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ITS業界記事 クルマが「V2Iで自走」する生産ライン
~トヨタ、モノづくりワークショップ2023~

 トヨタ次世代BEVの自走デモラインを視察

トヨタは2023年9月中旬、地元の愛知県豊田市とその周辺で、報道陣向けに「モノづくりワークショップ2023」を開催した。これは、同年6月上旬に静岡県裾野市のトヨタ東富士研究所で実施した「テクニカルワークショップ2023」のフォローアップである。

テクニカルワークショップでは、これまで未公開だったトヨタの次世代技術を一挙に公開して、産業界や自動車ユーザーの間で大きな話題となった。
例えば、欧州や中国、そして北米でグローバルにBEV(バッテリーEV:電気自動車)市場が拡大する中、トヨタでは社内にBEV専業の組織としてBEVファクトリーを新設。BEVファクトリーは製品企画、部品調達、製造、販売などBEV事業を一気通貫して管理運営する。
2030年時点で、トヨタはグローバルで350万台のBEV販売総数を目標に掲げているが、このうちBEVファクトリーによる次世代BEVは170万台とした。
残る180万台は、「bZ4X」など既存のBEV専用車体であるe-TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を活用したモデルと、トヨタがマルチパスウェイプラットフォームと呼ぶ多様なパワートレインを積むTNGAとなる。

次世代BEVについて、技術面では2026年から2028年での量産を目指す全固体電池など、5種類の新規開発バッテリーに注目が集まっている。今回、バッテリーの開発ラインの様子や、車体の一部を高い圧力で一体成型する鋳造の「ギガキャスト」についても、試験機が稼働する様子を確認できた。
こうして製造された次世代BEV用部品を最終組付する工程では、トヨタは日本メーカーとして初となる「自走ライン」を実用化する。そのデモンストレーションをトヨタ元町(もとまち)工場内で詳しく視察した。

まず、次世代BEVは、クルマがフロント、センター、リアの3分割されたモジュールで構成されている。フロント部分は、従来のようにプレス加工で切り出した部材を溶接した車体で、ここにモーター、インバーターなどが搭載されている。
センター部分は駆動用の電池パック。そしてリア部分は、ギガキャストによって一体成型された車体をベースとしている。
これら3分割されたモジュールを接合する。接合方法については現在、様々な手法を検討中だが、接合によってクルマとして自走が可能となった状態で、自動ロボット等によりシートなどの車内部品が組付けられていく。

 自動運転機能とV2Iで自走しながら組付

この工程では、自動運転機能を使って自走で搬送する。
自動搬送の仕組みは、工場内に設置したカメラ等の機器によってクルマの位置を認知。いわゆる、V2I(ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー)の仕組みだ。

搬送する場所とその周辺の地図は、二次元のデジタル地図を使う。自動運転レベル3で使う高精度な三次元地図は、移動エリアが限定され、また移動速度が遅いこうした自走搬送では必要ないと、トヨタは考えている。これら技術が、自動運転における判断の領域となる。
そして、操作については、車外の自走制御システムから車載の無線端末にデータを送り、運動性能を管理するシステムを介して、モーター、ステアリング、ブレーキ、そしてシフトバイワイアを動かす。今回のデモでは、1台あたりの生産時間を示すタクトタイムを60秒として、自走速度は時速0.36kmで設定した。
こうしたコンベアをなくした次世代工場によって、「工程1/2」と「工場投資1/2」を実現する。また、次世代工場のレイアウトなどについて、デジタル技術によりデジタル上で複製した「デジタルツイン」を用いて、生産準備のリードタイムを1/2とする目標を掲げている。

さらに、自動運転レベル2以上に対応する画像認識用のカメラや各種センサーを装備しているため、BEVの完成車になると、車両検査の工程から工場外の車両保管場所までも、V2Iと自社センサーを併用しながら自走することが可能だ。

近年、自動車関連の工場内では部品などを運ぶ無人搬送車のAGV(オートメイテッド・ガイデッド・ヴィークル)が普及している。それらは、床に記された印やガイドラインを目安に移動するモデルが多い。
そうした中で、V2Iによってクルマそのものが自走する次世代工場が数年先には稼働する可能性が高いことを今回、しっかりと理解できた。

 工場から「クルマの未来を変えていこう」

「クルマの未来を変えていこう」。
これは、トヨタが2023年4月に新しい経営陣になってから、新車発表会見などで必ず表記される言葉だ。それを実現させるため、今回視察したモノづくりの現場では、トヨタのモノづくりに対する「継承」と「進化」が上手くバランスされている。
自動車産業は今、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングなどの新サービス、電動化)に代表される「100年に一度の大変革期」と言われて久しい。そうした時代だからこそ、トヨタの技である「創業の精神」、「高い技能と技術」、そして「人財を鍛える現場の力」を継承することが重要だ。

その上で、「技能や技術」と「デジタル・革新技術」を融合させることが進化につながる。デジタル技術を使うと、様々な改善がすばやく何度もできるため、量産までのリードタイムを大幅に短縮することが可能だ。
今回見た、次世代電池、ギガキャスト、そして次世代BEVデモラインなど、どの分野でも、これまでトヨタが蓄えてきた知見を活かし、さらにデジタル化によって各種の検証がスピーディに行われていることが分かった。
また、工場カーボンニュートラルに向けた活動の実態についても、塗装の現場などで進化の実態を見ることができた。

トヨタCPO(チーフ・プロダクション・オフィサー)の新郷和晃氏は、「人中心のモノづくりで、工場の景色を変え、モノづくりの未来を変える」と言う。
その実現に向けて、トヨタが着実に前進しているのだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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