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ITS業界記事 トヨタ、ADAS記者発表
~「急アクセル時加速抑制」のアルゴリズムを無償公開へ~

 高齢ドライバー事故への対応

トヨタ本社広報部から2020年2月上旬、「急な連絡だが、ADASに関する記者発表に参加頂けないか?」というメールが来た。
ADASとは、Advanced Driver Assistance System(高度運転支援システム)のこと。一般的には、自動ブレーキと呼ばれる衝突被害軽減ブレーキなど、カメラやレーダーなどの車載センサーを使った予防安全装置を指す。
トヨタ東京本社で始まった会見は、「急アクセル時加速抑制システム」に関するものだった。近年、重大な事故の発生が相次ぐ、高齢ドライバーへの対応を念頭に置いたものだ。

ADASや自動運転などの研究開発を行う、トヨタの先進技術カンパニー・フェローの葛巻清吾氏が詳しく説明した。
説明の冒頭、今回の発表に至った社会背景について、各種のグラフやデータを示した。
それによると、高齢ドライバー事故が増えている最大の理由は、高齢ドライバーの数が増えていることだ。警察庁の調べでは、2018年と2007年を比較すると、75歳以上と80歳以上の運転免許所有者数は約2倍となった。

筆者として補足すると、運転免許所有者の高齢化が一気に進んだのは、日本における自家用車の普及が1960年代から1970年代の経済高度成長期の影響だ。1970年は、いま(2020年)から50年前であり、その頃20代の人はいま、70代になっている。
また、性別で見ると、女性が運転免許を取得することが日本で一般化したのは、男性より10~20年ほど遅い。そのため、2020年代は、女性の高齢ドライバー数の増えることもあり、高齢ドライバー総数の伸びは大きくなることは確実だ。
このような社会状況を踏まえて、トヨタは対策を打ったのだ。

 進化を続けるトヨタのADAS

トヨタのADASは、トヨタセーフティセンスと呼ばれる。数年に一度、搭載する技術をアップグレードしており、直近では2018年に、夜間での歩行者保護を目的として、車載カメラとミリ波レーダーの精度を上げた。

2020年からのトヨタセーフティセンスでは、交差点での右折時、直進してくる対向車を検知して車内でブザー音を鳴らすシステムを量産する。2020年2月発売の新型ヤリス(旧トヨタが新規開発した、急アクセル時加速抑制アルゴリズムの説明図ヴィッツ)から搭載し、他の車種にも随時、採用する。近い将来には、レクサス・セーフティ・システム+Aで量産している、自動のステアリング操作を伴う衝突回避機能を、トヨタセーフティセンスに搭載する予定だという。 この他、駐車支援を行うアドバンスド・パークも精度を上げて量産する。車載カメラと赤外線センサーにより、自車の周囲360度をセンシングし、ステアリング、アクセル、ブレーキを制御して、これまでより駐車までの時間を短縮した。また、操作についても分かりやすさを重視し、車内モニターでの表示内容を刷新した。筆者は2019年12月、トヨタが千葉県内で実施した新型ヤリスのプロトタイプ試乗会に参加しており、その際、新しいアドバンスド・パークを実車で体験している。

 無償公開される、急アクセル時加速抑制のアルゴリズム

次に、葛巻氏が説明したのが、急アクセル時加速抑制機能だ。
ひと言でいえば、ビッグデータを活用した「アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置」である。
高齢ドライバーによる事故が多い、アクセルとブレーキの踏み間違い事故。これまでのトヨタセーフティセンスでは、カメラとミリ波レーダーによって、前方に障害物がある場合、アクセルを急に踏み込んでもエンジン回転数が上がらないように制御してきた。
つまり、自車が停車時のみに対応していきたのだ。

だが、トヨタが実際の事故事例を分析したところ、走行中にアクセルとブレーキの踏み間違いが発生している事例が数多いことが分かった。
走行中にアクセルを踏んでもクルマが加速しない、という状況を故意に作り出すことは、自動車メーカーにとって技術的に大きなハードルがある。
そのうえで、トヨタは各モデルにすでに搭載している、車載データをクラウドに送信するデータ・コミュニケーション・モジュール(DCM)から収集した走行データを基に、独自のアルゴリズムを開発した。
このアルゴリズムによって、例えば、交差点で右折時、不自然に急なアクセル操作をした場合など、エンジン回転数が上昇しない制御を行う。技術的な詳細について他の自動車メーカーに無償で公開することで、普及促進を図る。

トヨタとして、急アクセル時加速抑制機能は、2020年夏以降に発売する各車種に随時採用する。その他、ディーラーオプションとして発売している後付けのアクセルとブレーキの踏み間違い防止装置についても機能を追加する。
使用については、オプション設定のキーを設け、通常のトヨタセーフティセンスのモードと区分する。
価格については現時点では公開されていない。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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