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ITS業界記事 福島で考える「クルマと水素社会の未来」

 社会実装を目指す、福島の再生可能エネルギー

福島県と福島県産業振興センターが「第10回ふくしま再生可能エネルギー産業フェア」(2023年10月12~13日、於:郡山市ビッグパレットふくしま)を開催した。
福島県は、東日本大震災と福島第一原発事故から12年の月日が経過する中で、県内で次世代エネルギーに係わる様々な実証実験や社会実装を進めている。
例えば、浜通りや阿武隈山地周辺では大規模な送電線の新設プロジェクトを推進するなど、福島の自然環境を活かした再生可能エネルギーに関連する技術研究、量産開発、そして人材確保と人材教育に対して積極的に支援しているところだ。
その中で、再生可能エネルギー関連の事業者どうしの交流を深め、また新しいビジネスマッチングをおこなう場として「ふくしま再生可能エネルギー産業フェア」をこれまで、定期的に開催してきた。

 大きく変化する水素ビジネスの市場環境

今回の目玉となったのは、やはり水素である。
国が掲げる、地球環境に係わる経済政策であるGX(グリーントランスフォーメーション)において、水素基本戦略が2023年6月、6年ぶりに改訂されたからだ。
それ以前、国の水素基本戦略は大学や研究機関での水素研究が主体であり、社会実装としては家庭用のエネファーム、さらにトヨタ「MIRAI」を筆頭とするFCEV(燃料電池車)の普及を前提としたものだった。

ところが、水素ビジネスに関する市場環境は2010年代後半から2020年代前半にかけて大きく変化した。
その経緯について、「第10回 ふくしま再生可能エネルギー産業フェア」のオープニングセミナーで講演した、公益財団法人 地球環境産業技術研究開発機構(RITE)の理事長、山地憲治氏は次のように説明した。

大きな転換の基点は、2015年12月のCOP21(国連気候変動枠組条約 第21回締約国会議)で採択され、2016年に発効した「パリ協定」だ。
この中で、世界共通の目標として世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて摂氏2度より十分低く保つことを目指すとした。これを「2度目標」という。さらに、「1.5度努力目標」が提示された。

次いで、2018年10月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で、COP21で示した「1.5度努力目標」を達成するためには、2050年にカーボンニュートラルを実現することが必要だという見解を示した。
これに伴い、世界の国や地域では「2050年カーボンニュートラル」を念頭に置いた政策を打ち出すようになり、日本では菅政権時の2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をまとめた。

翌年には「第六次エネルギー基本計画」が発表され、再生可能エネルギーや原子力発電に関する国の新しい考えが示された。この中で、「水素を新たな資源として位置付け、社会実装を加速する」と明記した。水素を安定的かつ大量に供給するため、海外から安価な水素を輸入することや、風力発電などでの余剰発電分から、水電解装置により水素を製造して商業化するなど、様々な手段を講じるとした。
こうした技術的な革新を追求する中で、水素を含むGX(グリーントランスフォーメーション)を日本の産業力強化の方策のひとつとして活用することを目的に、国として大きな決断を下した。
また、ロシアのウクライナ侵攻によって、欧州を中心に経済安全保障の観点から水素を重視する急激な動きもある。

その上で、岸田総理は2022年2月、「今後10年間に150兆円超の官民GX投資を実現する」という基本方針を表明した。あわせて、政府はGX経済移行債を20兆円規模で活用して新たな市場と需要の創出を目指すとした。
これを受けて、産官学でGXに対する議論が進み、政府は2023年2月「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定。同年6月に「GX推進法」が成立したというのが、これまでの流れである。

 再生可能エネルギー推進ビジョンの4つの柱

前述のように、福島県は東日本大震災と福島第一原発事故による教訓から、全国の中でも再生可能エネルギーに対して積極的な施策を講じてきた。
全体像としては「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021」としてまとめている。推進期間は2021年度から2030年度の10年間だ。

これについて、福島県商工労働部再生可能エネルギー産業推進室監(兼)次長の高橋和司氏が講演で説明した。
基本方針としては、4つの柱がある。
再生可能エネルギーの導入拡大、水素社会、産業集積、そしてこれら全体と連動する持続可能なエネルギー社会、という4つである。
このうち、再生可能エネルギーについては、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス、さらに公共施設や工場などでヒートポンプなどによる熱利用を、福島県各地で進めているところだ。

そして、水素については、「水素をつくる」分野では国内最大級の水素製造施設である「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」を活用する。ここでは、18万平方メートルの敷地内に20MWの太陽光発電施設を持ち、水電解装置として世界最大級の10MW級で水素を製造する。こうして作った水素を使う方法を、福島県ではいくつか紹介している。

 実証実験など、水素に関する福島県の動き

例えば、田村市のデンソー福島では、工場内で発生した排出ガスを無害化するアフターバーナー炉で、LPガスを水素に置き換えた。また、白河市の住友ゴム・白河工場でも水素ボイラーでの実証実験を行った。
そのほか、相馬市の「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」では、施設内の太陽光発電で発電した水素と二酸化炭素を触媒で反応させたe-methaneを製造する、メタネーションをおこなっている。これを相馬市内の65歳以上の移動手段として運用する「おでかけミニバス」の燃料として供給している。
いずれのケースも、福島県内で製造する水素の地産地消を実現した実証である。

また、福島県内では水素を燃料とする燃料電池車(FCEV)の普及も積極的に進めているところだ。そのため、水素ステーションを現在、県内に5カ所設置しており2030年までには20カ所に増やす計画である。

乗用の燃料電池(FCEV)の県内普及台数は2023年8月末時点で417台。これは人口あたりの普及数では、愛知県に次いで全国で二番目に多い。
商用では、いわき市と福島市に燃料電池バス、またトヨタと連携した小型配送トラックも実証実験を始めた。
少し変わったケースとしては、燃料電池のキッチンカーがある。これはオーストラリア仕様の「ハイエース」を改造したもの。トヨタが地元交通事業者である郡山観光交通と連携して運用している。この車両を使い、学校での水素に関する出張授業をおこなったり、防災時の電源として活用したりする準備をおこなっている。

福島県では今後も、国のGX政策に連動して社会実装を目指す様々な試みが登場するだろう。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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