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ITS業界記事 「2030年ガソリン車禁止」で変わる、CASEの行方

 相次ぐ報道や発表で自動車業界は混乱

「概要については、ある程度の情報は事前に入っていたが、まさか…」。
自動車メーカー関係者らは、一同に戸惑いの表情を見せる。
ついに、日本でも”クルマの電動化・義務化”の動きが加速しそうだ。

きっかけはもちろん、菅政権が主要政策として掲げている「2050年カーボンニュートラル」だ。カーボンニュートラルとは各種の産業から排出するCO2量と、森林など自然環境などを主体として吸収されるCO2量が理論上、相殺されることを指す。
2020年12月に入り、政府は第五回成長戦略会議を開き、「ウィズコロナ」または「アフターコロナ」における、経済成長を目指した実行計画をまとめた。

その中で、自動車の電動化が世界市場で活発化しており、日本の産業競争力を強化するために、電動化に向けて積極的なアクションを起こすべきだとの提言がある。
これを受ける形で、一部メディアで「2030年前半のガソリン車禁止に向けて政府が最終調整」という報道が相次いだ。その後、2030年前半ではなく「2030年中頃」と、報道される内容が修正された。

これについて筆者は、法案をまとめている経済産業省に対して自動車メーカーから、規制開始の目途について修正を要望する声が挙がったのではないかと推測する。
本稿執筆時点で、政府からクルマの電動化政策に関する正式な発表はない。

一方、東京都の小池百合子知事は12月8日の都議会の代表質問で「2030年までに都内の乗用車新車販売を100%”非ガソリン化”する」と発言した。
東京都環境局は2019年に「ゼロエミッション東京戦略」を公開しており、電動車であるZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)の乗用車の新車販売を2030年までに市場全体の50%にすると公表している。これを、小池知事は倍増するというのだ。
こうした小池都知事の突然の発言に対して、自動車メーカー各社からは実現の難しさを指摘する声が聞かれる。

  なぜこのタイミングなのか?

政府や東京都が相次いで打ち出した、「2030年代のガソリン車・新車販売の禁止」。
その背景にあるのは、欧州、アメリカ、中国などに対する”出遅れ感”だ。

多くの自動車エンジニアは、電動化の発展はハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV(電気自動車)、そしてFCV(燃料電池車)へと段階的に拡大すると見てきた。
その上で、日本はハイブリッド車の普及率が約3割と、世界市場の中で突出して高い数字であり、クルマの電動化技術では世界をリードしていると自負してきた。
日産が2010年代初頭、また独フォルクスワーゲングループが2010年代半ばに「EVシフト」を掲げたり、またテスラが「モデル3」の販売台数を大きく伸ばしても、日本政府としては、これらを個別企業の事業戦略として捉えて、市場全体としては大きな変化が起こらないと予測してきた。

ところが2010年代後半になり、ESG投資の影響による世界的な電動化トレンドが生まれた。ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、Environment(環境)、Social (社会)、Governance(ガバナンス)の要素を考慮した投資のことだ。
こうした市場状況の急変に対して、自動車エンジニアのみならず、自動車メーカー経営陣の中からは「進展があまりに早く、不自然だ」という声が聞かれる。
そうした中で、日本政府と東京都が、クルマの電動化に大きくシフトすると発表したのだ。

確かに、クルマの電動化はCO2排出量の削減で大きな効果が見込める。
CO2排出量の内訳は、エネルギー産業が約43%、製造業と建設業が約24%、運輸が約18%を占める。自動車は運輸部門の約9割だが、自動車の製造や、ガソリン精製などを加味すると、自動車関連の産業全体としてのCO2排出量は大きいからだ。
とはいえ、政府と東京都の「2030年代ガソリン車・新車販売禁止」に対して、自動車業界からは”唐突な動き”という印象を持つ人が多い。

 CASEの行方

そもそも、自動車産業界では2010年代中頃から「100年に一度の変革期」と言われるようになり、時代変化への準備を着々と進めてきた。背景にあるのが、CASE(コネクテッド・自動運転・シェアード/サービス・電動化)だ。
本来、CASEの中で技術的な進捗が最も分かりやすいのが電動化だ。前述のように、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、そしてFCVという技術進化と市場拡大の道筋が分かりやすいからだ。海外でのZEV法、NEV政策、欧州CO2規制など、規制の内容がある程度固まっていれば、自動車メーカーや自動車部品メーカーにとっても研究開発のロードマップを描きやすい。

一方で、コネクテッド、自動運転、シェアード/サービスの分野は、IT系企業やベンチャー企業などが、市場動向の変化を見据えたアジャイル開発をするなど、製品開発のリードタイムが短く、または開発方針が素早く転換されることもあり、市場の将来予測が立てづらい。

今回の日本政府や東京都の政策の進め方は、本来はじっくりと議論を進めて現状の業界関係企業が持続可能な戦略を示すべきところ、唐突の発表と、実施の目標年までの期間が短いことで、自動車業界に与える心理的かつ資金的なプレッシャーが強い。
別の見方をすれば、電動化の考え方は未だに、ガソリン車からの買い替え需要を想定している印象が強い。理想的には、車両の製造台数と販売台数を減らすことによって、製造領域、エネルギー領域、運輸領域のトータルでのCO2削減につながるはずだ。

CASEとは、そうした総括的な「クルマと社会」の関係性の適切化が目的とされている。
その中でいま、CASEの「E」だけがひとり歩きし始めているように感じる。
日本の電動化政策の行方を、これからもしっかりと見守っていきたい。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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