FURUNO ITS Journal FURUNO ITS Journal

ITS業界記事 自動車業界のビッグデータ主導権争い。企業間の連携がますます重要に。

 マニュファクチャリングからデータビジネスへ転換

自動車産業はいま、100年に一度の大きな変革期の真っ只中にいる。その変化を12月上旬、筆者は肌身で感じた。

米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)は12月12日~13日、東京都内でGTC (GPU テクノロジーカンファレンス)ジャパン2017を開催した。
GPUとはグラフィックス・プロセッシング・ユニットの略称で、その名の通り画像や映像の演算処理に適した半導体(プロセッサ)だ。近年は、自動運転に対応する画像認識(Image Recognition) での深層学習(Deep Learning)に用いられることが多い。一般的には、人工知能(AI: Artificial Intelligence) と呼ばれる分野である。

これまで、自動車産業における半導体メーカーの位置付けは、自動車部品メーカーへの納入者であるティア2(二次下請け業者)だった。技術的にはエンジン、トランスミッション、パワーステアリングなど、各種の操作機器(アキュチュエーター)を正確に作動させることが主な目的だった。
ところが近年になり、車載器(Embedded System) とスマートフォンやクラウドとの連携によるコネクテッドカーや、自動運転向けの画像認識など、新しい技術分野で高性能な半導体の需要が高まってきた。
今回のGTCでも、NVIDIAの創業者でCEOのジェンスン・フアン氏の基調講演では、自動運転など自動車産業への進出を強く打ち出した。

ちなみに、筆者は11月末、米カリフォルニア州サンノゼ市内のNVIDIAの新社屋を訪問し、同社の自動運転に関する詳しい説明を受けている。また、同社の競合であるインテル本社も訪れて自動運転のワークショップを見学した。
シリコンバレーの半導体大手が自動車産業への本格進出を決めた最大の理由は、ビッグデータを活用した新たなる事業化だ。

 トヨタとパナソニックが”さらなる連携”へ

GTCジャパン2017での2時間に及ぶ、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏の基調講演が残り15分になった頃、筆者の携帯電話にメッセージが入った。
発信元はトヨタ自動車広報部だ。この日の午後3時半から都内で、トヨタとパナソニックの共同記者会見があるという。一般的に、こうした開催ギリギリに通知される会見はビックニュースである場合が多い。そのため、筆者は午後のスケジュールを調整して、トヨタ・パナソニックの記者会見の最前列の真ん中に席を取った。質疑応答の際、筆者はトヨタの豊田章男社長とパナソニックの都賀一宏社長のそれぞれに質問した。
会見の主旨は、両社が共同でEV(電気自動車)向けの角形リチウムイオン二次電池の開発で連携するというものだ。だが、いつまでに、どこで、どのように連携を進めるなど、具体的な内容は明らかにならなかった。ハイブリッド車向けの電池では、パナソニックEVエナジー社としてトヨタに納入を続けている段階で、こうした会見を行った意味とは、両社がEV向け電池のみならず、今後は包括的な技術提携も視野に入れているのではないかと考えるメディア関係者が多い。ビッグデータも、そのキーポイントになるだろう。

 ビッグデータの事業化。ビジネスモデル確立は未開の地。

自動車産業において、ビッグデータをどのように活用して事業化するのか?
そのビジネスモデルは未だに確立されていない。

構想としてあるのは、例えばトヨタの場合、2016年末に発表したモビリティ・サービス・プラットフォームがある。
トヨタは2020年までに、国内で発売するすべての新車にクラウドとデータ送受信を行うための機器、DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)を搭載する。これによって、トヨタはGPSによる位置情報や、加速・減速・ハンドルを切る角度(Steering Angle) などユーザーがどのように車を使用しているかの詳細データを得ることができる。

まずは、そうしたビッグデータを、故障を事前に検知してユーザーに通知し、ディーラーへ誘導することが考えられる。これによって、ディーラーの収益が上がる。
また、自動車保険については、「走った距離」に対応するペイ・アズ・ユー・ドライブ(Pay As You Drive :通称PAYD≪パイド≫)から、「どのように走った」に対応するペイ・ハウ・ユー・ドライブ(Pay How You Drive :通称PHYD≪ペイド≫)へと保険の基本システムが変わっていくことになる。 この他には、ユーザーのライフスタイルに対応して、新車販売、中古車販売、リース、そして個人間のカーシェアリングなど、様々な自動車の利用方法を組み合わせることで、ユーザーの利便性の向上とコスト低減を図ることもできる。

このように、ビッグデータを把握することで、自動車産業はこれまでの製造販売業から、ビッグデータを活用したサービス業へと大きく転換していく。
そのため、NVIDIAやインテルなどの半導体メーカー、パナソニックやソニーなどの電気メーカー、さらにはアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどのクラウド提供企業(クラウド・プロバイダー)などと、自動車メーカーとの関係が今後ますます強まっていくことになるだろう。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料) FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料)

FURUNO ITS Journal

2024年の記事

2023年の記事

2022年の記事

2021年の記事

2020年の記事

2019年の記事

2018年の記事

2017年の記事

2016年の記事

2015年の記事