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ITS業界記事 ドライバーの高齢化と、日本国内での事故対策への動き

 減少しない、高齢ドライバーの事故

高齢ドライバーによる交通事故が目立つ。
高速道路を逆走したり、朝のラッシュ時に歩道に乗り上げたり、そしてコンビニの店内に突っ込むなどの事例が数多く発生している。ドライバーは70代、80代だけではなく、60代も多く含まれており、重大な交通違反や、交通事故を起こす高齢ドライバーが後を絶たない。

各種の事故の事案を受けて、テレビ、新聞、インターネットでは、「高齢ドライバー問題」として捉えて、特集などを組んだ報道が続いている。

こうした社会の情勢を見ていると、多くの人は、最近になって交通事故が増えていると思うのではないか?
しかし、実際には交通事故は近年、減少している。警察庁の発表によると、ピークは2004年の95万2720件で、2016年には49万9232件と半数近くまで大幅に減っている。
これに伴い、交通事故による死者の数も減少しているのだ。2016年は3904人で、ピーク時だった1970年の1万6765人と比べると約4分の1である。

一方で、75歳以上の死亡事故は過去15年間ほど、ほぼ横ばいの状態。そのため、全体としては減少している中で、高齢ドライバーの事故が目立つという結果になっている。
また、日本の人口ピラミッドを見ると、少子高齢化の傾向が鮮明で、今後は全人口に占める65歳以上の割合を示す高齢化率が上昇し続けることが確実だ。

免許の保有者数では、2015年時点で8215万人。このうち、75歳以上は全体の5.8%にあたる478万人だが、この数字も今後、確実に上昇していく。
世界で他に類のない高齢者社会を迎えた日本で、高齢ドライバーの問題は極めて深刻なのである。

 深刻化する逆走事故

高齢ドライバーの事故の中で、最も深刻なのは道路の逆走だ。
一般常識では考えられない、こうした状況が頻繁に起こっている。実際の様子については、日本自動車連盟(JAF)が対向車に装着したドライブレコーダーの動画を公開しているが、様々な逆走のケースが見受けられる。
逆走については、警察がその場で交通違反として取り締まる、または逆走の目撃者からの通報を受けて、後日その車両を特定して警察が運転者から状況を聞くといった対応をしている。ただし、これらのケース以外にも、様々なところで高齢ドライバーによる逆走が発生しており、その全容を把握することは難しい。

そうしたなかで、カメラや各種センサーが装備されている高速道路では、逆走の実態をしっかりと把握できている。
国土交通省によると、全国の高速道路では、2日に1回の割合で逆走が発生している。逆走を検知したうえでドライバーを確保する場合、または逆走によって事故が発生した場合に、ドライバーの年齢を確認している。その結果、逆走した人全体の67%が65歳以上、30~65歳未満が25%、それ以外が30歳未満となった。
こうした状況を受けて、国がまず着手しているのが、インターチェンジやジャンクションにおける、各種表示物の設置だ。ヘッドライトがあたると強く輝く大型の矢印看板や、路面上の大型の矢印表示で、高速道路の進行方向を明確にしている。また、本線との合流エリアでは、ゴム製のラバーポールを追加している。

 逆走対策に向けた技術開発、公募

逆走対策に関する技術開発も進められている。2016年11月から2017年2月まで、高速道路における逆走対策技術の公募を行った。その中から、2017年4月より約1年間に渡って実証試験が行われる。

公募の内容は、大きく3つの領域に分かれる。
1つ目は「検知」。道路インフラ側で逆走を発見して、その情報を中央管制センターで集約する技術だ。具体的には、渋滞状況の把握で活用しているトラフィックカウンターなどを使う。
2つ目は「警告」だ。車内では、カーナビゲーションと連動する。カーナビゲーションでは、自車の位置、移動している方向、移動中の加速度が把握できるため、逆走の検知が可能だ。そして、道路インフラ側では、高速道路の出入り口に逆走を検知する専用のセンサーを設置して、LEDによる大型の表示や音声によって、ドライバーに逆走を警告する。
この他には、ETC2.0の狭域通信(DSRC)を活用した逆走を警告するシステムについて、国の研究機関が開発を進めている段階だ。

さいご3つ目が「誘導」だ。これは、ドライブレコーダーなど車載カメラで逆走を検知し、その情報を車載器で収集した上で、カーナビゲーションの画面を通じてドライバーを適切な方向へ誘導するものだ。

 自動ブレーキやアクセル・ブレーキ踏み間違い防止など、一般道路でも進む事故対策

高速道路での逆走防止対策については、高速道路が道路事業者によって管理されたエリアであるため、一般道路と比べて高齢ドライバーの事故への対応がしやすい。

一方で、一般道路では、車載装備による事故防止が重視される。
その中で、近年になって装着するクルマが増えているのが、日本自動車工業会では衝突被害軽減ブレーキとも呼ばれる自動ブレーキと、アクセル・ブレーキの踏み間違い防止装置だ。

まず、自動ブレーキについては2015年、新車搭載台数が190万台を超えた。これは、乗用車の生産台数の43.2%を占める。
ただし、そのほとんどは対物や対車両を想定したもので、歩行者の認識率はあまり高くない。自動車アセスメントであるJNCAPでは、歩行者保護に対する評価試験の追加をすでに決めており、2016年後半から2017年にかけて発売された新型車のなかには、歩行者にも対応する自動ブレーキ機能を搭載したものがある。

そして、アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する機能については、2015年の乗用車の新車販売台数の31.6%を占める約140万台が装着している。
これら事故対策機能には、カメラや超音波センサーを用いた技術などが使われいるが、自動車メーカー各社のノウハウが集約された技術であり、その詳細について各メーカーの技術は多くを語ろうとしない。

また、国土交通省は軽自動車を製造するスズキ、ダイハツ、ホンダ、三菱自動車に対して2016年12月、自動ブレーキ等の安全対策部品を、既存の車両に後付けする装備についてのアイディアをまとめるよう要請した。2017年2月を目途に、第一回目の報告が行われる予定だ。
この他、高齢ドライバーの事故の対策には、自動運転などが有効だとされるが、それについては別の機会に紹介したい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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