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ITS業界記事 GTC(GPU Technology Conference)取材!
AI(人工知能)のデファクトスタンダート化とは

 GTC(GPU Technology Conference)が過去最高の規模に

GPU(Graphics Processing Unit)の大手、米NVIDIAがデベロッパー向けの年次総会であるGTCを2017年5月8日~11日までの4日間、米サンノゼ市のコンベンションセンターで開催した。

GPUは画像処理に優れた性能を発揮することで、ゲームの世界で成長した演算装置だが、近年は自動運転への活用が期待されている。
なかでもNVIDIAは、2010年代初頭からラスベガスで開催されるITと家電の世界最大級の見本市CES(Consumer Electronics Show)で独AUDIと連携した技術展示を行うなど、巧妙なマーケティング活動を続けてきた。

そうしたなか、NVIDIAが独自に開催するGTCの参加者も年々増加し、8回目となった今回は入場者数が約8000人に達した。NVIDIAにとって追い風となっているのは、近年様々なビジネス分野で量産化が進んでいるAI(人工知能)である。

 周囲の全ナンバープレート読み込みや、作物の成長把握まで。AIプラットフォーム「Jetson」

GTCのエキシビション会場には、NVIDIAのAI技術を活用した事例が数多く紹介されていた。NVIDIAでは独自のディープラーニングのアルゴリズムを研究開発しており、そこで蓄積された成果の実用化を急いでいる。

まず目に飛び込んできたのは、ロボティクスだ。スタンフォード大学やスタートアップス(ベンチャー企業)による、医療介護のサービスロボットや、海底探査用ロボット、そしてドローンなど、陸海空の全域に渡るモビリティにAIプラットフォームのJetsonが搭載されている。

この他では、都市開発における人の流れや物流に関する解析や、警察のパトロールカーで走行中に周囲にある全ての車のナンバープレートを自動で読み込んで所有者のデータを読み取る機能、そして農耕機器では地中の状況をデータ化することで作物の成長具合を把握するシステムなどに、来場者の注目が集まっていた。

Jetsonとは、NVIDIAがGPUを中心として部品を構成する組み込み用の基盤(プラットフォーム)である。USBなど外部からの入力端子を備えており、ミリ波レーダー、超音波センサー、またはレーザーレーダー(通称ライダー)などから得られたデータを取り込む。驚きなのは、SDK(ソフトウエア・デベロップメント・キット)を含むJetsonの最新版TXは599ドル(7万円弱)という低価格であることだ。
またJetsonの購入者は当然、NVIDIAのエンジニアとの情報交換をする機会が増えるためAIに関する最新の動向も把握することができる。日本企業ではトヨタが、医療介護用のロボットにJetsonを採用している。

 トヨタとも提携。「DRIVE PX2」で加速する自動運転用AI

このようにJetsonを市場に導入したことで多方面からの技術的なフィードバックを得たNVIDIAが次に狙っているのが、自動車の自動運転の領域だ。

前述のように、NVIDIAはAUDIと自動運転に関する共同開発を行ってきた。2014年のCESでは、Google(現在のAlphabet)推奨OS(Operating System)のAndroidをIVI(In Vehicle Infotainment)で標準化する、OAA(Open Automotive Alliance)を発表した際、AUDIの技術部門の役員が、NVIDIAが開発した小型の基盤を手にした。
そして「自動運転に関して最も重要な技術は、AIである。その実装に向けて我々は長年研究開発を続けていたが、これまでの車両のトランクルームに複雑な配線と大型の演算装置を搭載してきた。それがついに、このように片手で持てるほどの小型化に成功した」と話した。その記者会見には、NVIDIAの創業者でCEOのジェンスン・ファン氏も同席していた。
その後、この基盤は2015年に、「DRIVE PX」として発表され、2016年には量産モデルの「DRIVE PX2」へと進化した。

当初は、AUDI、VOLVOなど向けとして販売されたが、2017年に入ってからは世界各地の自動車メーカー、自動車部品メーカーへの販売が急速に進んでおり、2018年には合計200社近くに達するという。
そうしたなか、今回のGTCの基調講演で発表されたのが、トヨタとの提携だ。これまで、Jetsonを搭載した医療介護ロボットで培ってきた関係を、トヨタのメインビジネスである自動車分野へと発展させた形だ。

NVIDIAとしては、トヨタとの連携をマーケティング対応としても積極的に活用することで、さらに多くの自動車関連企業に対して、「DRIVE PX2」を普及させることで、事実上の標準化であるデファクトスタンダートを狙う考えだ。

 米IT産業の本格進出で、自動車産業のサプライチェーンが崩れる

トヨタとNVIDIAの事業連携の強化について、自動車産業界からは「想定外のことで、驚いている」という声を数多く聞く。なぜならば、トヨタの自動運転システムについてはこれまで、同社の子会社であるデンソーや、車載用のマイコン(マイクロプロセッサー)で最大手のルネサスエレクトロニクスとの技術的な連携が重要視されてきたからだ。
また、トヨタは近年、自動ブレーキなどADAS(Advanced Driver Assistance Systems:高度運転支援システム)では独Continentalからの部品購入を決めた一方で、NVIDIAはContinentalの競合である独Boschとの連携を進めている。

NVIDIAの他には、PC(Personal Computer)向けのCPU最大手の米Intelも自動運転ビジネスでのデファクトスタンダードを狙う動きを強化されている。
従来、半導体メーカーは自動車産業のサプライチェーンの中では、ティア2(第二次下請け)の立場であった。しかし、自動運転やAIをきっかけとして、自動車産業の今後の動向を大きく左右する主力産業へと一気に変革しようとしている。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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