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ITS業界記事 EVの標準化へ。充電インフラで欧米と日中が対立
~神戸EVS 31現地レポート~

 EVSが13年ぶりに日本で開催

EVや燃料電池車など電動車の国際会議と展示会「EVS 31 (The 31st International Electric Vehicles Symposium)」が、2018年9月30日~10月3日に神戸国際会議場で開催された。

EVSは1980年代に始まり欧米やアジア各国で持ち回り開催されてきた。日本では1996年の第13回が大阪で、2006年の第22回が横浜で、そして13年ぶりに今回、神戸で開催された。世界各国から自動車メーカー、自動車部品メーカー、電池メーカーなどの技術者や、大学など教育機関の研究者ら総勢1300人が参加した。
展示会では、EVなどの車両の他、充電器や電池に関する技術的な展示が目立った。日本の自動車メーカーでは乗用車を販売するトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スズキ、スバル、三菱、またトラック・バスメーカーも出展し、会場内はまるでモーターショーのような雰囲気だった。

 トヨタを起点としたEV共同開発が進む

その中でスバルは、クロスオーバー車「XV」の北米仕様車「クロストレック」のプラグインハイブリッド車を世界初公開した。「XV」は「インプレッサ」から採用した新型車体スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP) を組み込み、先代車に比べて走行性能が圧倒的に向上しており、日本でも販売が好調だ。今年10月には「フォレスター」でも採用したハイブリッドシステム「e-BOXER」が登場したばかりだ。

今回のプラグインハイブリッド車では、1モーターの「e-BOXER」を改良したのではなく、新規に開発した2モーター方式を採用した。
スバルの開発責任者によると、モーターはトヨタのハイブリッドシステム「THSⅡ」と同じで、モーターを制御するインバーターやオンボード充電器など、プラグインハイブリッド車に関する基礎技術をトヨタから提供を受けたという。
トヨタとスバルは、スポーツカー「86」と「BRZ」の開発で協業するなど、総括的な技術提携を行ってきたが、電動車システムの共同開発は今回が初めてだ。

こうしたトヨタを中心とした日系自動車メーカー向けの電動車の共同開発は今後、ますます広がるだろう。なぜならば、電動車システムには巨額な投資が必要で、またこれまで自動車産業に従事してこなかった電気やIT関連の技術者を新規に採用する必要がある。そうしたコストや手間をトヨタが一元的に管理し、トヨタと技術提携しているスバル、マツダ、スズキ、さらにトヨタの子会社であるダイハツに対して提供する仕組みが構築されていく。その一環として、トヨタとトヨタの技術系の子会社であるデンソーが中核となるEV開発企業「EV C.A.スピリット」が2017年に設立されている。

 本格普及に進めない「充電インフラ対決」

さて、EVが普及するには、①蓄電池のコスト、②充電一回あたりの走行距離、そして③充電インフラという3つの課題がある。

蓄電池のコストについては近年、大きな変化がある。自動車用の蓄電池といえば、エンジンの起動や、また車内の電装品の電源として鉛蓄電池が使われている。EVについても80年代までは鉛蓄電池が主流だったが、体積当たりの出力が低いうえに重量が重いため、小型二輪EVなど一部の車両以外では量産向けには適さなかった。
その後、トヨタがハイブリッド車向けにニッケル水素電池を採用して大型電池のコストが大幅に下がった。さらに近年では、中国がEVの販売義務付けとなる新エネルギー車(New Energy Vehicle)法を2019年から施行することで、リチウムイオン電池の生産量が一気に増えてコストが大幅に下がってきた。

こうした蓄電池のコスト低減によって、より多くの容量の蓄電池を搭載することができ、充電1回あたりの走行距離についても改善が進んだ。また、コネクテッドカーと呼ばれる、EVと外部との情報通信によって充電するタイミングや頻度を効率化することで、電池容量が少なく充電1回あたりの走行距離が少ないEVでも利便性が上がるようになった。

そして、3つ目の課題である充電インフラについて、日本国内では2010年から日産「リーフ」と三菱「i-MiEV」が量産され、また充電器を設置するための補助金制度を政府が強化したため、全国各地でEV向け充電器の数が増えた。地図情報企業のゼンリンによれば、2018年5月時点で100~200V交流による普通充電器が2万2100基、そして交流を直流に変換して短時間に大出力で充電する急速充電器7420基が設置されている。

だが、世界に目を向けると、充電インフラの普及に関して大きな課題が残されている。充電インフラの規格の標準化である。
急速充電器について、日本はCHAdeMO(チャデモ方式)、中国はGB/T方式、そして欧米ではCCS (コンバインド・コネクター・システム)の3方式がある。その中で、今年8月に日本と中国が急速充電の規格について連携することを発表した。具体的には、日本が中国に対して技術支援を行う。

一方、CCSについては、日中との連携に動く様子がない。CCSは、独大手3社(ダイムラー、BMW、VWグループ)と米大手3社(GM、フォード、FCA)が推奨している。
今回のEVS 31のパネルディスカッションでも、CCSを推進する団体の代表者が「CCSがユーザーにとって最も有益な方式だ。チャデモやGB/Tとの連携はまったく考えていない」と言い切った。

EVの本格普及に向けて、まだ多くの課題が残されていることを、EVS 31の現場で改めて思い知らされた。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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