用ソフトウエアを体験できる機会は少ない。
現在使用しているコンテンツは、トヨタの予防安全技術についてだ。最新型の「トヨタサポートセンス」は、小型車の「ヴィッツ」から高級車の「クラウン」まで採用されているのだが、その機能のすべてをユーザーが実際に体験する機会は少ない。ショールーム関係者のよると、一般の方がショールームの前でたまたまVR体験機を見て、「体験させて欲しい」とショールームに入って来たケースもあるという。
ショールームは、トヨタモビリティサービスに来社する自動車業界関係者だけではなく、営業時間内ならば、誰でも気軽に利用できる。

 既存製品と企画段階の製品が併存

ショールームには車載のハードウエアやスマートフォンアプリなど、モビリティサービスについて各種の展示がある。すでに販売されている製品もあるが、実証試験中、または製品化に向けた準備段階の製品などいろいろある。
その中から注目度が高い製品をいくつか紹介する。

TransLog(トランスログ)

タクシーやトラックなど、商用車を主体として開発されたもの。
車載ECU(電子制御ユニット)のデータを、CAN (コントローラー・エリア・ネットワーク)に有線を通じて収集して、トヨタ専用のクラウド上でデータを解析する。
特徴は専用のカメラを搭載していること。自車の周辺情報を画像で収集することで、交通状況をできるだけリアルタイムに近い状態で把握できる。
現在、都内のタクシー約500台に搭載して、実証試験を続けている。

SKB(スマート・キー・ボックス)

スマートフォンに自動車の鍵の役目を持たせたもの。通信はBluetoothを使う。
ショールームで事前に予約をすると、同ビル内の駐車場にある実車を使ってSKBによるドアロックの施錠と開錠をする様子が見学できる。
現在はトヨタレンタカーの一部で実証試験を行っている。

スマートフォンやモバイル機器用の車載マルチディスプレイホルダー

最新型のカーナビを搭載していない、既存の車両でスマートフォンなど既存のモバイル機器を活用するためのもの。
左右方向のみならず、上下方向にも動くため、車種やドライバーの着座位置に応じて最適な状態で使用することが可能。車載器との通信も視野に入れている。
全日本ラリー選手権でナビゲーター向けに搭載するなど、厳しい状況での耐久試験も行っている。
将来的には、トヨタのみならず、他社の既存車にも装着することを念頭に開発した。

コメダコーヒーのインセンティブがある専用アプリ

走行中のスマートフォン利用を撲滅するために考案されたアプリ。
走行中にスマートフォンの表示画面を下にした状態で走行すると、走行した距離に応じてコメダコーヒーの利用クーポンを発給するもの。
すでに実証試験は終わっており、同サービス実施中に走行中のスマートフォン利用での検挙数が減少したという実績があるという。

この他にも、KDDIやデンソーなど、トヨタ関連企業からの出展が見られる。
詳しくは、https://t-mobility-showroom.jp/

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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