最近、「空飛ぶクルマ」に関する報道が世界各地で増えている。日本政府も「空飛ぶクルマ」の実現に向けて積極的な動きを見せている。2018年12月20日には、第4回「空の移動革命に向けた官民協議会」で、「空飛ぶクルマ」の市場導入に向けたロードマップが公開された。
「空飛ぶクルマ」の基盤技術は、小型のドローンと共通な要件が多い。
具体的には、どちらも機体の構造が垂直離着陸の可能な飛行体(VTOL:ヴァーティカル・テイクオフ・アンド・ランディング)であること。複数のプロペラをモータで駆動するマルチコプターであること。また、飛行距離を伸ばすためには、消費電力が少ないモータと小型かつ大容量の蓄電池の開発が望まれる点が挙げられる。
こうした観点で、ドローン市場の現状を見てみると、イノベーションと呼ばれるような次世代技術はあまり見当たらず、技術面よりもサービス事業への対応を急いでいる企業が多い印象だ。
つまり、ドローン技術が足踏み状態の中、現状の技術を使った事業分野にヒト・モノ・カネが流れているのだ。
技術面で最も大きな課題は、未だに電池である。ドローンではリチウムイオン二次電池を使うのが一般的だ。電池のブランドとしては、ドローン業界最大手の中国DJIが自社製電池を採用。日本メーカーではマクセルのシェアが大きい。
マクセルの関係者によると、同社の電池はラミネート型の電池セルを積層して、電池モジュールと電池パックを構成する。ドローン向けの需要はまだ少ないため、介護用などのロボット向け電池と共用する部分が大きい。
同社のドローン向け電池パックは、電池セルを6直列し、電圧23.12Vで電池容量は127Wh。重量は、飛行することを考慮して800グラムと軽く設計されている。
だが、そうした最新型電池を使う中型ドローンの飛行可能時間は短い。例えば、6つの電池パックを搭載したドローン全体の重量が5kg、運搬可能な重量も5kgの中型ドローンの場合、満充電での飛行可能時間は約15分間にとどまる。
マクセルの電池を使うドローン設計者は「ドローンの飛行制御は、モータ制御のみなので技術的にはあまり難しくない。やはり課題は電池だが、近年中に電池の性能が一気に上がる見込みはないはず」と予測する。その上で、「結局、現状の性能の枠内でビジネスを構築するしかなく、分野としては測量や保守点検がメインで、物流のハードルはかなり高い」と指摘した。
現状、ドローンの弱点となっている短い飛行可能時間を逆手にとったビジネスモデルもある。
例えば、2019年4月1日に事業を始めるNTT西日本の子会社、ジャパン・インフラ・ウェイマークだ。同社のウリは、これまでNTT西日本向けに行ってきたドローンによる保守点検のデータを、水道、ガス、電力など様々なインフラ設備向けに応用できることだという。橋梁などの下部では、様々なインフラの電線やパイプなどが接地されている場合が多く、これまではインフラ関連企業それぞれが保守点検を行ってきた。近年はドローンを活用するインフラ関連企業も徐々に増えてきたが、これらをひとつの検査フォーマット化することでインフラ関連企業が負担するコストを削減できるという。
ドローンを使わない場合、作業員が高所の施設に上って点検するなど、手間がかかり、また気象状況によって作業員が危険な状況に遭遇することも考えられる。そうした過酷な労働環境を懸念して、作業員の確保も年々難しくなっている状況だ。
こうした一連の社会情勢と業界実情を考慮して、ジャパン・インフラ・ウェイマークはドローンによって短時間で効率良く保守点検を行うことを狙っている。
同社の関係者は「ドローンは現状、1回に15分程度しか飛行できないが、各種のインフラ施設で実際に確認するべき箇所は限られており、それらをピンポイントで抑えるためのノウハウと基礎データを我々が持っている」と、ドローンの弱点を逆手にとったビジネスモデルを強調した。
こうした保守点検に関する飛行調査で重要になってくるのが、ドローンの位置の把握だ。
手法としては、GNSS (グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム:衛星測位)を使うが、日本においては準天頂衛星システム「みちびき」の活用によって、他の国や地域と比べてGNSSでの位置精度を高く保つことが可能となってきた。
2018年4月、「みちびき」は初期段階における当初目標の4基体制となった。
送信している信号は、大きく5つの周波数帯に分類される。
L1信号が1575.42MHz、L2信号が1227.60MHz、L5信号が1176.45MHz、L6信号が1278.75MHz、そしてSバンド信号が2GHzとなっている。
主な用途としては、L1信号がサブメーター級、またL6信号がセンチメーター級測位補強サービスである。
みちびきのシステムを製造するNEC関係者によると「サブメーター級が1メートル前後、センチメートル級が6~12センチメートル」という。現状で米国のGPSとロシアのGLONASSを併用する衛星測位では、電波の受信状況によって大きく変わるが一般的に位置の精度は10メートル程度だ。
こうした位置の精度は、平面における数値であり、高さにおける精度は平面での精度の約3倍と言われている。
よって、ドローンの場合、センチメートル級でも高さの精度は18~36センチメートル程度あり、こうした誤差を十分に把握した上で、保守点検の検査を含めた飛行を行うことが必要となる。
センチメートル級の衛星測位に対応する高精度測位端末では、三菱電機がAQLOC(アキュロック)を発売しており、無人の農業用トラクターなどに活用されている。今春には性能を向上させた第二世代のAQLOC IIが発売される予定だ。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。