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ITS業界記事 国が示す「現実的な」自動運転ロードマップと、最新スバルアイサイトXの体感レポート

 見えてきた自動運転の将来像

経済産業省は2015年2月から「自動走行ビジネス検討会」を立ち上げ、産学官の連携で自動運転の実現に向けて協議を進めてきた。
※「自動運転」と「自動走行」は大まかには同じ意味であるため、国が示す資料では自動走行として、また本文内での一般名詞としては「自動運転」とする。

 

「自動走行ビジネス検討会」が示す最新データは2022年4月現在、同年3月25日に公表された報告書案バージョン6.0である。
その中で、オーナーカー(自家用車)の「目指すべき将来像の実現に向けて」という図表が興味深い内容となっている。
横軸に、2022年を基点として、2025年、さらに2030年以降の年代を記載。
縦軸は、導入領域について主に広域にオーナーカー、狭域にサービスカー(トラック、バス、タクシーなどの商用車や公共交通機関)という振り分けをしている。

オーナーカーについては、2022年時点で自動運転レベル1~2が普及していると表現し、2025年にはレベル2やレベル3の導入促進をおこなうとした。
レベル1とは、同一車線で前車を追尾する形式の運転支援で、レベル2になると車線の自動変更などを伴う高度な支援も含まれることがある。
レベル3以上になると、運転の主体はクルマのシステムという考え方になり、法的な解釈と実際の製品とのバランスについて、国連を舞台に協議が進められてきた。日本メーカーではホンダが2021年に、世界初のレベル3乗用車を限定的に生産している。

さて、図表の中で注目すべきは、2030年以降になっても、オーナーカーの自動運転はレベル2~3にとどまった上で、そのさらなる普及を目指すとしている点だ。
レベル2~3については、あくまでもADAS(アドバンスド・ドライバー・アシスタンス・システム:高度運転支援システム)という枠組みに徹するとしているのだ。つまり、ADASのレベル2から自動運転としての意味合いが強いレベル3に、自動車産業界全体を引き上げることを急がないということだ。
一方、サービスカーについては、2022年時点ですでにレベル4を導入していると判断している。その上で、2025年時点では国内40カ所でレベル4サービスカーの導入を促進し、2030年以降はレベル4サービスカーの本格普及を目指すという図式だ。

こうしたオーナーカーとサービスカーの進化のなかで、両者は様々な要件で連携する。
具体的には、地図、通信インフラ、人間工学、サイバーセキュリティ、安全性評価などをサービスカーの協調領域として商品やサービスに落とし込み、オーナーカーとも共有していく。
また、オーナーカーからサービスカーに対しては、センサーやカメラなどハードウエアやソフトウエアの量産効果によって、サービスカーのコスト削減に結びつけるという考え方だ。

あらためてこの図表を俯瞰してみると、国が2010年代半ばから自動運転に関する技術、法律、国際協調、人材育成など多面的な協議をオールジャパン体制でおこなった成果がうかがえる。
こうした自動運転の将来像に関する図表は、これまで官民ITSロードマップとして示されてきた。ITSとは、インテリジェント・トランスポート・システムズ(高度道路交通システム)を指す。
官民ITSロードマップでは、縦軸を自動運転レベルとし、横軸は自動運転の使用条件(ODD:オペレーショナル・デザイン・ドメイン。運行設計領域)としてきた。

この発想では、ゴールが完全自動運転のレベル5であり、そこを目指してオーナーカーとサービスカーが連携しあうという図式だった。
それが、自動運転とADASの本格普及期となる2020年代では、これまで国内各所でおこなってきた各種の自動運転実証試験や、ADAS量産化に伴うユーザーや販売店の声を受けて、学術的な観点やメーカー側の技術的な観点を強めた形のロードマップではなく、あくまでも社会実態に見合った「現実的な」ロードマップへと変わったといえるだろう。
さらに、官民ITSロードマップの新しい形については筆者も委員を務め、2022年4月から実施されているデジタル庁の「デジタル交通社会のありかたに関する研究会」の中で協議されているところだ。

 当面、オーナーカーは高度なレベル2の熟成

自動走行ビジネス検討会の報告書案バージョン6が示すように、オーナーカーでは当面、自動運転レベル2が主体の可能性が高い。
そうした将来像の基盤として最新型のレベル2対応システムである、スバル「アイサイトX」をあらためて体感してみた。
アイサイトXは、一定条件を満たした自動車専用道路で、GPSや準天頂衛星「みちびき」などからの位置情報と、車線単位の道路情報を持つ三次元高精度地図データを組み合わせてADASの機能を拡充している。

試乗車は、スバルが2021年10月に発売した「アウトバック」。全モデルでアイサイトXを標準装備する。
試乗は東京を中心に関東圏内で4日間おこない、高速道路や一般道路を400kmほど走行した。
アイサイトXを作動させるためには、自動車専用道で、まずは通常のアイサイトをオンにする。そのうえで、三次元地図データと衛星測位情報の取得状況によって、アイサイトXの作動可能の表示がダッシュボード内に出たら、アイサイトXの作動ボタンをオンにするというプロセスを踏む。

アイサイトXでは、例えば、渋滞中の時速0kmから時速50kmで一定条件を満たすと、ステアリングから手を離すことができる。渋滞中に前車が完全に止まり、こちらも停止した後、前車が動き出すとこちらも自動的に発進する。
渋滞中に通常アイサイトとアイサイトXを使い分けた感想として、ステアリングから手を完全に離すことには正直、抵抗感があるが、停止からの自動発進はとても有効に感じた。
アクティブレーンアシストは、いわゆる自動車線変更の機能だ。時速約70km~120kmでウインカーを操作すると、周囲の状況をシステムが判断して自動で車線変更する。この機能には安心や心強さを感じた。

そのほか、カーブの曲率に合わせて自動で減速する機能もあり、法定時速よりプラス時速10km(法定速度より走行速度を高めにアイサイトXで設定した場合)ほどまで減速することで、周囲の交通の流れとのバランスがとれていた。
また、高速道路の料金所手前で自動減速する機能では、徐行速度が時速約20kmと、道路事業者が推奨する速度になる。だが、多くのクルマが時速30km~40km程度にしか減速しないため、料金所通過で”あおり運転”を受けるような印象もあった。

通常のアイサイトは自動運転レベル2であり、アイサイトXは”高度なレベル2”という解釈になるだろう。
スバルのアイサイト開発者は「レベル3量産のハードルはとても高い」と説明しており、2020年代はアイサイトXの量産拡充と、レベル2を維持したままでのさらなる技術進化が進むことが予想される。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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