FURUNO ITS Journal FURUNO ITS Journal

ITS業界記事 2050年、グローバルで四輪車・二輪車「交通事故死者数ゼロ」へ
~ホンダの最新安全技術を体験~

 ホンダの安全に対する理念

ホンダが2021年11月末「さくらテストコース」(栃木県さくら市)で実施した、「Honda 安全ビジョン・テクノロジー取材会」に参加した。
そこでは近年中に市場導入、または、まさに研究開発中の様々な安全技術を実際に体験することができた。

ホンダの安全理念は、「Safety for Everyone(共存安全)」だ。
本田技術研究所の大津啓司社長は「道を使う誰もが安全でいられる、事故に遭わない社会をつくりたい」と、ホンダ創業者の本田宗一郎氏が掲げてきた「人命尊重」と「積極安全」という想いを改めて説明した。
「積極安全」とは、自由な移動の喜びを前提としたうえで、安全に対して交通参加者が受け身の姿勢にならない、安全な交通社会を目指す考え方だ。
「好奇心に導かれ、外へ外へと向かい、リアルな世界を感性・五感豊かに感じて楽しむ」(大津社長)というホンダの企業姿勢である。

さて、社会の現実を俯瞰してみると、全世界の交通事故による死者数は年間約135万人にも及ぶ(WHO、2018年、世界保健機構調べ)。
このうち、四輪車は全体の約3割にあたる39.2万人、二輪車は四輪車より若干少ない37.8万人だ。次いで歩行者が31.0万人、また自転車が4.1万人で、残りの22.9万人がその他として分類されている。
国や地域別で見ると、最も多いのがインドで30万人。二輪車が約4割と、高い割合になっているのが特長だ。
次に多いのが中国の25.6万人で、歩行者が3割程度と高い数値となっている。
インドと中国は、ともに人口が10億人を超えるという母数の多さが交通事故死者数の多さにつながっていることは明らかだが、それと同時に交通インフラの未整備や安全運転に対するモラルに関しても課題があると考えられる。

また、それらを除くアジア圏は15.5万人で、二輪車と歩行者それぞれの交通事故死者数の割合が多い。
そのほか、先進国では、欧州が8.5万人、また北米が4.2万人で、四輪車による交通事故死者数が6割を超えている。
一方で、日本は0.5万人(2020年は2839人)とグローバルで見るとかなり少ない。
日本では高度経済成長による自家用車の普及等に伴い、1970年の交通事故死者数は過去最高の1万6765人となった。これに危機感をもった日本政府が交通政策強化に乗り出したことで、70年代は一気に減少傾向を示した。
80年代は再び増加傾向が続くも、90年代以降は衝突安全技術の強化、また2010年代以降には予防安全技術の進化等により、日本での交通事故死者数は減少していった。

 交通死亡事故の減少へ、先進国と新興国で異なるアプローチ

こうした社会変化の中、ホンダは将来目標として「2050年までに全世界においてホンダの二輪車・四輪車が関与する交通死亡事故ゼロを目指す」と宣言した。
これは新車販売のみならず、世界市場におけるホンダの保有車の全てを対象とする極めて高い目標設定である。2050年に向けた中間地点として、2030年までに世界市場で交通事故死者数の半減を目指す。

目標実現に向けて、モビリティの性能、交通エコシステム、そして人の能力という3つの分野が相互補完し、また相乗効果を生むことを目指す。
また、国や地域の交通環境には大きな違いがあるため、安全対応策は地域の実状に合わせる必要があるとも指摘する。
具体的には、2020年の死亡事故シーンを基準とした際に、先進国では、高度運転支援システムのHonda Sensingの技術進化と普及拡大によってその62%をカバーする。また、歩行者保護の衝突性能強化と先進事故自動通報によって残りの38%をカバーする。
一方で、新興国の場合は、Honda Sensingと二輪安全技術の進化によって50%、そして残り50%は安全教育や政府機関等への働きかけによる安全教育活動で対応する。

 技術の先に、人や自転車の行動予測

今回、さくらテストコースでは、既に量産されているHonda Sensingをさらに強化した、Honda Sensing 360を装備した試験車に試乗した。
各センサーによる検知性能が上がっており、特に前方斜め方向に中距離対応のミリ波レーダーを用いているのが特長だ。
近年発売されている、他の自動車メーカーの先進安全技術でも、フロントバンパーの両端部分にミリ波レーダーを装着し、見通しの悪い交差点での出会い頭事故の予防につなげている。多くの場合、周波数24GHz帯域のミリ波レーダーを用いており、検知可能距離は20~30m程度だ。また、一般的には、リアバンパ―の両端部分にも24GHz帯域のミリ波レーダーを用いて、隣の車線の斜め後方から接近する車両の検知や、後退時には周囲のクルマ等の動きを検知している。
一方で、Honda Sensing 360では「70台GHz帯域のミリ波レーダー」を用いているようだが技術詳細については明らかにされなかった。

さらに筆者が注目したのはAI(人工知能)を活用した、人や自転車の行動予測だ。
画像認識カメラで人の主な関節の動きや顔の向きを検知し、これからどの方向に動くのかを予測する。現状、自動車向けの画像認識カメラ技術では、背の低い小動物を検知することは難しいが、その研究中の技術を使えば、小動物の動きの予測も可能だという。
そのほか、脳科学の知見を活かした人の研究も非常に興味深かった。

 クルマと社会全体がつながるV2Xの世界

今回公開された研究開発の多くによって、2030年までに交通事故死者数を2020年比で半減させることを目指し、さらにその先となる2030年から2050年には、クルマと社会全体が通信でつながるV2Xの世界を目指すという。
例えば、V2P(歩車間通信)では、車載の画像認識カメラで人の動きを検知し、5Gの基地局でのエッジコンピューティング技術を用いて、歩行者のスマートフォンに対して車両の接近を知らせるアラートを発信する。ソフトバンクと共同で実証試験を行っている技術であり、5Gの社会実装と連動した実用化が期待される。
ホンダとしては、「それぞれの交通参加者の状態と交通シーンに応じた適切な情報を提供する」との立場だ。
ただし、情報提供の方法については「官民連携での標準化が必要」というにとどめた。

そうした中で、岸田文雄総理が総理大臣官邸で2021年11月16日、第1回デジタル臨時行政調査会を開催した。そこで岸田総理は年末までに「デジタル原則」を策定し、社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)に必要な改革項目を具体化すると発言した。
年明けには、「できるところから、速やかに制度改革に着手する」とし、2022年春には「デジタル時代にふさわしい経済社会構造を作るための、一括的な規制見直しプランを取りまとめる」ことを明らかにした。

モビリティと社会との”つながり(連携)”に関する議論が産学官で本格化することになる。
ホンダが目指す「すべての交通参加者がつながる時代」は、日本ではいつ実現できるのか?
今後の自動車メーカー各社の動きはもとより、日本のDX化の司令塔であるデジタル庁の動向についても注視していきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料) FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料)

FURUNO ITS Journal

2022年の記事

2021年の記事

2020年の記事

2019年の記事

2018年の記事

2017年の記事

2016年の記事

2015年の記事