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ITS業界記事 アップル次世代「CarPlay」登場。自動車産業への影響がさらに深まるのか?

 WWDCで明らかになった次世代「CarPlay」

アップルが日本時間の2022年6月7日、年次開発者会議であるWWDC(Worldwide Developers Conference)2022を開催した。
発表されたのは、最新型チップのM2を搭載した「MacBook Air」や「MacBook Pro」、2022年秋から導入されるiOS 16やWatchOS 9などだ。
さらに自動車関連では、次世代CarPlayの詳細が明らかになった。

CarPlayは、車載器とiPhoneを連携させるアップル独自のシステム。
ナビゲーション、SNS、電話など、iPhoneユーザーが日頃使っている機能を、車載器のモニターで確認しながら手動で操作、または音声で操作できようにシステムを最適化したものだ。

次世代CarPlayでは、これまでの機能をより高度化させることに加えて、スピードメーターやエンジン回転計など、インストルメンタルパネルの表示方法についても、アップル独自のデザイン形状やカラーリングをユーザーが簡単にカスタマイズできるのが特徴だ。
これは単なる新機能というより、自動車のインテリアデザインにおける意匠や、自動車の走行性能とコネクテッド技術が深く関わる、極めて重要な次世代技術だといえるだろう。

 アップルの狙いはクルマへの「ブロートイン」

時計の針を少し戻すと、アップルは2013年のWWDCで「iOS in the Car」という技術サービスを世界初公開している。
そこでアップルが説明したのは、スマートフォンをクルマの中に「Brought In(ブロートイン:持って入る)」という概念だ。

その頃は、2000年代後半に本格的に市場導入されたiPhoneやグーグル(現在の親会社はアルファベット)のアンドロイドフォンがグローバルで普及し始めていたタイミングだった。
多くの人にとって、スマートフォンは日常生活での必需品となり、パーソナルコンピュータの代替として、またパーソナルデータを集約しクラウドとデータ連携するデバイスとしての役割が高まっていった。
そんなスマートフォンで、ユーザーがドライバーとしてクルマを運転する際、安全運転の観点から運転中にスマートフォンが利用できなくなることに、アップルは懸念を抱いていた。

日常生活の中でユーザーとスマートフォンとの関係が途切れるからだ。
これは、スマートフォンを介したデータ収集の観点からも、移動中の連続したデータが取れなくなることを意味する。
ナビゲーション上は、車内にスマートフォンを置いた状態でクルマ移動しても、歩行や電車などの公共交通機関で移動している場合と同じように、進行方向、速度、加速度などが検出される。だが、ユーザーの運転中の行為に対するデータは収集できない。

ユーザーはスマートフォンというハードウエアをクルマの中に「ブロートイン(持ち込む)」しているのに、ユーザーの利便性とスマートフォン関連事業者それぞれの視点から、事実上「ブロートイン」できていないという解釈である。
そうした状況を見直すために、iOS in the Carが開発されたのだ。

 車載OSの争い

iOS in the Carが発表された2013年6月以降、北カリフォルニアのいわゆるシリコンバレー周辺では、IT産業と自動車産業との融合に関する話題が一気に増えた。
当時、こうした領域の話題についてシリコンバレー各所を取材したが、「これまでアプローチしてもアポイントメントすら取れなかったグーグルから、すぐに会って話したいと、逆にオファーがあって驚いた」(日系自動車メーカー関係者)という。
そして、グーグルが2014年1月にネバダ州ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)で、アンドロイドフォンと車載器を連動する「Android Auto」をアメリカのGeneral Motors(GM)、ドイツのAudi、そして日本のホンダなどと共同で発表した。

さらにグーグルは、クルマのインフォメーションとエンターテインメントを融合するインフォテイメント領域の車載OSについても、Android OSを普及させるという基本方針を明らかにしたのだ。
その後、Android Autoに対抗するかたちで、アップルがiOS in the Carの量産バージョンであるCarPlayを公表することになるが、iOSの車載OS化を進める計画については触れなかった。
一方、自動車メーカー側は車載OSをメーカー独自の発想で構築することを目指した。
当初は、欧米メーカー各社がコンソーシアムを組んだが、日本のトヨタなどが中心となったAGL(Automotive Grade Linux)によって、Android OSに対抗する姿勢を示した。

こうした、アップル、グーグル、そしてAGLという図式が長らく続く中で、グーグルは何度かアンドロイドOSをクルマの走行性能へ関与させるような意図を示してきたし、自動運転技術についても実証試験を続けた。
アップルも、BEV(電気自動車)や自動運転車に関する基礎研究を行う「プロジェクト タイタン」を進めてきたが、現時点では明確な量産計画を明らかにしていない。
そうした状況で、アップルが今回、次世代CarPlayを公開したことで、アップルの自動車産業との関わりについて改めて注目が集まっている。

 日本でCarPlayの普及が遅い理由

最後に話を日本市場に移すと、日本では欧米に比べてCarPlayやAndroid Autoの普及が遅い。
最大の理由としては、カーナビゲーションの影響がある。
日本では組み込み式カーナビゲーションシステムを新車状態で搭載するビジネスモデルが確立されており、カーナビを主体としたインフォテイメントで、スマートフォンと車載器を連動させることに積極的でないユーザーが多いからだ。

また、欧米ではスマートフォンが普及する前から、PND(パーソナル/ポータブル・ナビゲーション・システム)を簡易的カーナビとして使う人が多く、CarPlayやAndroid Autoに対する違和感が少ないという面もある。
そうした日本特有の市場背景もあり、日本では次世代CarPlay登場はあまり大きなニュースとして報道されていない印象がある。

一方で、日系自動車メーカー各社は、次世代CarPlayの登場により、アップルの次なる動きを警戒している。
クルマのコネクテッドサービスにおける、データのプラットフォームをアップルが積極的に構築し、それが日本を含めてグローバルでのデファクトスタンダードになってしまうかもしれない、という危機感があるからだ。

日本ではいま、デジタル庁が主導して、社会のDX(デジタル・トランスフォーメーション)に伴うガバメントクラウドや、自動車を含めた移動や交通におけるデータプラットフォームの構築に向けた議論が始まっているところだ。
そうした中で、アップルが次世代CarPlayをきっかけに、デジタル交通社会における新たなる戦略を展開する可能性が出てきたといえるかもしれない。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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