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ITS業界記事 世界初。自動運転レベル3を認めたドイツ ~不透明なアメリカはリーダーであり続けられるか?~

 アメリカ政府の方針は今後も変わらないのか?

アメリカ政府の諮問機関である道路研究委員会(Transportation Research Board)が主催の自動運転のシンポジウムを取材した。
正式名称は、AUVSI Automated Vehicle シンポジウム2017(2017年7月11日~13日、於:米カリフォルニア州サンフランシスコ)という。AUVSIとは、Association for Unmanned Vehicle System Internationalという非営利団体だ。

このシンポジウムは過去6年間、毎年開催されており、今年は過去最高の1400人が参加した。参加者の業種は自動車メーカー、自動車部品メーカー、ITメーカー、電子機器メーカー、官公庁などで、地域はアメリカ、日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、ドイツ、フランス、スウェーデンなど世界各国である。 なぜ、このシンポジウムが注目されるかというと、自動運転の法整備や技術革新において、アメリカの存在が世界の中で最も大きいからだ。

しかし、アメリカ政府の自動運転に関する今後の方針がはっきりしていない。今回のシンポジウムでは、自動運転を所管するアメリカの行政機関の関係者が出席しなかったのだ。
昨年の同シンポジウムでは、米運輸省(DOT)と米高速道路交通局(NHTSA)の両長官が登壇し、アメリカ政府としての自動運転に関する方針について発言した。その2ケ月ほど後の2016年9月後半、米運輸省は自動運転に関するガイドラインを公表した。今回のシンポジウムでは、政府と民間企業でつくる次世代交通のコンソーシアムの関係者が、「昨年発表した自動運転ガイドラインを継承する」と発言するに留まった。
シンポジウムの参加者からは「現時点でNHTSA長官が任命されていないなど、トランプ政権が発足した後、アメリカの自動運転に関する今後の方向性が見えてこない」という声も数多く聞かれた。

 戦前から始まった自動運転の歴史、アメリカは牽引し続けられるのか?

自動運転の実用化について、先行き不透明な雰囲気があるアメリカ。それでも、アメリカが今後も自動運転に関する世界のリーダーであり続けるのだろうか?
自動車産業界で今、最もホットな話題は自動運転だ。自動車メーカー各社が自動ブレーキや自動ハンドルなど技術を量産化している。また、ベンチャー企業を中心としてドライバーレスと呼ばれる無人運転を事業化する動きが進んでいる。
こうした現在の自動運転のトレンドを牽引してきたのは、アメリカだ。

自動運転の歴史を紐解くと、ゼネラルモータース(GM)がいまから約80年前のニューヨーク万博で『オートメイテッド・ハイウエイ』という考え方を披露したことが原点と言われている。これは、未来の都市構造を大規模なジオラマで表現した中で、未来の高速道路は交通管制センターによって自動運転化されるという発想だ。
時代が進み、第二次世界大戦後にはGMや大手電機メーカーのRCAと実車による自動運転の走行テストを行っている。
しかし、自動車が周囲の状況を認識する技術を小型で安価にすることは極めて難しく、自動運転の量産化へのハードルは高かった。

大きな時代変化が訪れたのは2000年代に入ってからだ。IT産業の急速な発展により、演算能力が高い半導体が次々と市場投入され、またレーザーやレーダーなどを利用する各種センサーの小型化も進んだ。さらに、クルマとクラウドが通信することで走行データや位置情報の解析の精度が上がった。
こうした様々なIT技術が、アメリカの政府系研究機関や、シリコンバレーやワシントン州シアトル周辺の大手IT企業によって飛躍的な進化を遂げた。
技術の急速な進化に加えて、アメリカでは州政府がそれぞれ、道路交通法に対する独自の解釈が可能であり、ネバダ州やカリフォルニア州などが公道での自動運転走行を積極的に承認し、世界の自動車メーカーが自動運転の実験車を持ち込んだ。

技術があり、そして法整備を進めることで、アメリカは自動運転の実用化に向けた呼び水を引いてきたのだ。
この流れを、米運輸省が今後、止めてしまうことはないだろう。だが、現時点でNHTSA長官が不在という事態を見ても分かるように、アメリカの交通行政の先行きが不透明であり、その影響が自動運転に及んでいることは明らかだ。

 世界初。自動運転レベル3を認めたドイツの影響力

今回のシンポジウムが開催された翌週、米下院では自動運転の法整備に関する法案が可決された。これは、現在は州政府ごとに解釈がばらばらになっている自動運転の公道試験や、量産化に向けたルールについて、連邦政府としての方針を示すものだ。今後、同法案は上院での審議に移る。

こうしたアメリカでの法整備の動きがある一方で、ドイツはアメリカより一歩先に、自動運転に関する条項を盛り込んだ道路交通法の改正を6月に行った。
これを受けて、VWグループの高級ブランドであるアウディは7月上旬、レベル3の自動運転機能を搭載する大型セダンの新型A8を世界披露した。レベル3とは、自動運転中の車両制御を運転者ではなく、車両側のシステムが担うものだ。
レベル3を認めたのは、ドイツは世界で初めてだ。

その背景には、道路交通法の世界的な取り決めである、ジュネーブ条約とウイーン条約という2つの条約の”ねじれ現象”がある。
日本やアメリカが加盟していない、ウイーン条約では自動運転を加味した条約の改正が2016年3月に発効している。一方で、ジュネーブ条約の改正の目途が現時点では立っていない状況だ。
ドイツとしては、日米に先んじて自動運転に関するイニシアチブを取ろうと、ウイーン条約を盾にドイツ国内法を改正し、自動運転の先進国というイメージを実現したのだ。
これまで自動運転の法整備と技術確認を牽引してきたアメリカが、ドイツの追い上げを受ける中、今後どのような動きを見せるのかに注目が集まっている。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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