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ITS業界記事 激化する、クルマの新たなるクラウド上の「プローブデータ・ビジネス」

 テスラ「モデルS」の自動運転は、大きな技術革新の“氷山の一角”

最近、日本では、テスラの自動運転が話題だ。自動に車線変更を行なうもので、国土交通省が2016年1月末に公道での実用を認めた。
これに先がけて、テスラのアメリカ本社では、在米の日系メディアを対象とした「自動車線変更の体験試乗会」を実施した。

試乗の基点は、米カリフォルニア州フリーモント市にあるテスラの組み立て工場だ。北側にサンフランシスコ市、そして南側にサンノゼ市が位置するサンフランシスコ湾周辺(通称:ベイエリア)の東岸にある。この工場は1980年代に、トヨタとGeneral Motors (GM)の合弁事業として立ち上がり、北米向け「カローラ」等を生産していたが、テスラが「モデルS」の生産拠点として買収したものだ。
試乗のコースは、テスラ工場の正面玄関を出てすぐ前にあるフリーウエイ880号線。制限最高速度の毎時65マイル(約104キロ)で走行しながら行なった。
操作方法は、ステアリングの左にある短いレバーを手前に引くと、前車を追従しながらクルーズコントロールが始まると同時に、自動車線変更の準備が整う。ウインカーレバーを上げると、クルマは周囲に様子を確認しながら、スゥ~っと車線変更を行なった。その状態では、ウインカーレバーは戻らないので、手動でウインカーレバーを戻さなければならない。
880号線の片道30分間の走行を2往復して、様々なシチュエーションの自動車線変更を試してみたが、感想としては“かなり運転の上手いドライバーの運転”と同レベルという印象だ。

こうした簡易自動運転が可能になった大きな理由は、画像認識技術の発達がある。その基礎技術をテスラに提供しているのが、イスラエルに開発本拠を持つMobileye (モービルアイ)だ。
その技術とは、単眼カメラで収集した画像データを、独自のアルゴリズムを用いて解析することで、走行に必要な“ビッグデータ”を生成することだ。同社は、画像認識に特化した半導体をSoC(システム・オン・チップ)で設計している。
こうした技術は、衝突軽減ブレーキに代表されるADAS (高度運転補助システム)向けとして、GM、フォルクスワーゲングループ、ボルボ、日産などの大手自動車メーカーが採用している。テレビCM「やっちゃえ、日産」で、ロック歌手の矢沢永吉氏が神奈川県追浜市の日産テストコースで走行している自動運転の「リーフ」も、モービルアイの技術が基盤にある。

 様々なプローブデータ事業で“デファクト”争い

前置きが長くなったが、本題に入る。
モービルアイはGMと、新たなるビジネスを始める。これは、GMの車載器システムの「On Star (オンスター)」を使って、走行している各車の画像データを、クラウドを通じて解析し、走行に関わるビッグデータ化するものだ。
こうした、走行中の車両からデータを吸い上げる手法は、一般的に“プローブデータの活用”と呼ばれている。
90年代からカーナビゲーションの量産化で世界をリードしてきた日本市場では、トヨタ、ホンダ、日産の日系ビッグ3それぞれが、独自のプローブデータを活用したビジネスモデルを構築してきた。だがそれらは、GPSなどのGNSS (グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)の受信データに基づく位置情報が主体だ。各車の位置と、移動の方向、移動の速度から渋滞状況を画面上に“可視化”したり、ルート検索の結果の修正などで利用している。

一方、モービルアイとGMのケースは、“カメラを通じて実際に見えているデータ”をプローブデータ化するもので、データの精度としては“単なる位置情報”と比べて明らかに高精度である。しかも、この高精度データが、走行距離1kmあたり10kbと、さほど重いデータでもないため、通信インフラに対する負荷も少なくて済む。
この他、クルマに関するプローブデータ事業としては、ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲングループが2015年12月に共同で買収を完了させた、ドイツの地図情報企業「Here (ヒア)」がある。だが、レーザーレーダー(通称:ライダー)を通じて収集する3Dマップデータは、モ―ビルアイによる画像データに比べて、1kmあたりのデータ量は1桁以上も大きい。
元来、モービルアイやヒアは自動車産業界のなかでは、ティア2(二次下請け)であった。しかし、プローブデータによる新たなるビジネス領域では、彼らは自動車メーカーと同等の立場で将来の技術革新を議論する立場にいる。
近い将来、欧米からは、さらに“新しいステークホルダー”が次々に登場するかもしれない。

 日本企業への期待

欧米で加速する、クラウド上の新たなる「プローブデータ」事業。こうした動きに対して、日本企業の立場はいまのところ、“お客さん”である。
自動車部品にしろ、電気部品にしろ、日本企業はハードウェアの高精度化や、低廉化に注力している。また、ソフトウェアの領域でも、それぞれのハードウェアを制御する頭脳部分であり、世に出回った自社のハードウェア全体を総括管理するようなソフトウェアサービスの構築は苦手だ。
今後は、通信インフラ事業者などと“これまでにない広い領域での業務提携”を組むなど、大きなステップを踏むことが必然になる。
こうしたなか、古野電気が2016年2月6日に公開した、ETC車載器の認証機能を活用したクラウド型車両認識サービス「CaoThrough (カオ・スルー)」は、DSRC (狭域通信)を使った新たなるサービス事業として大いに期待される。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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