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ITS業界記事 「トヨタテクニカルワークショップ2023」の強烈インパクト
~進化する「3つの領域」と「大きな課題」~

 電動化、知能化、多様化。過去に例がない規模の情報量

トヨタは2023年6月上旬、静岡県裾野市にあるトヨタ東富士研究所で、報道陣向けに次世代技術を紹介する「トヨタテクニカルワークショップ2023」を開催した。

トヨタは2023年4月から、佐藤恒治(さとうこうじ)社長が率いる新しい経営陣による組織体制へと変わったばかり。
トヨタ創業者一族である豊田章男氏(現:会長)が掲げてきた「自動車会社からモビリティカンパニーへの転換」という大きな目標向かって、新体制は「継承と進化」というキーワードでの経営方針を明らかにしてきた。
「電動化」「知能化」「多様化」という3つの柱による「トヨタ・モビリティ・コンセプト」によって目標達成を目指すとしてきた。

一方で、こうした3つの柱について、「どのような技術を、いつ、どのように量産するのか?」という具体的な説明が少ないという印象があったのも事実だ。
そこで今回、報道陣、トヨタ車のユーザー、トヨタ車の販売店、株主、投資家、そしてトヨタとトヨタグループ企業や取引先の関係者に対するメッセージとして、ワークショップを開催する運びとなったものと考えられる。

では、トヨタが進めている様々な新技術について、順を追って説明していく。

 「電動化」:5つの新型電池と3つのプラットフォーム

筆者を含めて、ワークショップに参加した報道陣が最も驚いたのが、バッテリー技術についてだ。
なんと、2026~2028年にかけて、合計5つの新型バッテリーの量産に”チャレンジする”という表現を使い、新型バッテリーそれぞれについて実物を見せながら詳しい技術説明まで行ったからだ。
説明によると、「bZ4X」に搭載している既存のバッテリーを基点と見て、「航続距離重視」と「コスト重視」の2つの方向で量産化に向けた研究開発を進めていることが分かった。

まず、航続距離重視のバッテリーが「パフォーマンス型」だ。
正極にNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)を使う三元系とし、航続距離はbZ4X用バッテリーと比較して一気に2倍となる。つまり、1回の満充電で1000km以上の走行が可能になる。コストについては同比20%減になる見込みだ。また、急速充電時間はバッテリーの充電比率であるSOC(ステイト・オブ・チャージ)の10~80%で、従来の30分から20分へと短縮する。これを2026年に量産する。
さらに、「パフォーマンス版」の発展型として、正極負極を両面に持つバイポーラ構造にハイニッケル正極を組み合わせた「ハイパフォーマンス版」では、航続距離をさらに10%増、コストで10%減の実現をする。2027~2028年の量産にチャレンジする。
一方で、コスト重視を目指すバッテリーとしては、正極にリン酸鉄リチウムを採用する「普及版」を、2026~2027年の量産にチャレンジする。

こうした電解質に液体を使うリチウムイオン電池のほか、電解質の全てを固体とする全固体電池の量産化も併せて進めるとした。
前述の「パフォーマンス版」と比較して、航続距離は20%増で、急速充電の性能は10分以下として2027~2028年の量産にチャンレンジする。さらに、一段レベルアップした全固体電池も研究開発中で、「パフォーマンス版」の航続距離から50%増を目指す。

以上5つの新しいバッテリーを搭載する車体(プラットフォーム)が、大きく3系統ある。
一つ目は、「マルチパスウェイプラットフォーム」だ。
現時点(2023年)で、ガソリン車・ディーゼル車・ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・BEV(電気自動車)・燃料電池車などで量産している、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を応用する考え方だ。
二つ目は、bZ4Xから採用している、BEV専用のe-TNGA。現在明らかになっているモデルとしては、レクサス「RZ」や中国向けに発表している「bZ3」などがある。
そして三つ目が、トヨタ社内で新たに発足したBEVファクトリーにて、製品企画から量産方法まで、これまでの「くるまづくり」の考え方を大きく変える、次世代BEVとなる。

この次世代BEVでの最大の特徴は、車体構造が車体の前部・中心部・後部の3つに分かれることである。
さらに、車体製造の方法に、アルミ鋳造での一体成型を採用。これをトヨタは「ギガキャスト」と呼ぶ。従来の鋼板からプレスで部品を打ち抜き、それらを溶接する工法に比べて部品点数と工数を一気に減らすことができる。
また、鋳造工程では大きな熱を発生させるが、トヨタではギガキャスト工程での周囲への熱の影響を抑える検討を始めており、これによりギガキャスト工程を従来のプレス工程の場所に設置することを考慮している。

このほか、水素を使う燃料電池については、先に発表したドイツのダイムラー・トラックとの連携に見られるように、グローバルで商用車領域での普及に専念する。

 知能化:アリーンOS

次に知能化だ。
トヨタがいう「クルマの知能化」とは、IT技術を駆使した先進安全技術やマルチメディアなど、時代の進化に合わせて車載機能をアップグレードする考え方を指す。
その実現で中心的な役割を果たすのが、トヨタが独自開発したアリーンOS(オペレーティングシステム)である。
アリーンOSには、大きく3つの要素がある。
一つ目は、クルマのソフトウエア開発や評価を効率的に行うたの「TOOL(ツール)」。
二つ目は、最先端のソフトウエアをクルマに容易に搭載するための開発キット、「SDK(ソフトウエア・デベロップメント・キット)」。
そして三つ目が、人とクルマ、クルマと社会システムが相互作用するための仕組み、「UI(ユーザー・インタラクション)」だ。
アリーンOSは2026年からグローバルでの搭載を始める。

今回、アリーンOSを活用した次世代音声認識についてもデモンストレーションが行われた。従来の音声認識に比べると、高速かつ高性能なレスポンスが確認でき、またシステムからユーザーに対して様々な提案が積極的に行われた点が興味深かった。

さらに多様化については、様々な世代や利用環境に対応する。
具体的には、「車いすからモビリティへ」というキャッチコピーで、「JUU」が紹介された。プロトタイプでは、階段の上り下りも行えるなど、従来の電動車いすの概念を越える性能を実体験した。
また、車いすを車載する際にワンタッチで固定するための装置について、自動車メーカー各社や車いす製造業界と連携した、標準化に向けた動きをトヨタとして進めていくことも明らかにした。

 課題は、製販分離の進化

このほか、ワークショップでは、BEV、燃料電池車、水素燃料車など様々な開発車両を実際に運転した。

このようなトヨタの次世代技術に触れた上で、筆者が「トヨタの今後の課題」としてあらためて認識したのは、販売店との関係性についてだ。
自動車産業界は、製造者と販売者が事業として分離する「製販分離」の事業構造である。
トヨタなど自動車メーカーは製造と卸売りをする企業であり、販売や修理など実際の顧客対応は、トヨタの場合、東京の一部を除いて、販売店として各地の独立系の地場企業が行っている。

そうした中、製造者として「電動化」「知能化」「多様化」という、新たなクルマづくりを進化させて行く一方で、時代の大きな変化の中で、販売店は今後、具体的にいつ、どのような事業変革が必要なのかというグランドデザインがまだ見えてこない。

特に、アリーンOSについては、トヨタが直接、ユーザーとデータ交換する仕組みでもあるため、販売店の役割や収益構造にどのような変革が行われるのかが、トヨタ全体にとって大きな課題だと感じる。

今後も、トヨタの進化を各地の現場で継続的に取材していきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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