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ITS業界記事 トヨタがコネクテッドカーで「パーソナライズ」事業参入

 コネクテッドカーが第二ステージへ

トヨタがコネクテッドカーで新たな試みを始める。
サブスクリプションモデルのKINTOで、「人に寄り添って進化するクルマ」への挑戦だ。
これは様々な車載システムのソフトウエアについて、トヨタが主導的かつ定期的に更新することを指す。

ここでの車載システムとは、「走る・曲がる・止まる」というクルマの走行性能に関係するものが対象で「技術革新にあわせた最新ソフトウエアを反映させる」というのだ。
一般的にクルマの走行性能は、クルマの骨格である車体(プラットフォーム)、サスペンション、パワートレインが主な要素となり、またボディ形状による空力効果も走行安定性や燃費(電費)に影響を及ぼす。

そして、ソフトウエアのプログラムによって変更可能な走行性能には、エンジンの出力特性やトルク特性、トランスミッションの変速タイミング、電動モーターによる四輪駆動システム、コーナーリング中のクルマの姿勢を制御するESC(電子スタビリティコントロール)、そしてパワーステアリング操作における重さ(抵抗力)などがある。
自動車メーカーは5年から6年で新型車にフルモデルチェンジする商品戦略が多く、その間に2回程度のマイナーチェンジとして外観や内装の変更に加えて、車載ソフトウエアの最新化が行われる場合がある。

ただし、新車を現金やローン支払いによって販売店から顧客への売切る場合、市場に出回ったクルマに対して、リコールなど技術的な欠陥がある場合を除いて、メーカーが顧客に対して既存車のソフトウエアの最新化を行うことはほとんどない。
このような新車販売における一般常識を、トヨタがKINTOを使って大きく変えようというのだ。

 なぜGRヤリスからの導入なのか?

今回のトヨタの発表では、GRヤリスという少量生産のハイパフォーマンスモデルをその対象とした。
理由について、オンライン会見したトヨタ幹部は「様々なレース活動を通してトヨタが学んだアジャイル開発を採用したから」と説明した。

アジャイル開発とは、ソフトウエア開発において、短期間に様々な試行錯誤をして、こまめに軌道修正しながら目標達成を目指す開発の手法のこと。
レース活動においては、レギュレーション(規定)を順守しながら、気象の変化、タイヤなど主要な部品の性能変化、さらにレーサーの体感に伴うフィードバックにより、ラップタイムとクルマの耐久性を短期間で引き上げていく必要がある。
そのため、ソフトウエア変更を短期間で行って結果を出すという、まさにアジャイルな開発が求められる。

アジャイル開発はF1、世界耐久選手権(WEC)、世界ラリー選手権(WRC)など世界的レースのトップカテゴリーで実施しているのは当然だが、トヨタの場合、近年は豊田章男社長が自らドライバーを務めるトヨタ社内チーム「ルーキーレーシング」の活動においても重要課題とされている。
直近では、2021年5月に富士スピードウエイで開催された24時間耐久レースに、世界で初となる水素を使ったレースエンジン搭載車で参戦している。
こうしたレースでの体験をベースに、量産車の中でも顧客の”走りへの拘り”が強いハイパフォーマンスモデルのGRヤリスから、量産車向けソフトウエアの本格的なアジャイル開発を実現することになった。

データのアップデートについては、レースで行われているように、ドライバーの走りの特長に合わせたカスタマイズも行う。まさに「パーソナライズ」だ。
対応は全国各地にあるGRガレージで2022年春頃を目途に始める予定だ。
トヨタ幹部は「将来的には全てのトヨタ車について、GRヤリスのようなソフトウエアアップデートの手法を取り入れたい」と話す。

 なぜKINTOなのか?

では、なぜ今回の新ビジネスがKINTO限定で実施されるのか?
これは、トヨタのとっての”データ管理のしやすさ”が関係する。
KINTOの場合、トヨタの最終組立工場から出荷された新車はトヨタの子会社であるKINTOが所有権を持ち、KINTOは顧客とクルマの使用契約を結ぶ。

その際、使用するクルマの走行データについては、個人情報保護を前提とした上でKINTOが把握することになる。
KINTOは顧客に事前に通知して、ソフトウエアのアップデートを行う。
また、データのカスタマイズについては、KINTOと顧客が十分に協議した上で実施することになる。

いまのところ、トヨタの新車には走行データをトヨタ専用のクラウドシステムに毎分1回程度のペースで送信するDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)が装着されており、既販車の走行データを管理する体制が段階的に整ってきている。
とはいえ、トヨタが新車を製造し、販売店に卸売り販売した後、販売店が顧客に小売りするという商流において、トヨタが顧客に直接、車載データについて話す機会を設ける仕組みにはなっていない。

次世代自動車の研究開発においては、ビッグデータの収集と解析、またそれに基づいたマネタイズ(事業化)に関する議論がなされるようになって久しい。
今回のKINTOによる新規ビジネス構想で明らかなように、クルマのビッグデータのマネタイズには、クルマの所有権が大きなカギとなる。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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