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ITS業界記事 クルマを使った災害時のデータ活用

 災害時の情報収集能力に個人差

2021年8月、お盆の時期に九州、山陰、関東など全国各地で起こった豪雨災害。
前線が長く停滞することで発生した線状降水帯の影響だ。
気象庁と国土交通省は、線状降水帯の発生が予想できた時点で共同記者会見を開き、「命を守る行動」を取るよう注意喚起をおこなっている。

また、災害に対する市民の心得について内閣府は、河川氾濫、土砂災害、高潮、津波、さらに原子力災害など様々な災害を対象とした「避難情報に関するガイドライン」を発表しており、改訂版が2021年5月に公開されている。
一方で、避難の方法について、避難する人の生活状況や災害時の現場状況に応じた移動手段が必要となるが、自動車の活用に関する詳しい記載はない。

一般的には、道路が冠水すると自動車は水中に浮き運転不能となり、その後に水没する危険性が高いため、利用を避けるよう呼びかけがある。
一方で、そうした事態を避けるため具体的にどのような状況で自動車を利用するべきでないかは、あくまでも個人の判断に委ねられているのが実状だ。
仮に走行が可能でも、一部の道路で冠水や土砂崩れなどによる通行止め、過度の渋滞が発生するなどして、最悪のケースでは目指す避難所まで辿り着けないことも考えられる。

そうした事態に陥らないためには、交通、天候、被害の実状、負傷した場合の救急対応など、住民に対する情報発信と住民側からの情報収集を、地方自治体や警察が一元的に管理することが望ましい。
だが、災害時の情報発信については現状、地方自治体の有線による防災放送やスマートフォン等を対象としたSNSでの情報発信、またはカーナビゲーションのシステムを提供する個社の災害時情報に限定されている。

 必要とされるプラットフォーム構築

災害時のクルマによる情報管理については、いわゆるコネクテッドカー技術の一環として、自動車技術や情報通信関連の業界団体などで、その対応が以前から議論されてきた。
例えば、一般社団法人 情報通信技術委員会のコネクテッドカー専門委員会では「災害時の自動車を用いた情報通信システム」として「V-HUB」がある。
きっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災だ。

その後、GoogleやAPPLEによるスマートフォンと車載器との連携や、第五世代通信(5G)を活用した次世代のITS(Intelligent Transportation Systems:高度道路交通システム)に関する研究開発や実証試験が、国内でも数多く行われるようになった。
とはいえ、前述のように災害時のクルマを活用した情報収集と解析、さらにそれに基づく利活用についての実績はあまり多くない印象がある。

そのほか、近年ではMaaS(Mobility as a Service)という考え方のもと、自家用車、公共交通機関、医療機関、そして地方自治体などで情報を共通化するデータプラットフォームに関する議論が始まっている。
だが、これも現状ではガイドラインという位置付けにとどまっており、データプラットフォームの具体的な策定については、トヨタとNTTが協議を始める旨の発表をおこなっているものの、これが日本国内で今後、実質的な標準化であるデファクトスタンダードになるかどうかは不透明な情勢だ。

 被災者支援としてのクルマの役目

災害発生後の被災者支援では近年、クルマの役目がクローズアップされることも増えた。
EV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)を災害時の電源として一時的に利用するなどだ。
例えば、日産では2018年5月から日本電動化アクション「ブルー・スイッチ」を展開し、全国で100カ所以上の地方自治体と地元の日産ディーラーが、災害時の電源としてEVなどを無償で共有する連携協定を結んでいる。

トヨタの場合、2019年9月の台風15号による影響で約93万戸の大規模な停電が発生した千葉県で、政府や東京電力からの要請を受け、当初はハイブリッド車1台、プラグインハイブリッド車8台、そして燃料電池車5台を準備し、その後さらに合計75台まで電動車の派遣台数を拡大して災害時対応にあたった。

今後、クルマの電動化がさらに進む中で、自動車メーカーや自動車販売店が主導する電動車の電源利用だけではなく、企業や個人が所有する電動車を地域社会全体で非常用電源として活用する仕組みに発展する可能性もあるだろう。
そのためにも、地方自治体が主体となり、これを自動車メーカーや通信関連企業がバックアップする、災害時の総括的な情報管理システムの構築の必要性が高まると思う。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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