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ITS業界記事 次世代電動車の普及に向け、いまだ不透明なエネルギーマネジメントの未来

 次世代電気自動車(EV)「ゼロシリーズ」を取材

電気自動車(EV)や燃料電池車(FCEV)などの次世代電動車が普及するために重要なのが、エネルギーマネジメント事業の構築だ。

だが、その方向性が未だに見えてこない印象がある。
直近で、エネルギーマネジメントに関わる自動車メーカー、自動車部品メーカー、電気メーカー、そして地方自治体などの関係者と意見交換して、そう感じる。

例えば、ホンダだ。
ホンダは次世代電気自動車(EV)「ゼロシリーズ」のコンセプトモデルを3月上旬、国内で初公開した。1月上旬にはアメリカのコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で世界初公開したが、今回はホンダ本社のウェルカムプラザでゼロシリーズを担当したデザイナーやEV開発担当者らが報道陣の取材に応じた。

展示されたコンセプトモデルは、車高が低いスポーティな「SALOON(サルーン)」とミニバンのような「SPACE-HAB(スペースハブ)」の2台。
このうちサルーンはこれを基にして量産化の方針。ホンダ関係者によれば「新車価格は1,000万円を超える可能性が高い」という。発売時期は2026年を見込む。

ホンダはゼロシリーズの特徴について「共鳴を呼ぶ芸術的なデザイン」、「安全・安心のAD/ADAS(自動運転/予防安全技術)」、「IoT(インターネット・オブ・シングス)・コネクテッドによる新たなる空間価値」、「人車一体の操る喜び」、そして「高い電費性能」の5つを挙げている。

これに対して、筆者としては「物足りなさ」を感じた。ここでいう「物足りなさ」とは、エネルギーマネジメントをベースとした、新たなビジネスモデルの創出に向けた計画が未発表であることを指す。

そもそも、ホンダはエネルギーマネジメントについて、eMaaS(イーマース)という概念を提唱してきた。MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)は、様々なモビリティをIT技術を使って社会で有効活用すること。eMaaSはこれに、ホンダ独自で構築する再生可能エネルギーのエコシステムを組み合わせるという概念だ。
eMaaSの実行に向けて、ホンダはこれまで様々な実証試験を行ってきたが、社会実装の目処がついた事例は少ない。
その中で、最も社会実装が早いと考えられる交換型小型バッテリーのモバイルパワーパック(MPP)がある。だが、MPPでホンダとの連携を模索している他メーカー関係者は「コスト面などを考えると、正直なところ、弊社としての本格事業化の先行きは不透明」と本音を漏らす。

その他、ゼロシリーズに関わるホンダ関係者らに対して、筆者が「エネルギーマネジメントに対するロードマップを早急に公開する必要があるのではないか?」と問いかけた。
だが、関係者の多くが筆者の考え方に同意するも、いつ、どのようにエネルギーマネジメントに関する計画を公開するのか、具体的な話は出てこない。
そんなホンダとの意見交換の11日後、ホンダと日産は共同会見を開き、「自動車の電動化・知能化時代に向けた戦略的パートナーシップの検討を開始」を発表した。
それでも、この会見では記者との質疑応答を含めて、ホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長からはエネルギーマネジメント事業に関するコメントはなかった。

エネルギーマネジメント事業は、社会インフラとの連携が必須であり、ホンダと日産という大企業としても、総括的な事業計画を立てるにはクリアするべきハードルが多数あることが予想される。
両社は今後、各分野における事業連携でワーキンググループを作り議論を進めるとしており、エネルギーマネジメント事業についても近いうち、社会実装に向けたロードマップが提示されることを期待したい。

 BYDに感じた、エネルギーマネジメントの可能性

「H2 & FC EXPO 春」(2024年2月28日~3月1日:東京ビッグサイト)でも、各方面の関係者とエネルギーマネジメント事業の可能性について意見交換した。
その中で、充電機器、蓄電池、水素製造機、発電用大型風車などのハードウェアを扱うメーカーの場合、エコシステム全体に対するビジネスモデルを提案しているケースは極めて少ないという印象を持った。
例えば、持続可能な街づくりを実際に行っている大手メーカーでも、その事例を他の地域に横転換する具体的な事業のロードマップを現時点では示していない。

また、EVやFECVにおいて、個人ユーザーと法人ユーザーに対して直接商談する立場にある自動車販売店でも、エネルギーマネジメント事業全体の提案は行えていないのが実状だ。

一方、エネルギーマネジメント事業における新たな可能性を感じたのは、中国のBYDだ。
同社は、H2 & FC EXPOでは定置型の小型・中型の電力供給システムを出展。また、これとは別に都内で、報道陣向けに2024年の事業戦略説明会を実施した。
同会の質疑応答の際、筆者はBYDジャパンの劉学亮社長に対して、2023年から日本試乗に参入した乗用EVとエネルギーマネジメント事業との関わりについて聞いた。
これに対して、劉社長は「できるだけ多くの日本企業と、エネルギーマネジメント事業に関するすり合わせをしていきたい」と、今後の事業展開に積極的な姿勢を示した。
これまで日本の自動車メーカー、電機メーカー、電力・ガスといったインフラ企業などが単独で実行できなかったエネルギーマネジメント市場を、BYDが開拓する可能性もあるだろう。

もし、そうした動きが表面化すれば、例えばスマートフォンなどを扱う通信関連企業など、これまで自動車やエネルギーマネジメントに直接関係してこなかった異業種からの市場参入も出てくるのかもしれない。

欧米ではEV市場の成長が鈍化している状況が見られる中、日本発のエネルギーマネジメントのビジネスモデルが今後、グローバル市場に影響を及ぼすことに期待したい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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