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ITS業界記事 自動車産業は製造業からサービス業へ。ビッグデータが引き起こす組織改革

 「別次元」の進化と「つながる」。新型「プリウスPHV」

トヨタ自動車は2月15日、5年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型「プリウスPHV」を発売した。
その発表記者会見では、5つの「別次元」の進化を強調した。
EV走行、充電システムの充実、安全技術、デザイン、給電機能の5つである。

順を追って説明すると、EVモードでの走行は初代「プリウスPHV」の2倍以上となる68.2km/Lを実現。搭載するリチウムイオン二次電池を8.8kwhに拡大している。
充電システムの充実では、直流による急速充電にも対応。
安全技術では、トヨタ・セーフティ・センスPを搭載。いわゆる自動ブレーキである衝突被害軽減ブレーキの機能を高度化し、車線を逸脱(レーン・デパーチャー)しそうになるとハンドルを自動で修正する。
デザインについては、通常の「プリウス」に比べて、車体の前後の意匠を大幅に変えて、先進的な商品イメージを強調した。
給電機能では、最大出力1500Wで100V電源が使える。

こうした5つの「別次元」の進化を、「つながる」で連携するとトヨタは説明する。
この「つながる」とは、車載器とクラウドの接続を指す。クルマの走行状態や、走行履歴などのビッグデータを、「トヨタ・スマート・センター」で収集、解析した結果をもとに、クルマ側に必要に応じて情報を送信する仕組みだ。

クルマと外部との「つながり方」は、大きく2つある。
ひとつは、スマートフォンなどの携帯電話を使うもの。この場合、基本使用料は無料だが、パケット通信料などは顧客が負担する。もうひとつが、専用の車載通信器であるDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)を搭載するものだ。新型「プリウスPHV」の場合、11.6インチの大型のHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)を搭載、3年間は基本使用料でパケット通信は使い放題となり、4年目以降は年間1万2960円を顧客が負担する。

現在、トヨタが一般向けに提供する情報通信サービスは、「T Connect」と呼ばれている。
主な機能は、ナビゲーションの地図情報を通信で自動更新するOTA(オン・ザ・エア)による「マップオンデマンド」。走行する他のトヨタ車の情報、VICSなどの交通情報、そして統計データからの予測を加味して最適なルート検索をおこなう「Tルート検索」。車載器またはクラウドを介して高度な音声認識を行う「エージェント」、そして車両盗難の追跡などを行う「マイカーセキュリティ」など多岐に渡る。

 ビッグデータ活用で拡がる「マネタイズ(課金化)」議論

トヨタは近年中に、「プリウスPHV」などの電動車だけではなく、小型車やミニバンなどガソリン車を含めたすべての新車にDCMを搭載することを明らかにしている。

自動車のビジネスはこれから、ビッグデータが主役となる。
とはいえ、ビッグデータをどのように「マネタイズ(課金化)」できるのか、という議論は、トヨタのみならず、各自動車メーカーの社内で始まったばかりだ。

自動車メーカーにとっては、走行する車両の状況を常時監視することで、故障の前兆が出た場合に早期の修理対応が行えるようになり、また、保険会社と連携することで自動車保険の適正化が可能となるなど、様々なメリットがある。
一方で、ハードウエアとしてのDCMや、その通信料などを負担することで、新車の販売利益を圧迫してしまう。
そうした議論は、既存の自動車製造・販売のビジネスモデルの中では「出口」を見出すことは難しいという印象を、各自動車メーカーは持ち始めている。
つまり、自動車の産業構造を大きく変え、その結果として会社の組織再編をする必要があるのだ。

 ビッグデータが、自動車産業のサービス化を巻き起こす

では、どのような組織改編が起こるのか?
それはズバリ、製造業からサービス業への転換だ。

自動車産業はこれまで、製造を主体とするプロダクトアウト型の産業だった。少々口の悪い言い方をすれば、「売りっぱなしで、あとのことは考えない」ビジネスだ。
自動車メーカーは新車を企画し製造する。それをディーラーが販売するのだが、ディーラーとメーカーとの間では、顧客情報の共有化がほとんど行われてこなかった。
また、ディーラーも定期点検や車検などの際しか顧客との接点がない場合が多く、ここでも「売りっぱなしで、あとのことは考えない」ビジネスになっている。具体的の事例では、あるメーカー系のディーラーでは、新車を購入した人がそのクルマを乗り続けた場合、8年目にそのディーラーで修理をする人は新車購入の時と比べて1割程度まで落ち込むというデータがある。

このような状況が、ビッグデータの活用によって大きく変わる。
自動車メーカーが、顧客の走行状況、または旅行、飲食、音楽などの個人情報を収集することで、顧客と直接、情報交換をすることが可能となるからだ。
換言すれば、ディーラーは「単なる修理工場」となる危険性があり、ディーラーの存在意義が大きく揺らぐことも考えされる。そのため、ビッグデータの活用を進める上で、自動車メーカーはディーラーと、新規の契約を交わすなどして「関係性の再構築」が必然となる。当然、ディーラーからは反発の声も上がることも考えされる。
さらに言えば、こうした業界大再編期の中で、大手IT企業を含めてビッグデータを扱うことを本業する企業が自動車産業に一気に参入するチャンスでもあるのだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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