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ITS業界記事 日本版スマートシティ、実用化に向けた新たな動き

 世界で唯一の未来型実験都市、ウーブンシティ

スマートシティにおけるデータの管理方法について、まだ多くの課題が残されている。
スマートシティとは、新しい都市開発の考え方のひとつで、ITを活用して人の暮らしや企業の社会活動の利便性を上げることを目標としている。
また、SDGs(持続可能な開発目標)という観点からも、運輸、通信、エネルギーなど多様な企業が自治体と連携して各種の実証試験を行ったり、実施に向けて検討したりしているところだ。

そうした中で、自動車メーカーが主導するスマートシティとして注目されているのがトヨタのウーブンシティである。
2019年に米ラスベガスで開催された、世界最大級の家電とITの国際見本市CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)2019で、トヨタの豊田章男社長がウーブンシティ構想を世界初公開した。
自動車産業界では2010年代半ば頃から、独ダイムラー・メルセデスベンツが提唱するCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングなど新サービス、電動化)の影響により、2010年代から2020年代にかけて「100年に一度の産業革命」が起こっているとの解釈が世界中に広まった。
そのうえで、クルマと社会との関係について、電力供給体制やデータ管理の観点から様々な検証が行われているが、自動車メーカーが独自で建設する大規模な未来型実験都市という事例は、いまのところトヨタウーブンシティが世界で唯一の存在だといえる。

2021年2月23日(富士山の日)には、ウーブンシティ建設地で鍬入れ式が開催され、2021年10月時点では基礎工事が着々と進んでいる。
これまで、ウーブンシティの活動内容について、具体的な資料やデータに基づいた発表はされておらず、豊田社長が決算発表の質疑応用で、断片的に説明されるという状況が続いている。

 データ管理とプライベートエリア、パブリックエリア

こうした中、ウーブンシティの建設地がある静岡県裾野市は2021年10月5日、メディアや市民向けに「みんなが誇る豊かな田園未来都市すそのの実現に向けて」というオンライン説明会を開催した。
出席者は、裾野市の高村謙二市長と、トヨタ本社取締役でトヨタの新規IT開発の統括会社ウーブンプラネットホールディングスのジェームス・カフナーCEOのふたりだった。

そもそも、ウーブンシティ建設地には1967年に稼働開始したトヨタ系の自動車組立工場があり、2020年12月に生産を中止し、それまでの事業を宮城県内のトヨタ関連工場に移管した。
トヨタと裾野市とは50年以上に渡り、地域に根ざした深い関係があるのだ。
今回のオンライン説明会で、ウーブンシティにほど近い裾野市岩波地区で裾野市が主導して定期的に開催している、ウーブンシティと地域との関係を考える住民参加型ワークシップの模様が紹介された。

具体的には、トヨタが企業版ふるさと納税制度を使い、岩波地区にあるJR御殿場線岩波駅周辺の再開発を行う。
そこでは、東京オリンピック・パラリンピックでの活用された小型自動運転バスのe-Palette(イーパレット)や、トヨタがすでに市販している立ち乗り式の小型モビリティ「C+walk T」などを活用し、岩波駅周辺をウーブンシティとの交通結節点とする。
一方で裾野市は、2021年1月に取りまとめた第5次裾野市総合計画があり、その中でウーブンシティとの連携を考慮した「スソノ・デジタル・クリエイティブ・シティ構想」を立ち上げている。

トヨタと裾野市はそれぞれの立場で、ウーブンシティと地域社会がどう向き合うべきかを、ワークショップやオンライン説明会などを通じて、人と人が顔を向き合わせて話し合う機会を大切にしている。
こうした中で、課題となるのがデータの取り扱いだ。

カフナーCEOは「一般的にスマートシティと呼ばれるプロジェクトのほとんどが、公共の土地を基本として考えられているが、ウーブンシティはトヨタ関連のプライベートエリアだ」という事業の基盤について触れた。
その上で、「岩波地区における、人やモノの移動などのデータの所有権や管理体制を、トヨタと裾野市でどのように体系づけていくのか、今後さらなる協議が必要だ」と指摘した。
世界的なスマートシティの事例としては、例えば中国北京大学周辺のIT企業が集約する地域や、アマゾン本社がある米ワシントン州シアトルなどが、すでに事業体と行政との関わりが深いことから事業化しやすい環境があるといえる。

一方で、グーグルが新たに進出しようとしたカナダ・トロントの事例では、様々な要因があるにせよ、結果的に構想が頓挫してしまった。
スマートシティを成功に向けた大きなハードルとは、カフナーCEOが指摘する、プライベートエリアとパブリックエリアでのデータ共有の難しさにあるのではないだろうか。

 データ管理はGAFAM待ち? 日本はどうなる?

このような企業と自治体など行政機関との間のデータ管理をスムーズに行うため、都市OSという考え方がある。
OS(オペレーティングシステム)といえば、アップル社のiOSや、グーグルのAndroidなどがよく知られているが、一般的に都市OSは、データのプラットフォーム化という意味合いで使われることが多い。
日本では各省庁で都市OSに関する議論がある。

例えば、国土交通省は2020年に「MaaS(Mobility as a Service)検討会」で、MaaSプラットフォームという考え方を協議した。
そのなかで、日本はグローバルスタンダードでの既存システム(またはOS)を有効活用せざるを得ない、という見解を示している。
つまり、GAFAM(Google, Apple, Facebook, Amazon, Microsoft)との共栄共存が必要だという解釈である。

日本政府は2020年度まで、スマートシティやMaaSなど、データを活用した街づくりの政策立案に関して、内閣府、総務省、国土交通省、経済産業省などで合計5つの協議体系が並存してきた。岸田政権ではこれらの議論を新設するデジタル庁を中心に集約する可能性がある。
日本版スマートシティの実用化に向けて、産学官連携の再点検が始まる。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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