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ITS業界記事 「マツダ イノベーション スペース東京」開業の理由

 現地取材会に参加

マツダは2024年2月16日、新たな価値創造に挑戦する仲間づくりの場として「マツダ イノベーション スペース東京」を六本木ヒルズ内に開設した。
同施設の現地取材会に参加してマツダ関係者と意見交換した。

マツダ イノベーション スペース東京は、入って右側が共創エリアだ。約30席あり、テーブルを移動することで様々なレイアウトが可能。カフェ施設もあり、きがねなく活気ある議論ができる場を目指す。左側にはセミナーエリア。開閉式のガラスの壁があり、各種の説明会やイベントなどが想定される。
マツダ イノベーション スペース東京のデザインは、マツダ本社のデザイン本部が手掛けており、マツダ車にもつながるマツダらしさを感じる空間に仕上がっている。

さて、マツダ イノベーション スペース東京の目的だが「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」と定義した。
背景にあるのは、「100年に一度の大変革」と称されることが多い自動車産業界の変革期だ。具体的にはCASEと呼ばれる、C(通信によるコネクテッド)、A(自動運転技術)、S(シェアリングなど新しいサービス事業)、そしてE(電動化)が複合すると言われてきた。

CASEは2010年代中盤、ドイツのダイムラー(現メルセデス・ベンツ)が提唱したマーケティング用語であり、マツダもこれまでCASEに対応するため技術的な研究開発を進め、マツダの独自性が強い商品を量産している。

マツダは2022年、事業方針として電動化事業を重視した中長期の見通しを公開している。
2030年に向けた企業としてのビジョンを示した上で、電動化の進捗をフェイズ1~フェイズ3までの3期間に分けて段階的に電動化比率を増やす考えだ。
直近での事例としては、マツダの真骨頂であるロータリーエンジンを発電機として使う、プラグインハイブリッド車「MX−30 ロータリーEV」が量産されている。

こうしたCASEを重視した次世代の自動車づくりのため、マツダはこれまでもIT関連人材を積極的に採用するなど、「仲間づくり」の動きを進めてきた。
そうした中で、「新しい出会いの方法」として、「マツダ イノベーション スペース東京」という発想に結びついた。
これまでも、マツダでは異業種間交流を積極的に行ってきたが、それをさらに強化する。
マツダの国内事業所では、広島本社で本社機能を担い、東京・霞が関の東京本社では広報・渉外、そして取引先との接点を担う形で機能している。
技術やデザイン領域では、マツダR&Dセンター横浜が拠点となっており、産学官連携やユーザー・メディアとの交流の場として活用されている。
マツダ イノベーション スペース東京では、これら既存の拠点と連携を取りながらも、もっと気軽に出会い、さらにより深い意思疎通ができる機会を創出していく。

 キャリア採用での新しい手法

では、具体的にマツダ イノベーション スペース 東京を具体的にどうやって使うのか?

まずは、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)事業準備室、コネクテッドシステム部、MDI(マツダ・デジタル・イノベーション)業務設計部、などから約20人が参加して、マツダ イノベーション スペース東京の活動の中核を作っていく。
その上で、テーマを設けた複数のプロジェクトに関するワークショップを実行する。
マツダ社外の人が、これらプロジェクトにどのような方法で参画するかは、ケースバイケースであり、基本的にはマツダ側から情報発信する中で出会いの機会を求めていく。

もうひとつは、新たなるキャリア採用(中途採用)制度だ。
従来のキャリア採用とは違い、マツダとの出会いから採用までの間、マツダ イノベーション スペース東京を活用した「共創」の期間を設ける。
様々なプロジェクトをマツダや外部企業の人たちと共に議論するなかで、キャリア採用を希望する人とマツダとの意思疎通を深めるのが狙いだ。
新卒採用ではインターンシップがあるが、それをキャリア採用で応用する。
ちなみに、新卒採用でのインターシップは2022年に6部門・144名、また2023年は17部門・252名と拡大しており、2024年もさらに増やす考えだ。

 課題は持続的かつ柔軟な運用

マツダ イノベーション スペース東京の課題はなにか?
それは、KPI(キー・パフォーマンス・インディケイター)の明確化である。
いわゆる「ひとづくり」は時間がかかる。また、「人の感情を重視した価値づくり」の成果を明確化するのはとても難しい。
一方、マツダは2030年に向けて、具体的な電動化戦略を打ち出すなど、事業計画のロードマップを示している。また、MaaSという概念は初期普及段階を終えたが、成功事例は極めて少ないのが実状だ。
そうした社会情勢や業界状況の中で、マツダ イノベーション スペース東京に対して、成果の評価を明確にする必要があるのは当然だ。

これに対して、マツダは「客観性のある数字が必要だが、数字で現れてこない領域もあるはずだ。1年目はトライアルだが、1年以内になんらかの成果を出すべき」という姿勢を示した。
大まかには3年を目処として、マツダイノベーション スペース東京の存在意義をマツダ社内で問うことになるだろう。

そもそも、自動車メーカー各社の研究開発拠点は、大規模な工業地域がある地方部が多く、都市部では先端デザイン研究や、情報収集のための事業所が1970年代頃から設置される傾向があった。しかしその多くが、メディアを含めて非公開の場合が多い。
それが、CASEが重要視されるようになってから、異業種間交流を促進するため、自動車産業関連企業が2010年代半ば過ぎから都心に新規拠点を相次いで開設してきた。
一部はすでに運用されておらず、または新たな組織や別会社として独立したケースもある。

マツダ イノベーション スペース東京においては、そうした他社の過去事例を十分に参考にした上で、ワークショップを通じたトライ&エラーをできるだけ短い期間で行い、できるだけ多くの目に見える成果を生むことが期待される。

「企画書で85点以上を前提としてプロジェクトを始めるのでは、時代変化に追いつくのは難しい。だから、走りながら考える」。
マツダ関係者のそうした指摘こそ、マツダ イノベーション スペース東京のあるべき姿なのではないかと、六本木の地で感じた。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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