スバルの高度運転支援システム(Advanced Driver Assistance System: ADAS)である「アイサイト」がフルモデルチェンジした。
2020年10月15日に発売される新型「レヴォーグ」から採用する。
アイサイトの起源は、スバルが1999年に「レガシィ・ランカスター」に搭載した、アクティブ・ドライビング・アシスト(ADA)だ。
2008年には「アイサイト」という商品名となり、有名タレントを起用したテレビCMで「ぶつからないクルマ」というキャッチコピーを用いて訴求活動を行った。
その効果は絶大で、トヨタなど他メーカーのディーラーマンから「うちのクルマもアイサイトのような機能を装備していないと、これからは新車が売れなくなる」という声が全国から出るようになり、自動車メーカー各社がADAS開発に注力するようになった。
いまでは軽自動車でも標準装備が当たり前となった、衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)や、アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置の普及には、アイサイトの貢献度が高い。
また、2010年代は、自動運転技術の開発が世界各地で盛んとなり、画像認識技術に関する開発競争が激しさを増してきた。
例えば、トヨタは子会社であるデンソー、また日産やマツダは、米ゼネラルモーターズやスウェーデンのボルボなどが先行して採用したイスラエル・モービルアイの技術を採用。
日産は「自動運転技術を活用したADAS」という表現でマーケティングを行い、現在のところ「プロパイロット2.0」と名付けている。
スバルは2020年1月末、スバル本社(東京都渋谷区恵比寿)で開催した報道陣向けの技術説明会「スバル ミーティング」で、2020年から次世代アイサイトを市場導入すると発表していた。
それから約半年後、スバルは2020年8月上旬、一般社団法人 日本自動車研究所で、報道陣向けの新型レヴォーグ・プロトタイプ試乗会を行った。ここでは、次世代アイサイトとアイサイトXを実体験できた。
公開された次世代アイサイトの技術詳細(数値はプロトタイプ)は次の通りだ。
使用するセンサーは、車内ルームミラー位置に装着するステレオカメラ。アイサイトVer.3と呼ぶ先代アイサイトを比較すると、ステレオカメラのユニット自体がかなり小さくなった。運転席にいると、これまでと比べて車内がすっきりしたような感覚がある。メーカーは、アイサイトの歴史とスバルと共に歩んできた日立オートモーティブシステムズではなく、スウェーデンのVEONEERだ。同社は、自動車部品大手のオートリブから2018年にスピンアウトして誕生した企業。スバルはこれまで、ボンネット上部で歩行者を保護するエアバックなどでオートリブと取引がある。
イメージセンサーは、アメリカのオン・セミコンダクター製。同社の公開資料によると、車載イメージセンサー分野でのマーケットシェアは、Omnivision、東芝、ソニーなどを抑えて62.0%と圧倒的に大きい。また、ADAS用のセンシングカメラ分野ではシェア80.8%、リアビューカメラや全周囲カメラではシェア54.1%を誇る。
画像認識向けの半導体は、アメリカのザイリンクスを採用した。
ステレオカメラの他には、車体前方の両端に周波数帯77GHzのミリ波レーダーを新たに装着。ステレオカメラが先代に比べて広角になったことも加えて、前方に対する衝突回避の性能が上がっている。
具体的なシチュエーションとしては、交差点での右折時の対向車で、自車速度が1km/h~約20km/hで作動。
対歩行者では、右左折とも、自車速度が10km/h~20km/h以下で作動。
自車に対して横断する自転車では、自車速度が約20 km /h~60km/h以下で作動する。
これらは今後数年以内に、EUNCAPや、JNCAPなど、アセスメントでのテスト項目に組み込まれる要件である。
この他、車体後部の両端に周波数帯24GHzミリ波レーダーと、赤外線センサーを備える。
次世代アイサイトは、新型レヴォーグの全グレードで標準装備となる。
また、35万円のオプション装備となるのが、アイサイトXだ。高精度三次元地図ユニット、12.3インチのフル液晶メーター、ドライバーモニタリングシステム、さらにステアリングタッチセンサーが装備される。
アイサイトXが作動するのは、日本の自動車専用道に限られる。パイオニアの子会社の地図メーカーであるインクリメントPと三菱電機が制作した、コンテンツを限定した三次元地図を使う。自車位置については、米国のGPSと日本の準天頂衛星による衛星測位を行う。受信チップは欧州ガリレオや中国北斗には対応していない。
これらすべての機能を体験したが、どれも精度が高いだけではなく、運転者に対する気遣いを感じた。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。