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ITS業界記事 自動運転の鍵「リアルな三次元地図」の構築へ!屋内は歩行者版デッドレコニング(PDR)?

 自動運転に関して、オールジャパンで新たな会社設立が決定

クルマに係る地図について、日本で新たなる動きがあった。
2016年5月19日、「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」という企業の設立が発表された。これは、自動運転に関する日本独自の地図を構築するものだ。

日本での自動運転は、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が主体となり、自動車メーカーや大学などが産学官連携を進めている。そのなかで、議論されてきた高精度な三次元地図。現在カーナビゲーションで使用されている、二次元地図を用いた簡易的な三次元表示ではなく、地図を計測する時点からレーザーレーダー(ライダー)やカメラによって「リアルな三次元」のデータを収集するものだ。
SIPには、地図事業に関係する企業も招集されている。具体的には、測定器では三菱電機、ソフトウエアではパスコとアイサンテクノロジー、そして地図を生成する分野ではゼンリン、インクリメントP、トヨタマップマスターが参画している。これら6社はこれまでに、「ダイナミックマップはどうなるべきか?」に関して議論を深めてきた。

このダイナミックマップには、大きく2つの領域がある。ひとつは高精度な三次元地図で、もう一つは走行している車両から送信される走行履歴や走行状態に関する「プローブデータ」だ。自動運転で最も重要なのは、自車位置を正確に理解したうえで、自車の周辺状況がどのように変化しているかを逐一知ることだ。さらには、交通規制や気象情報など、走行に関与する最新情報を常に知る必要もある。
ダイナミックマップでは、こうした自動運転に係るビックデータを短時間に収集・解析することで、「地図のライブ感」を実現するのが狙いだ。

今回設立される「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」では、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱自工、スズキ、富士重工、いすゞ、日野の自動車を製造する9社も参画し、全国の自動車専用道路と一般道での運用を実現するため、ダイナミックマップのデータ仕様とデータ構築方法の標準化を目指す。

国は、ダイナミックマップを自動車関連事業者にとっての「協調領域」と位置付けている。メーカー間での「競争」を避けることで、各メーカーの自動運転開発コストの低減を目指す。

ただし、自動運転に係る地図ビジネスでは、2015年にダイムラー、BMW、VWが買収したドイツのHere、アップルがiphoneなどで使用しているオランダのトムトム、そして自社で自動運転車の開発を進めているグーグル、これら3社がデファクトスタンダード(事実上の標準化)を狙っている。こうした世界トップ3地図メーカーと日本のダイナミックマップが、今後どのように協調するかが大きな課題だ。その点について、SIPに参画する地図関連企業関係者は、筆者との意見交換のなかで「結局、Hereとのデータ互換性を持たせることに落ち着くのではないか」と語っている。

 屋内位置情報で気になる、PDRとは?

自動運転の地図の議論のなかで、「これからは屋内移動の重要性が高まる」という声がある。

今後、クルマの電動化が進み、大衆車の多くがEVになれば排気ガスを気にすることがなくなるため、屋外から屋内へのクルマが直接乗り入れる機会が増えると予想されるからだ。
その場合、屋外については、前述のようにHereやダイナミックマップなどを利用できるが、屋内に入った瞬間に「別の種類の地図」が必要となる。
屋内地図の上では、屋外のようにGPSなどの衛星測位が利用できない。そのため、Wi-Fiやビーコンによる位置測定が利用されている。ただし、日常生活のなかので実用性が高くないことから、一般的な利用はあまり進んでおらず、商業施設や製造工場などでの人の流れの分析などでの活用に限定されているのが実情だ。

こうしたなか、注目される屋内の位置測定技術がPDR (Pedestrian Dead-Reckoning)だ。
Pedestrianとあるように、対象は歩行者である。

測定方法は、加速度、角速度、磁気、気圧による10軸センサーを基盤として、歩行の動作、移動速度の方向(ベクトル)、人の姿勢、そして相対高度変化量を推定するものだ。こうしたデータを、測定位置の点の集合として集めるのではなく、形と曲率を考慮した線で軌跡を描くことが可能だ。
この領域について、日本ではPDRベンチマーク標準委員会があり、2016年5月25日時点で、旭化成、アジア航測、KDDI研究所、国際航業、シャープ、日立、リコーなど33組織が参画。すでに、半導体メーカーのメガチップスが専用半導体を開発し、省電力のモーションセンサーを実用化している。また、NTTドコモとゼンリンデータコムでは、スマホ向けの「ドコモ地図ナビ powered byいつもNAVI」で、全国の地下街や地下鉄駅構内に対応している。

 屋外と屋内の壁がなくなる社会へ

現在、自動運転に対応したPDRの開発は行われていない。今後は、Wi-FiやビーコンとPDRが連携した屋内位置情報と、屋外の位置情報が、切れ目ない状態でつながることが予想される。

セダンやミニバンなどの乗用車、またはバスなどの大型車両での自動運転では、屋外から屋内への直接乗り入れは、駐車場などの一部エリアに限定される可能性が高い。
一方、セグウェイやトヨタのウイングレットなどの搭乗型ロボットや、国土交通省が車両規格化を検討している超小型モビリティでの自動運転の場合、屋外から屋内へ乗り入れた後も、そのまま移動手段として利用ことが想定される。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは是非、そうした「屋内・屋外の壁」を感じさせない世界最先端の自動運転デモンストレーションを見てみたいものだ。

記事のライター

桃田 健史氏

桃田 健史   自動車ジャーナリスト

専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。
一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。
インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。
海外モーターショーなどテレビ解説。
近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

 

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