FURUNO ITS Journal FURUNO ITS Journal

ITS業界記事 トヨタ主導のコネクテッド技術で商用車ビジネスが大きく転換
~軽トラから大型トラック・バスまで~

 5社連携で、カーボンニュートラル実現に向けた大きな一歩

ついに、商用車ビジネスが大きな転換期を迎えた。
トヨタ、スズキ、ダイハツの3社の社長が2021年7月21日に共同記者会見を開き、3社が軽商用車の事業で協業することを明らかにした。
スズキとダイハツはこれまで長年に渡り、軽自動車市場でライバル関係にあったが、いわゆる”100年に一度の自動車産業大変革”に直面する中、トヨタが2社の間を取り持つかたちで今回の協業が実現した。

具体的には、トヨタ、いすゞ、日野が2021年3月に事業連携を発表した際、トヨタが主導するかたちでコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ(CJP)という合弁企業が設立されたが、そこにスズキとダイハツが加わる。
5社体制を敷くことによって、CJPは日本国内で製造および販売する商用車全体の7割から8割を占めることになる。また、大型バス・トラックによる長距離輸送、中小型トラックによる都市内・地域内の輸送、そして軽トラックなどによる小口配送までをフルカバーする。

5社が連携する目的は大きく2つある。
まず、環境問題については当然、カーボンニュートラルへの対応だ。
日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを実現するとして、2020年12月にグリーン成長戦略を示した。
カーボンニュートラルとは、企業や個人が社会活動の中で排出する二酸化炭素(CO2)と森林など自然界が吸収する量を相殺するという考え方だ。
また、2021年1月の通常国会の施政方針演説で菅首相は「遅くとも2035年までに軽自動車を含めて新車100%を電動化する」と明言しており、軽自動車におけるスズキとダイハツの連携は不可欠だと見られていた。

 CJPが商用車の壁を取り払う

もうひとつの目的は、「顧客の利便性を高めること」である。
自動車メーカーにとっての顧客とは、輸送会社や荷主であり、また荷物を受けとったりスーパーで買い物をしたりする一般市民でもある。

モノの動き、つまり物流の全体像を自動車メーカー側がしっかり把握することで、配送事業者間の連携を強化し、輸送時間と配達時間をトータルで短縮することで、コスト削減や食料品の鮮度を保つことができる。
見方を変えると、現時点では物流全体を一気通貫するような仕組みがほとんど存在していないといえる。

商用車市場を数字で確認すると、日本国内の自動車保有台数は7800万台あり、このうちの約4割にあたる3100万台が軽自動車である。さらに、3100万台の約1/4となる800万台が軽商用車で占められている。
軽商用車ではスズキ「キャリィ」やダイハツ「ハイゼット」などの小型ワンボックスカーが、ヤマト運輸や佐川急便など大手輸送業者の小口配送として使われている。
また、スズキ「キャリィトラック」やダイハツ「ハイゼットトラック」などの軽トラックは、農業、建設、建築など幅広い分野で活用されている。

一方、別の視点で物流業界を見ると、日本の物流業者は全体で約6万社あり、そのうち約7割が個人または従業員20人以下の小規模事業者である。
スズキの鈴木俊宏社長とダイハツの奥平総一郎社長は「物流の現場は、人の経験に基づく知恵や勘によって運営されている」と表現している。
換言すれば、個社の運用方法のデータ化や、業者間でのデータ共通化が行われているケースは少ないことになる。

こうした状況をCJPが構築するデータ管理システムによって刷新する。
これまで自動車メーカー側では把握しきれていなかった現場の声を吸い上げ、様々な企画を考案する。
その上で、全国各地で実証する。
トヨタの豊田章男社長が常々言っている「まずは、やってみる」という有言実行型の事業戦略を物流事業全体でも行うのだ。
「顧客第一主義」と「現場第一主義」の発想から、これまでいすゞ、日野、スズキ、ダイハツのそれぞれが独自に構築してきたコネクテッド技術を、トヨタ主導で共通化を図る。

 電動化対応と、軽商用車以外での協業

カーボンニュートラルに向けた電動化について、電動部品や車体などの共通化をどのように進めるのか?
この点について、ダイハツの奥平社長は「EV CAS(イーブイ・キャス)やZEVファクトリーですでに開発の実績がある」と説明した。

EV CASは、トヨタ、デンソー、マツダが主体となって設立したEV関連技術の共同開発会社「EV C.A.スピリット」のことだ。
当初の目的を達成したとして、すでに同社は解散している。
またZEVファクトリーはトヨタ社内のEV開発部門である。
その上で奥平社長は「当然、スズキとの電動化技術の協業は進めるが、具体的な進め方はこれから本格的に協議していく」というに止めた。

そのほかに注目されたのは、軽乗用車での連携だ。
スズキの鈴木社長は「今回は軽商用車についての協業だが、当然、軽乗用車での協業も進める」という。
トヨタ主導で一気に動き出した、商業車ビジネスの改革。
商用車のみならず、乗用車でもトヨタを軸足とした新たなる企業連携が進みそうだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料) FURUNO ITS Journal メール会員募集中!「ITS業界に関する情報」や「フルノ情報」などをお届けします(登録無料)

FURUNO ITS Journal

2024年の記事

2023年の記事

2022年の記事

2021年の記事

2020年の記事

2019年の記事

2018年の記事

2017年の記事

2016年の記事

2015年の記事