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ITS業界記事 常石造船の製造とDX。本社工場を単独取材

 様々な業界から注目される常石造船

今、常石(つねいし)造船という企業に対して、様々な業界から注目が集まっている。
常石造船は1917年(大正6年)、瀬戸内の広島県福山市沼隈町常石で創業した、造船業と海運業を主な事業とする常石グループの中核企業だ。

注目されている理由はいくつかある。
直近で最も大きなインパクトがあったのは、2021年10月1日に発表された三井E&S造船(商船事業)との資本提携の締結である。
三井E&S造船は、旧三井造船の船舶・艦艇事業本部が前身という、日本を代表する造船大手だ。

常石造船とは2018年5月から、商船事業分野での共同研究開発、部品の調達活動の相互協力、そして人材交流などが検討されてきた。
近年、日本の造船業界では、中国など海外企業との製造コストにおける競争力の強化が重視される中、日本の国内外での提携、合弁、買収などが目立つようになってきた。
常石造船は今回の三井E&S造船との資本提携により、船の自動運転である自動操船など、先進技術の分野での飛躍が期待される。

また、カーボンニュートラルへの対応でも2021年9月30日に、電動のパワーユニットを搭載する船舶について常石造船を含む関連企業から正式に発表された。
それによると、常石造船は日本製鉄、NSユナイテッド内航海運、川崎重工などと連携し、内航での石炭運搬船で、天然ガスエンジンを活用したハイブリッド船を建造する。
ハイブリッド船の寸法は、全長約93.8m×型幅約19.2m×型深さ約9.9m、載貨重量は約5560トンで、2024年2月に青森県下北半島の尻屋岬港から室蘭港での運航開始を予定している。

そんな常石造船の心臓部とも言える、常石本社工場を筆者が単独で取材した。

 ばら積み貨物船の製造。現場で見たこと聞いたこと

2021年10月後半、JR福山駅からレンタカーで瀬戸沿岸へ出た。
まずは、宮崎駿監督のスタジオジブリ映画「崖の上のポニョ」のモデル地域になったことでも知られる、鞆の浦(とものうら)に立ち寄った。
そこからさらに沼隈(ぬまくま)半島を西に向かうと、道はいったん山間部に入り、さらに先に進むといきなり巨大なクレーンが立ち並ぶ造船関連地域が姿を現した。

ここが、常石である。
常石造船本社と常石工場は、周辺を含めて総面積は約50万平米。東京ディズニーシーより若干広く、東京ドームで換算すると10個強という広大な敷地だ。

出迎えて頂いたのは、常石造船の常務取締役の芦田琢磨氏。常石工場長であり、中国やフィリンピンの工場を統括する。今回の場内視察や意見交換の場には、各部署からの皆さんも参加して頂いた。
工場内の視察では、最初に船台(せんだい)を見た。

船台は、船の本体である船体を最終的に組付けて、完成した船を進水させるための施設だ。
視察時には、常石造船の主力製品である、ばら積み貨物船「KAMSARMAX(カムサマックス)」(8万2000トン)の作業が行われていた。

KAMSARMAXの名前の由来は、パナマ運河を通り、ギニアのカムサ港に入港可能な最大サイズであることから。ばら積み貨物船のグローバルスタンダードというべき、造船業界のベストセラーとして、2003年からこれまで約340隻がここで製造された。
全製造工程は10~11カ月で、エンジン動力を推進力とするプロペラや、操船を行う舵などの部品を、常石造船では自社で設計しているのが特徴だ。

次に、内部工場(ドック)を視察した。
工場内での作業の流れは、鋼材メーカーから納入される鉄板から、NCせん断機器による部品素材の製造工程、大型のプレス機による部材のプレス工程や部材の曲げ工程、部品の溶接工程を経て、その後に別棟の塗装工程へと移る。
部材の曲げ工程の一部は、今でも作業員が部材をひとつひとつ手作業で加熱して変形させるなど、職人技も受け継がれている。
KAMSARMAX等のばら積み貨物船は、1隻あたり約30万点の部品で構成されており、そのうち鉄板の関連部品が約10万点とのことだ。

ばら積み船などの商業船の構造は、船の母体である船体、エンジンや機械プラントがある部分、そして運航に関わる人が滞在する居住区という、大まかに3つの要素で構成されている。
船体については、約80のモジュールを製造し、これらをクレーンで釣り上げて組み上げていく。一部のモジュールは部材を常石造船の海外工場に送り、モジュールとして組み上げてから再び常石本社工場に持ち込むケースもある。

現在、常石造船は本社、中国、フィリピンの3工場で年間約50隻を製造しており、製造コストを考慮し、日本は全体の20%弱として、残りが海外で製造している状況だ。

 常石造船のDX。船舶事業の現状とこれから

一般的なイメージでは、ばら積み貨物船のような商業船は、自動車のように頻繁にモデルチェンジすることはないと思っている人が少なくないのではないだろうか。
ところが、実際には、ばら積み貨物船でも4年や5年に一度といった比較的早いペースで、フルモデルチェンジがあるという。
理由は、それだけ顧客のニーズがあるからだ。

近年は燃費競争も激しくなってきたが、開発・設計としては流体に関する数値計算を行うシステムが構築されており、開発スピードも上がっていることで、モデルチャンジがしやすい環境となった。
そうした基本的な設計要件のみならず、設計から製造における総括的なマネージメントの領域で、常石造船ではDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。
芦田常務も「DXの効果は確実に現われている」として、さらなるコスト競争力の強化と、自動操船やハイブリッド船など新技術の開発にも社内のDXを有効に活用していく構えだ。

また、今回の視察を通じて驚いたことのひとつが、新品の船舶の価格が売買契約時での時価であるという点だ。しかも、その価格変動幅がかなり大きい。
グローバルで、ウィズコロナからアフターコロナに向かっている現状では、造船事業において材料価格の高騰に加え、船舶市場での需要と供給の変化をタイムリーに把握することが、造船事業の成功の秘訣であることを痛感した。
造船を含めて船舶関連領域についても、今後も定常的に取材を続けていく予定だ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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