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ITS業界記事 新型ランドクルーザー「250」に見る、グローバルSUV市場の変化

 歴史の転換点となる、ランドクルーザー「250」の登場

自動車メーカー各社で多目的車のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)の車種が増えている。その背景には何があるのだろうか?
まずは、トヨタが2023年8月2日、東京都内で世界初公開した新型「ランドクルーザー250」から話を始める。

ランドクルーザーは1951年に初代モデルが発売され、2023年時点で約170の国や地域で累計1130万台を売り上げている、トヨタのロングセラー製品だ。
1951年といえば、トヨタが豊田織機の一部門から自動車専業企業として独立して14年目。いわば、トヨタがベンチャー企業だった時期である。
そんなトヨタが、過酷な条件でも走行可能な、本格的な四輪駆動車としてランドクルーザーを考案し、これによりトヨタが自動車事業の世界進出に大きく踏み出したと言える。

その後、72年間に渡りモデルチェンジを続けてきたランドクルーザーだが、今回発表された「250」は、ランドクルーザーの歴史の中で大きな転換点にあたる。
ランドクルーザーは、ヘビーデューティなモデルと、市街地での活用を主体とするライトデューティーなモデルに大別できる。前者の最新モデルは、2021年発売の「300」シリーズで、後者は1990年の「70」シリーズから加わった「ランドクルーザー プラド」であった。「250」は実質的には、「プラド」の後継車にあたるモデルだ。
ここで注目したいのは、一部の国や地域を除くが、日本などでは「プラド」の名称ではなく「250」とした点だ。

これについてトヨタは「ライトデューティーなランドクルーザーに対する製品価値を、グローバルでの市場変化を受けて抜本的に考え直すべき」という発想を持った。
つまり、SUV市場が近年、大きく変化してきたことを意味する。そうした市場変化に対して、トヨタが「トヨタの歴史そのもの」と表現する、ランドクルーザーの製品戦略やブランド戦略を見直したということだ。

 SUVは大きく2系統。「アメリカ市場型」と「東南アジア市場・起点型」

では、SUVとはどんなクルマなのか?
その歴史を簡単に振り返ってみたい。

悪路を走行する本格的な四輪駆動車としては、第二次世界大戦で活躍したアメリカのジープがある。ジープは、軍用の他にも建設や土地開発など民間企業でも使用された。
一方、60年代から70年代には、アメリカでピックアップトラックの後部に幌やハードカバーを付けて、商用車とするケースが出てきた。その延長上で、ピックアップトラックの後部に座席を設けたタイプが登場する。

そうした中で、90年代のアメリカでジープの乗用向けモデル「チェロキー」が広い世代でファッションアイテムとして人気となる。また、ゼネラルモーターズ(GM)の「タホ」や「サバーバン」などの、ピックアップトラックで用いる梯子型車体(ラダーフレーム)を使ったモデルが登場。こうした90年代のクルマたちを、自動車メーカー各社がSUVと称するようになった。

2000年代に入ると、BMW、メルセデスベンツ、そしてポルシェまでもがSUVモデルを発売するようになる。そのトレンドを追いかけるように、日系メーカーでもトヨタ、日産、ホンダがそれぞれの高級ブランドであるレクサス、インフィニティ、アキュラを含めてSUVモデルラインアップを拡充させていくという市場の流れが生まれた。

他方、アメリカ市場でのトレンドとは別に、東南アジアでも2000年代からSUVの普及が進み始めた。契機となったのが、トヨタのIMV(インターナショナル/イノベーティブ・マルチパーパス・ヴィークル)だ。
東南アジアを起点に、中南米、中東、アフリカなど向けにピックアップトラック、ミニバン、そしてSUVを仕立てるため、共通の車体構造で国や地域によって多様なエンジンを使い分ける車両設計と製造工程としたのがIMVである。
SUVでは「フォーチュナー」がある。IMVに対抗するため、三菱自動車やいすゞも東南アジアを起点としたピックアップトラックとSUVの開発や製造を進めてきた。

このように、SUVには、「アメリカ市場型」と「東南アジア市場・起点型」があり、商品性が違う。一部、フォード「レンジャー」のように両方に向けた市場型もあるが、これは珍しいケースである。

 アメリカで「オーバーランド」の影響

そうしたグローバルでのSUV市場の中で、ランドクルーザーは特殊な存在だ。特に「300」シリーズは超高級車の部類であり、本格的な四輪駆動車を必要としている各種の専門事業者、または富裕層のレジャー用が主な需要だ。

一方で、日本でこれまで「プラド」を名乗り、今回「250」となったライトデューティーなランドクルーザーは、より「SUVに近い」製品イメージに変わった。エクステリアやインテリアデザインでSUVらしさが強まっているが、車体構造に「300」シリーズと同じ、トヨタGA-Fプラットフォームを採用するなど、悪路走破性は従来のプラドから向上している。この「250」は、SUVで言えば「東南アジア市場・起点型」の上級モデルという扱いになるだろう。

さらに、「アメリカ市場型」としても導入される。アメリカでは、「300」シリーズの前モデルである「200」シリーズの販売後、「300」シリーズの導入が途切れていた。そこに「250」を導入することになったのだ。トヨタのランドクルーザー開発関係者によると「アメリカでの初期受注はとても好調」とのことだ。
これまでアメリカ向けにはプラドが導入されておらず、プラドを応用してエンジン仕様を変更した「レクサスGX」がラインアップされてきた。今回の「250」導入に伴い、アメリカではレクサスGXもモデルチェンジされる。

なぜ、トヨタはアメリカ市場向けで「250」を重視したのか?
背景にあるのが、アメリカで2010年代後半から流行している、「オーバーランド」というクルマの楽しみ方だ。ハードウエアとして見れば、アウトドア志向での車両の装飾を意味する。これを大自然の中での体験に活用する趣味の分野がオーバーランドだ。ただし、実際にそうした体験をする人は限定的で、そうしたイメージを優先するファッションアイテムという意味合いが強い。ここに、「ランドクルーザー250」の製品イメージが合致するのだ。

さらに、アメリカではEPA(連邦環境局)による燃費規制が強化される動きが進んでおり、大型SUVの電動化は必須の状況になってきた。そうした中で、「ランドクルーザー250」では2.4リッターガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車をアメリカと、同じく環境規制が厳しい中国市場に導入する。
このハイブリッドシステムは、2021年に北米向けフルサイズピックアップトラック「タンドラ」に採用した、モーター、制御システム、およびバッテリーと同機種。トヨタによれば、「ランドクルーザー250にも搭載することを想定して、タンドラを実際に販売する中で耐久性を検証した」という。

アメリカの乗用車市場では現在、7割以上がライトトラック(ピックアップトラックとSUV)で占められている状況。今後も、セダンやクーペからSUVへの市場転換がさらに進むことが考えられる。
こうしたアメリカでのトレンドは、ランドクルーザー250に見られるように、日本市場にも影響を及ぼしている。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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