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ITS業界記事 「ながらスマホ」と「レベル3自動運転」

 「ながらスマホ」と厳罰化と運転者の意識

HMIとは、ヒューマン・マシン・インターフェイスの略称だ。
自動車分野でHMIというと、車載の画面を指す場合が多い。つまり、視覚に対する人とクルマのインターフェイスが重要視されている。
ひとつは、運転中にスマートフォン操作を行う「ながらスマホ」。
もうひとつは、レベル3自動運転における「セカンダリー・アクティビティ」だ。

「ながらスマホ」については2019年12月1日、改正された道路交通法が施行され、罰則が厳格化された。具体的には、スマートフォンを手に持っていただけで懲役刑となる。
また「ながらスマホ」が原因で事故を起こした場合の違反点数はこれまでの3倍の6点となり、免許停止の行政処分を受ける。

ところが、法改正後に町中の状況を観察してみると、いまだに「ながらスマホ」で運転している人を数多く見かける。多くの場合は、LINE、Facebook、Twitter、メールなどのSNS、またはゲームをしているようだ。
こうした状況は日本のみならず、世界各地でみられる。法で処罰されるほどの危険行為を行っているという意識が極めて低いのだ。

 CarPlayとAndroid Autoが普及しない理由

「ながらスマホ」を抑制について、スマートフォンの企画・メーカーはどう考えているのか?

技術的には、車載器とスマートフォンを連携する、AppleのCarPlayと、GoogleのAndroid Autoが2015年頃から量産され、北米では搭載車種が徐々に拡大してきた。それに伴い、若い世代を中心に「ながらスマホ」は減少傾向にある。ただ、CarPlayとAndroid Autoに対応した2015年以前に製造されてクルマでは、すべての世代で「ながらスマホ」が日常的に行われている状況は変わらない。

一方、日本ではCarPlayとAndroid Autoという名称がまったく認知されていない。CarPlayとAndroid Autoへの対応車種が北米より少ないこともあるが、理由はもっと根深いところにある。
日本では車載カーナビの普及が90年代からと、欧米に比べると5年以上早く、世界最先端のカーナビ機能を含む車載器が日本メーカーから次々と量産されていった。そのため、車載器を「たんなるHMI」として使う、CarPlayやAndroid Autoの導入し対して、日本のカーナビメーカーが積極的ではなかった。

だが、トヨタのDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)など、自動車メーカーがカーナビメーカーの頭を飛び越えてコネクティビティ技術の研究開発の量産化を進めるようになった。そして、マツダのマツダコネクトに次ぎ、トヨタもHMIを共通化としてディスプレイオーディオを2019年9月発売のカローラから導入し、今後はトヨタ全車に拡大することが確実となった。

こうした自動車メーカーとカーナビメーカーの事業方針が一本化されないなか、若い世代のユーザーとしては「ながらスマホの方が、手っ取り早い」という感覚があるようだ。結局、彼らにとって、スマートフォンのほうがHMIとして自然に接することができるのだ。

 ヒトを考慮した「ながらスマホ」と「自動運転」の議論が必要

「ながらスマホ」は厳禁と、道路交通法を改定しておきながら、同じ道路交通法で「ながらスマホ」を認めている。
これは、レベル3以上での自動運転車に対してである。
自動運転のレベルは1から3までの5段階あり、レベル1~2では運転の主体は運転者で、レベル3~5ではクルマのシステムが担う。
レベル3では、緊急時などシステムが自動運転を継続できないと判断した場合、運転者に対して音声・表示・振動などを通じてTOR(テイク・オーバー・リクエスト)を行う。運転者はTORがあるまでは、運転に復帰可能な姿勢を保ったままで、前方を注視することなく運転以外の行為をすることができる。これを、セカンダリー・アクティビティという。

セカンダリー・アクティビティには、飲食や読書、さらにスマートフォン操作も可能となる。つまり、「ながらスマホ」が容認されるのだ。
筆者はこれまで、自動車メーカー各社や政府関係機関と、レベル3自動運転を社会に導入する際の課題について、様々な場で協議してきた。実際に、複数のレベル3自動運転実験車両で公道を走行している。
そうした経験を踏まえて、「レベル3の量産化は、社会受容性の観点から極めて難しい」と考えている。

2019年12月中旬、ホンダが2020年夏を目途に、レベル3自動運転を高速道路の渋滞中のみを対象として量産化するとの報道があった。これを受けて、ネット上での書き込みには「レベル3自動運転車を購入できる金持ちは、ながらスマホをしてもいい。我々のような古いクルマを乗り続けている庶民は、ながらスマホはいけない。なんだか、不公平だ」といった内容を見かける。

こうした意見に、筆者も同感だ。
自動運転や、通信によるコネクティビティによって「人と社会」との関係が大きく変わる可能性がある。だからこそ、技術優先ではなく、人を優先とした技術と法律の議論が必要だ。
「ながらスマホ」と「レベル3自動運転」におけるHMIに対する考え方でのミスマッチ。社会全体でもっと深く考えるべきである。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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