車載のマイクロコントローラー、及びマイクロプロセッサー(以下、双方をマイコンとして略)の最大手、ルネサスエレクトロニクスが都内で2017年4月11日、開発者向けのカンファレンス「DEVCOM」を2年半ぶりに開催した。
この「2年半ぶり」というタイミングは、自動車産業界の大変革期を示している。
周知の通り、自動車産業界はパワートレインの電動化、クラウドとのコネクテッド化、そして自動運転化という3つの巨大なトレンドが押し寄せている。
当然、こうした分野での技術領域で重要となるのがITであり、その中核となるのが半導体であり、海外の半導体業界での再編の動きが加速している。3月には、アメリカのインテルがイスラエルのベンチャー企業で画像認識技術に関するSOC (システム・オン・ザ・チップ)のMobileye(モービルアイ)を154億ドル(約1兆7000億円)で買収。インテルとモービルアイは昨年6月、BMWを含めた3社による事業連携を発表していたが、まさか買収に及ぶとは自動車業界関係者の多くが予測していなかった。
また同じく3月に、ドイツの自動車部品大手のボッシュが、画像処理に優れた性能を持つGPU大手のアメリカのnVIDIA (エヌヴィディア)との連携を発表。エヌヴィディアはドイツのアウディやアメリカのテスラと、GPUを使った機械学習を行う自動運転で独自のアルゴリズムを研究開発している。ボッシュも自社で画像認識技術や自動運転技術の研究開発、そして実用化を行っているだけに、これら2社が今後、どのような技術領域での商品化を行うのかに大きな注目が集まっている。
こうした社会背景の中、車載マイコン最大手のルネサスの動向について、自動車メーカー各社は大きな期待を持ちながら、ルネサス側からの発表を待ち望んでいたのだ。
今回の基調講演では、「世の中はこれから、超スマート社会に向かう」と説明。自動車のみならず、住宅や工場などを含む社会全体でのIoT (Internet of Things 『モノのインターネット化』) が実現するために、ルネサスが新たに設定したのが「e-AIソリューション」だ。
「e-AIソリューション」とは、人工知能による機械学習(ディープラーニング)を組み込み機器に対応させるというビジネスモデルだ。
従来型の設計では、ソフトウエアの開発を人間が行い、これとは別にビックデータを人工知能によって解析し、それらを机上で連携させてきた。これに対して「e-AIソリューション」では、「e2 -studio(イースクエアスタジオ)」と呼ぶ独自のプラットフォームが、人による開発と連携する。このプラットフォームをルネサスは、自動車メーカーや自動車部品メーカーに対して無償で提供する。
自動車メーカーのエンジニアにとっては、ルネサスのマイコンを購入するとシステム設計の時間短縮や、より高度な設計への挑戦が可能となる。
こうした試みは、車載マイコンのメーカーとしては世界初となる。
今回、もうひとつ大きな目玉は、自動運転技術を総括的にサポートする「ルネサス・オートノミー」だ。
自動運転は、認知・判断・操作という、人間が運転を行うルーティンワークを再現し、さらに人間が行う場合より安全で最適な走行を実現しなければならない。
この、認知・判断・操作の3領域それぞれについて、ルネサスは技術を深堀し、その上で3領域を連携させるのが、「ルネサス・オートノミー」の理念である。
まず、認知についてはセンサー技術を拡充する。具体的には、周波数77~79GHz帯域を使うミリ波レーダーに、「RH850/V1R-M」を搭載することで、検知の速度が既存製品と比較して約3倍まで向上した。
カメラでは、「R-Car/V3M」を搭載し検知能力を高めた。これは、既存のCPUやGPUを単独で利用するのではなく、アクセラレーターによって、カメラ信号処理、レンズの歪補正、フィルタ処理、認識処理、シーン解析という、画像認識に必要な5項目について個別に演算するシステムだ。これをCPUと連携することで、場合によっては一部の項目の演算を一時的に休止させ、システム全体での消費電力を大幅に抑えることができる。
ルネサスのエンジニアは講演で「自動運転に最適なディープラーニングでは、画像処理用のマイコンの消費電力は3W以下に抑えることが、ディープラーニングを最適なすることに直結する」と説明。それを、各種項目を常時演算するGPU単独で実現することは難しいとし、ルネサスの技術力の高さを強調した。
この他、電気自動車やサービスロボット、そして住宅向けや社会インフラ向けなど、ルネサスの最新技術の実機の紹介や、各種の講演が終日行われ、会場内は1000人を超すエンジニアがクルマの未来について熱い視線を送っていた。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。