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ITS業界記事 アメリカで進む、ライドシェアリングと完全自動運転の融合

 ライドシェアリングを見据えた自動運転車にも注目

ITと家電の世界最大級の見本市、CES (コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)が今年も1月上旬、アメリカのラスベガスで開催された。
文字通り、ここでは世界のメーカーがITや電機に関する最新商品を出展する場だ。その中で最近、自動車の存在感が増している。日本のテレビニュースでは「まるでモーターショーのような雰囲気」と報じた。

地元アメリカからは、フォードとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)、ヨーロッパメーカーではダイムラーとフォルクスワーゲン、また韓国メーカーではヒュンダイとキアが参加。そして、日系ビッグであるトヨタ、日産、ホンダが勢揃いした。そのほか、デンソー、日立オートモーティブ、アメリカのデルファイ、フランスのヴォレオなど大手自動車部品メーカーもこぞって出展した。

こうした各メーカーの展示の中核となるのは自動運転(Automated Driving)なのだが、ライドシェアリングを見据えた形での展示も目立った。

 アメリカ政府と民間企業を巻き込んだ、自動運転とライドシェアリング

アメリカ政府は現在、自動運転の法整備を積極的に進めている。
2016年9月に、米運輸省の道路交通安全局(NHTSA)が自動運転に関するガイドラインを発表。また、同年12月には「自動車と自動車」や「自動車とインフラ(道路設備)」との通信など、いわゆるコネクテッドカーに関するルールを公表した。日本や欧州では、国連での協議を進めている自動運転やコネクテッドカーの法整備だが、アメリカは独自の道を突き進み、デファクトスタンダードを狙っているように見える。
自動運転は当然、コネクテッドカーであるため、これらふたつの法整備は深く関係している。

さらに、こうしたアメリカ政府の動きの裏には、IT大手と一部の自動車メーカーの連携が影響している。
2016年4月、グーグルの親会社であるアルファベット、フォード、ボルボ、そしてライドシェアリング大手のウーバー(Uber)とリフト(Lyft)が、自動運転によるライドシェアリングの普及に対するロビー活動を目的としたコンソーシアムを立ち上げたのだ。
ライドシェアリングは、日本では「白タク(個人の所有車による旅客運送、日本では違法)」と呼ばれるもの。アメリカでは、2010年代に入ってから急速に成長している新しい自動車関連ビジネスだ。

上記の5社のコンソーシアムを基盤として、2016年8月にフォードは2021年までに完全自動運転(Full Automated Driving)を実用化すると発表。ボルボはウーバーと組んで、2017年からボルボの地元スウェーデンなどで完全自動運転の実証試験を始めることを明らかにした。
このように、2016年はアメリカの政府と民間企業を巻き込んで、自動運転の本格的な量産化の動きが加速。そこに、ライドシェアリングが絡むという図式が明確になっているのだ。

 Google関連会社Waymo (ウェイモ)の完全自動運転事業

こうしたアメリカの巨大なトレンドで、中心にいるのは、やはりグーグルだ。第一に、地図情報としてのグーグルマップやグーグルアース。第二に、Gメールと直結するクラウドサービス。そして、第三に、2009年から巨額投資を続けてきた完全自動運転のプロジェクト。これらを含め、グーグル及びその親会社であるアルファベットは、IT産業と自動車産業の橋渡し役になり得る立場にある。

そのアルファベットの完全自動運転の事業部が、2016年12月に分離独立(Spin-out)した。企業名は、「ウェイモ(Waymo)」という。
アルファベットとしては、「グーグルカー」として数百万キロに及ぶ公道でのテストを行い、それに伴うビッグデータを蓄積している。さらに、走行中に使用する各種のセンサーを独自開発してきた。そうした技術の資産を活用したビジネスを始めるのだ。

ウェイモはすでに、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービル)との技術提携を発表。クライスラーのミニバン「パシフィカ」をベースとした実験車両を使い、2017年1月末からアメリカ国内で実証試験を始める。

また、ウェイモはホンダと技術提携に関する検討を始めたことも明らかにした。
ホンダは、今回のCESに、ライドシェアリングに対応する完全自動運転車、コンセプトモデルの「ニューヴィ(NewV)」を初公開した。これは、ウェイモとの連携を念頭に置いた発表であることは間違いない。
日系メーカーで、ライドシェアリングと完全自動運転の融合に対する開発を明らかにしたのは、ホンダが初めてだ。

 2020年代は、自動車産業界が大きく変わる時

筆者は毎年1月上旬、ネバダ州ラスベガスでのCES、そしてミシガン州デトロイトでの北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)を立て続けに取材することが習慣となっている。

近年は、5年から10年先を見越した自動車の次世代技術の発表の多くがCESで行われるようになった。一方、デトロイトショーでの発表は、1~2年後先に量産されることが決定しているコンセプトモデルが主役だ。

特に今年は、CESとデトロイトショー、2つの現場での「自動車の未来に対する温度差」を強く感じた。デトロイトショーしか見ない自動車関係者にとっては、5年後の2022年には自動運転のライドシェアリングが、全米各地の都市で普及していることを想像できないはずだ。
アメリカで急加速する、次世代の自動車産業ビジネス。この巨大トレンドは、時間差を生じながら、日本にも確実に訪れるだろう。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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