FURUNO ITS Journal FURUNO ITS Journal

ITS業界記事 2024年4月解禁、どうなる?「日本版ライドシェア」

 議論加速の背景

最近、ライドシェアに関する議論が国、地方自治体、タクシー事業者などの間で高まっている。
ライドシェアとは、普通免許しか持たないドライバーが乗用車を使ってタクシーのような旅客運送を行うことを指す。

大きなキッカケは、岸田総理が2023年10月、臨時国会の所信表明演説の中で「ライドシェアの課題に取り組む」と発言したことだ。
それを受けて、内閣府の規制改革推進会議・地域産業活性化ワーキングで、いわゆる「日本版ライドシェア」の早期導入に向けた議論が加速した。また、神奈川県では同月、神奈川版ライドシェアを県が独自に検討し、三浦市で実証試験を行うことで調整に入った。

こうした中、規制改革推進会議・地域産業活性化ワーキングでは同年11月上旬から12月中旬にかけての合計4回の議論を経た結果、同年12月20日の規制改革推進会議で、岸田総理が日本版ライドシェアの2024年4月解禁に向けた事実上のGOサインを出したというのが、これまでの流れだ。

だが、日本版ライドシェアについて短期間に集中的な議論が行なわれ、2024年4月を目途に日本版ライドシェアが解禁されることに対して、ライドシェアの議論にかかわるタクシー会社など各種業界、そして国民の間で賛否両論があるのが実状だ。

 既存の「日本版ライドシェア」で見えた、実現への難しさ

では、ライドシェアについて詳しく見ていこう。
そもそも、ライドシェアとは、ライド(クルマの乗車すること)をシェア(分担すること)である。そのため、地方部などですでに普及している「乗合タクシー」も、実質的にはライドシェアである。

また、同じく地方部で導入されている、自家用有償旅客運送がある。名称がかなり長く、分かりにくい印象がある行政用語だが、要するに、自家用車を使って、乗車する人から料金を徴収する旅客行為という意味だ。
道路交通法では、自家用有償旅客運送は大きく2つの目的で許可されるとしている。
ひとつは、バスやタクシーなど公共交通の利用が不便である地域。もうひとつが、福祉にかかわる場合だ。いずれのケースでも、その地域のバス、電車、タクシーなどの交通事業者、地域住民、そして自治体が参加する地域公共交通会議での十分な議論を必要としている。
議論の末、国土交通省に対して申請を出すのだが、議論がまとまるまで数カ月から1年以上という長い年月を費やすことも珍しくない。
実際、筆者は2010年代後半から福井県永平寺町で自家用有償旅客運送の導入に深くかかわったが、同町での自家用有償旅客運送の導入は比較的スムーズに進んだと思う。背景にあるのは、同町内で実証試験を行なってきた、自動運転だ。

過去記事:人材育成を目指す、オンライン自動運転コンテスト

その上で、永平寺町では自動運転だけでなく、町内および町の周辺地域における交通課題について、永平寺MaaS会議を開催し、自家用有償旅客運送の導入についても議論を進めた。最終的には、地域公共交通会議での承認を得て社会実装している。

こうした永平寺町での体験から言えるのは、日本版ライドシェアともいえる自家用有償旅客運送を実現するためには、市町村レベルの自治体が人口分布、住民の年齢構成、そして地域産業の実態など、地域社会の大きな変化を自治体が直視し、住民との間で地域交通に対する地道で継続的な話し合いがとても大事だということだ。

見方を変えれば、多くの自治体が地域交通における課題を抱えているにもかかわらず、その解決に向けて抜本的な変革に着手できていないと言えるだろう。地域交通の変革は、地域住民の生活に自治体が深く踏み込むことであり、そうした面倒なことを積極的に進める自治体が極めて少ないのが実状だ。

また、自家用有償旅客運送では地域住民がドライバーを担当する場合があるが、時給は地域別の最低賃金を採用するなど、ドライバーは地域社会に対するボランティアという位置付けが色濃い。
そのため、ボランティア活動を次の世代にうまく伝承することが大きな課題である。
永平寺町の場合、車両は町役場が所有し、運行管理は自動運転と同じく町が出資する企業が行なっている。ドライバーは、運行している3地域それぞれの有志で、企業や団体の退職者や、農業などを主業とする60代から70代の男性である。

 アメリカ版ライドシェアは日本に適合しづらい?

一方で、海外でのライドシェアは、自家用有償旅客運送や乗合タクシーとは、運用上の基本的システムが異なる。
なかでも、2010年代中盤頃から急速に普及したアメリカでのライドシェアの場合、使用する車両は個人が所有し、運用は、ソフトウエアで設計されたプラットフォームを、プラットフォーマーがおこなう。プラットフォーマーは個人ドライバーと個別の契約を結ぶ。
代表的な事例として、ウーバー(Uber)とリフト(Lyft)がある。

日本でもウーバーは事業展開しているが、ハイヤー等の予約アプリの提供や、飲食関連の個別配達を行なうウーバーイーツなどに限定しており、ライドシェア事業は行なってない。また、今回の規制改革推進会議での議論においても、現時点(2023年末)では、アメリカ型ライドシェアをそのまま日本に導入という方針は打ち出していない。だが、同会議での議論においても、ウーバーなど海外版ライドシェアが日本で解禁になるというイメージを持つ人が少なくない。

では、議論の中身はどうなっているのか?
論点は大まかに、以下の3点である。

① タクシー事業の規制緩和による、タクシーの利便性向上
② 自家用有償旅客運送に関する、道路運送法
③ ①と②で不足する領域を踏まえた、ライドシェアに係わる新法の制定

その上で、2024年4月での解禁を目指すのは、タクシー事業者が自家用車を使い、ドライバーは普通免許所有者が担う仕組みだ。
タクシー事業者とドライバーとの雇用、または契約の関係や、ドライバーに対する教育や運行管理、乗客の安全性、事故の際の保険や補償といった要件については今後、国から基準やガイドラインが示されることになるだろう。

こうして見ると、現時点で国が2024年4月導入を目指す日本版ライドシェアは、日本版ライドシェア導入推進派と慎重派の主張に対する、国の折衷案という印象がある。
これをベースに、日本の社会環境や商習慣とのバランスをとりながらブラッシュアップされていくことになるのだろうか?

いずれにしても、日本版ライドシェアに係わる各種の法改正や新法制定が今後行なわれたとしても、日本版ライドシェアを実施するかどうかは、それぞれの地域の判断に委ねられる。

日本版ライドシェアについては今後も継続的に取材、また関連する各方面との意見交換を進めていきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料) FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料)

FURUNO ITS Journal

2024年の記事

2023年の記事

2022年の記事

2021年の記事

2020年の記事

2019年の記事

2018年の記事

2017年の記事

2016年の記事

2015年の記事