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ITS業界記事 「コネクテッド・ホライズン」に「eホライズン」。
ドイツの大手部品サプライヤーが「ビックデータ」ビジネスの強化急ぐ

 流行は、コネクテッドカーとも相性のよい「クーペ型クロスオーバー」

2015年9月中旬、世界最大級のフランクフルトモーターショーを隅々までじっくりと取材した。欧州の主要モーターショーは毎年3月にスイス・ジュネーブで、また隔年で9月にパリとフランクフルトで開催されており、フランクフルトショーでは当然、地元ドイツメーカーによる世界初公開モノの数が多い。

日本では最近、クルマといえば自動運転やFCV(燃料電池車)が話題となることが多いが、ドイツで実感したトレンドはそうした傾向ではなかった。

今回の最も注目されたのは「クーペ型のクロスオーバー」だ。量産車ではジャガー「F-PACE」、またマツダ「越(KOERU)」や日産「グリップZ」といった量産を念頭に置いたコンセプトモデルが目立った。
自動車メーカーにとっては定番のボディ形状であるセダン、クーペ、スーパースポーツカー、ピックアップトラック等の既存のボディ形状では高付加価値な商品イメージを創出するのが難しく、2000年代に入りセダンとSUVが融合した新カテゴリー「クロスオーバー」が生まれた。

例としてはインフィニティ「FX」が挙げられる。さらに「クロスオーバー」の流れのなかで細分化が始まり、そのひとつがクーペ型セダンを変形させ、後席の居住空間を多少犠牲にしてでも、より大胆な外観デザインを重視する発想へとつながった。
また、先進的なイメージが強いクーペ型クロスオーバーには、コネクテッドカーとしての商品性との相性が良い。具体的には、表示画面であるHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)やHUD(ヘッズ・アップ・ディスプレイ)の大型化による表示データの多角化、車載器とスマートフォンの連携の進化、さらに高精度地図データとプローブデータを活用した新サービスの提供等が導入される予定だ。

この他、パワートレイン系のトレンドとして、2021年の欧州CO2規制の強化に対応するため、量産を前提としたPHEV(プラグインハイブリッド)やEV(電気自動車)が多く、アウディやポルシェのEVを発表してメディアの注目を集めていた。

 V2X進化系、eCall・・・大手サプライヤー競争領域は「ビックデータ」へ

一方、自動車メーカー関係者がフランクフルトショーで最も注目したのが、ドイツの大手部品サプライヤーのコンチネンタルとボッシュによる「IT産業へのシフト」だ。

自動車部品の基礎技術とは「走る・曲がる・止まる」における安全性を高めることだ。そのなかで過去10数年間に渡り、機械部品から電子部品へのシフトが徐々に進んだ。衝突安全や衝突予防に対する車外へのセンシングで、カメラ、レーダー、レーザー等のセンサー技術が発達してきた。これはADAS(高度なドライバー支援システム)と呼ばれる領域だ。欧州では欧州委員会が2016年に歩行者保護に対する基準を制定することが決まっており、さらに2018年には夜間の歩行者保護に関する規定を盛り込むことで現在、協議が進んでいる。
ボッシュとコンチネンタルとしては、レーザーによるV2V(車車間通信)、近距離通信のDSRCを使ったV2I(路車間通信)に加えて、さらに高い精度が求められるクルマと歩行者の歩車間通信に関する技術開発を急いでいる。総じて、V2X(クルマと対象物全般との通信)という考え方がさらに進化するといえる。

もうひとつ、欧州市場で開発が進んでいるのが、事故発生時に衛星測位システム(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム/GNSS)を通じて自動的に緊急対応の要請を行うシステム、eCallの義務化だ。すでにロシアでは、同国のGNSSであるGLONASSを利用したERA-GLONASSの新車への導入が始まっている。欧州では欧州委員会(EC)によるGNSSのGalileoの打ち上げ計画が従来計画より遅れていることなどから、2014年に欧州で販売される新車に義務化される予定だったeCallの導入もやや遅れ気味だ。しかし、今回ボッシュがeCall対応受信機を公開したように、欧州でのeCall実施の本格化は間近に迫っており、この領域における関連ビジネスの拡大が予想される。

以上のような、機械、電子、衛星システム等の分野に加えて、ボッシュとコンチネンタルが重視しているのがクラウドを活用したビックデータビジネスだ。ボッシュでは「コネクテッド・ホライズン」、コンチネンタルでは「eホライズン」と呼ぶ。両社ともバックエンドのクラウドサービスはIBMを使う。その上のレイヤーとして、ボッシュはオランダのTomTom、コンチネンタルはドイツのHEREの高精度デジタル地図データを採用している。
このようなデータ解析に必要な土台造りをした上に、GNSSによるクルマの位置、さらに車載器やスマートフォンを通じて車両の走行履歴やリアルタイムの走行状況であるプローブデータを重ね合わせる。

これにより、自動車メーカーは顧客による自社製品の利用状況を完全に把握でき、さらに顧客毎の行動パターンや仕事や趣味に対応した有益なデータを最適なタイミングで送信し、顧客とメーカーが直接コミュニケーションできるようにあるという。

スマホやクラウドの急激な発展により、クルマに対して「走る・曲がる・止まる」に加えて「つながる」という要素が加わると、自動車産業界では認識している。そうしたなかでドイツの大手部品メーカーは一気に「つながる系のIT産業」にシフトしようとしている。
こうした大きな流れに対抗できる日系メーカーがいなければ、自動車の「つながる系のIT産業」はドイツがデファクトスタンダード(事実上の標準化)になってしまう恐れがある。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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