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ITS業界記事 MaaSやCASE、”コロナ後”の自動車産業はどう変わるのか?

 トヨタ「やめること、変えること、やり続けること」

緊急事態宣言が続く5月12日、トヨタが決算発表を行い、その内容が大きなニュースとなった。
来年3月期の見込みで、営業利益が今期から8割減少と予測したからだ。販売台数でも、22%減少という大きな落ち込みだ。
大きなニュースとなった理由は、こうした衝撃的な数字だけではなく、予測を発表したこと自体に対してでもあった。
同じ日に決算発表を行ったホンダは「合理的な算出ができない」として、今後の予測発表を見送ったからだ。また、日産など、他のメーカーは決算発表日を変更するなど、例年とは大きく違う社会情勢への対応に追われている状況だ。
このように、自動車産業が緊急事態となっている中、自動車メーカー各社は「コロナ後」の事業の進め方をどのように考えているのだろうか?

トヨタは、「やめること、変えること、やり続けること」と表現している。
やり続けることとして、2021年着工予定の次世代都市計画「ウーブンシティ」については「計画通り」(トヨタ経理担当役員)とした。いま、厳しい状況にあるからこそ、未来への投資を緩めてはならないと説明する。
一方で、「やめること」と「変えること」について、豊田章男社長が具体的な例を挙げることはなかった。

ホンダは、「生き残りをかけて、事業の選択と集中」を行うとした。特に、営業利益率が低い四輪事業では、製造拠点の集約を行う。その上で、次世代プラットフォームを採用しグローバルモデルでの派生車を現行の3分の1まで圧縮する。

 MaaSとCASEはどうなる?

トヨタやホンダに限らず、世界の自動車メーカー各社は今後、「やり続けること」や「選択と集中」の視点で効率的な投資が必要となる。
そうなると、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング等のサービス、電動化)やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)といった、2010年代から進めてきた次世代技術やサービスの領域で、ユーザーや部品メーカーにどのような影響が及ぶのか?
以下、分野毎に考察する。

コネクテッドとMaaS

緊急事態宣言の発令前後での地域内での人の移動状況や、新型コロナウイルスの感染者の移動状況の把握で、改めて脚光を浴びたのが、移動データの集約と解析だ。
今後は、有事での緊急的な対応も視野に入れて、平時でも有効に活用できる移動データサービスの議論が活発になるだろう。
現在のMaaSは、電車・バス・タクシーなど公共交通の再編を主体とした議論だ。これからは自家用車の活用も含めた防災についてもMaaSとして捉え、地方自治体を中心とした各地域での社会実情に合わせた真剣な取組が求められる。

自動運転

ホンダの決算報告で、八郷社長が、今年夏に導入予定だったレベル3自動運転の量産化について「社会需要性などを再度検証する」とコメントした。このレベル3自動運転は、運転の主体を自動車システムに移管する状態を、高速道路の渋滞時に限定したものだ。
レベル3自動運転は技術的には可能であり、また2019年に道路交通法と道路運送車両法が改正させれたことで法的な問題もクリアしている。だが、商品として成り立つのかを改めて考え直すことになる。
この事例が象徴するように、2010年代に世界各地で一気に加速した自動運転技術だが、これからは例え未来への投資といえども、社会需要性という名のビジネスとしての安定度が厳しく求められることになるだろう。

シェアリングサービス等

外出自粛の要請がある中、医療関係者など業務を継続する必要がある人たちの間で、感染防止のため公共交通を使わず、自動車での移動を優先する動きが増えた。その一環として、カーシェアリングの需要が伸びた。
また、トヨタが期間限定で法人向けに認定中古車の廉価リースを実施。ホンダは中古車のサブスクリプション「マンスリーオーナー」を地域限定で実用化した。
緊急事態宣言が解除されると、これまで通りに公共交通機関の利用が増える。とはいえ、自動車を所有せずに必要な時だけ使用する、自動車のシェアリングという概念が日本でも定着し、さらなる普及が始める可能性がある。

電動化

アメリカのZEV法(ゼロエミッションヴィークル規制法)や、中国のNEV(新エネルギー車)政策や、欧州グリーンディール政策によるCO2排出規制の強化は、コロナ後で大きな変化が起こるとは思えない。
だたし、世界規模での自動車生産の合理化が進む中、プラグインハイブリッド車のみならず、EV生産体制へ一気に切り替える大手メーカーが増える可能性が考えられる。

流通の変革

販売が止まり、在庫が増え、販売店の経営が圧迫される。売り場を失えば当然、製造台数が減り自動車メーカーの収益が低下する。
至極当然なことだが、改めて自動車産業が製造優先であり、製造と販売が分離している状況にあることを認識した自動車業界関係者も多いはずだ。
今後は、需要予測の上でのたんなる生産予測ではなく、自動車メーカー側が様々な状況に応じて自動車の供給体制をフレキシブルに対応するシステム作りが求められる。
トヨタが5月から実施している、実質的な国内ディーラー再編や、中古車オークションを含む自動車二次流通の再編などを含む、自動車流通の総括的な変革が進む可能性がある。

国や地域によって、経済活動再開の方法や時期は違うが、「コロナ後」には様々な形で自動車産業の変化が訪れるだろう。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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