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ITS業界記事 新設されたADAS試験場を取材
~自動車アセスメント(JNCAP)に新たなる動き~

 自動車アセスメントありきのADAS

やはり、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)は自動車アセスメントありき。取材の現場で改めてそう感じた。

今回取材したのは、JARI(日本自動車研究所)だ。
2022年7月、栃木県城里町の城里テストコースに報道陣や自動車業界関係者らを招いて、新設したADAS試験場を公開した。
合わせて、ADASに関連するテスト機器等のメーカーが、製品紹介の展示や新設のADAS試験場を使ったデモンストレーションを披露した。

JARIは高度成長期の1960年代後半に発足した公益的な機関だ。当時、自動車メーカーは自社工場の敷地内や郊外に大規模なテストコースがほとんどなく、財団法人自動車高速試験場が自動車産業界に対して大きな役割を果たしていた。そうした機能も含めて、1969年4月に自動車に関する総合的な研究機関としてJARIが誕生した。
また、2003年には電動車両の規格や標準を策定する財団法人の日本電動車両協会や自動車走行電子技術協会を統合した。
これにより、JARIは自動車技術の新領域である、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリングなどの新サービス・電動化)といった総合的な先進技術の評価などについて、公平で公益的な立場を保ちながら日本の自動車産業界への貢献度を高めている。

 ADAS試験場の概要

今回新設したADAS試験場も、まさに日本の自動車産業界をリードするような重要な施設といえる。
ADAS試験場の概要を紹介すると、目的は「交差点評価のための扇型走路」だ。
2018年から造成場所の調査をはじめ、これまで悪路試験場だった場所に2020年12月から造成をおこない、2022年1月から舗装作業に入った。
全舗装面積は3万平米で、周辺の丘を25m切土して、20m盛土することで、縦方向が0.33m、横方向が0.64mという高い平坦性を実現した。施工は日本道路が行った。
ADAS試験場のコースレイアウトは、縦方向に500mの直線路、横方向に300mの直線路があり、それら2つの直線路が交差するポイントを、一般道路の交差点に見立てている。

自動車メーカー各社の既存のテストコースの場合、楕円形(オーバル)の高速周回路、山間部の舗装路を想定したワインディング路、直線路ではアメリカのフリーウエイを想定したコンクリート路面や欧州の古い市街地を想定したレンガ敷き路面を設定するのが一般的なレイアウトだ。
また、近年はADAS対応のために、市街地を模したような信号機のあるコースレイアウトもある。筆者はこれまで、複数の自動車メーカーのADAS試験場を取材したことがあるが、自動車教習所のような雰囲気がある。
こうした環境の下で、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)や、アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置などの量産に向けた研究開発が進んでいる。

 JNCAPで交差点向けの自動ブレーキ試験導入を予定

なぜJARIが、このタイミングでADAS試験場を新設したのか?
背景にあるのは、2024年度に導入予定のJNCAPの交差点AEBS(Advanced Emergency Braking System:自動ブレーキ/衝突被害軽減ブレーキ)に関する試験項目の拡充だ。
JNCAPとは、Japan New Car Assessment Program。ここでいうアセスメント(評価)とは、自動車の衝突安全や予防安全に関する評価であり、これを第三者機関が行うことで自動車のユーザーにとっては、新車購入の判断材料のひとつになる。また、自動車メーカーにとっては、評価点を上げるため自社での研究開発が加速するというメリットがある。

このNCAPは欧州のEuro NCAPが世界をリードするという流れがある。
そのため、JNCAPも事実上、Euro NCAPで新規に採用される試験項目を参考にして、日本の道路事情や交通環境に合わせた対応をおこなってきたという歴史がある。
そのうえで、Euro NCAPでは2023年から、交差点での事故に対する予防安全試験を強化することが決まっている。
具体的には、次の4項目がある。(JARIの資料を引用)
①自動車どうしの事故として「右方出会い頭事故」相当。
②自動車と自動二輪車の事故として「右折時直進二輪車事故」に相当。
③自動車と自転車の事故として「右左折時直進自転車事故」に相当。
④自動車と歩行者の事故として「右左折時手前歩行者事故」に相当。

この中で、①では直進する試験車と交差する出会い頭車の速度はそれぞれ最大時速60km、②では直進する自動二輪車の最大時速60kmとなっている。 このように、Euro NCAPにおいて交差点での評価テストの対応速度が高まることから、2024年にJNCAPでも導入予定の交差点AEBS試験でも、Euro NCAP同等の速度で試験がおこなえる場所が必要となると見られている。

今回のデモンストレーションではテスト機器メーカー3社(日本電計、Humanetics、エアブラウン)が独自の技術を披露し、自動二輪車の試験車では時速100kmで走行してみせた。
会場内には、自動車メーカー各社や、自動車部品メーカー大手の関係者が400人近く来場して、JNCAPで導入予定の試験の流れを把握しようと、情報収集に努めていた。
ADASについては2010年後半から、自動運転の部類としてレベル1やレベル2といった分類がなされるようになった。

2021年にはホンダが、量産車として世界初となるレベル3を実現したものの、自動車メーカー各社の直近での技術方針としては、「当面は精度の高いレベル2が主流」と話す関係者が多い。
経済産業省の自動走行ビジネス検討会でも2022年に入ってから、そうした解釈でのロードマップを公開している。
今回のJARI取材でも各方面の関係者と意見交換したが、ADASの進化は、Euro NCAPやJNCAPなどの自動車アセスメントへの対応が最重要という声が多い。
今後も、リアルワールドでの様々な交通状況を想定し、自動車アセスメントの試験項目が拡充されることで、自動車の予防安全技術が着実に進歩していくことになるだろう。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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